都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「野地美樹子展」 いつき美術画廊 11/12

「野地美樹子展」
11/7~16
主に日本画の技法を用いて、椅子や樹木、それに花々などを、淡いタッチで描く野地美樹子さんの個展です。1978年生まれの若い方で、院展入選の経験もおありな、新進気鋭の日本画画家でいらっしゃるようです。「芸力 Recommend & Review」掲載の展覧会でもあります。
まずは、上に画像をアップした「秋の童話」です。窓に差し込む穏やかな薄明かりや、風にほのかに舞う美しく色付いた銀杏の葉、それに木々の淡い影が、日本画の顔料をもって、精緻に、また柔らかい感触で描かれています。下から窓を見上げたような構図感も素敵で、見ていてホッとするような温かさを感じさせます。この作品の白眉は、やはり「秋」の気配を存分に感じさせる部分でしょうか。吹き荒む木枯らしの心地よい冷気や、透き通った空気の気配をも意識させる作品です。
また作品の温かみと言えば、雪景色を描いた作品からもそれが感じられました。木々の立ち並ぶ一面の銀世界に、可愛らしい狐が一匹駆け抜ける様。特に印象的なのは木々から長く手前に伸びている影の描写です。陽の明かりが雪に反射して、画面いっぱいに燦々と降り注ぐ。それが木の影を介して、まるで光のシャワーを浴びているような気持ちにさせます。この個展に出品されていたものの中では、一番惹かれる作品です。
顔料と石膏を組み合わせて、画面に立体感をもたらした作品もいくつか並んでいました。その中では二つの椅子を描いた「Mandarin」が、特に素朴な味わいを感じさせる優れた作品でしょうか。二対の椅子の上には、トランプに果実、それに一輪の花が、静かに置かれています。右下には一匹の黒猫。尾を長く伸ばし、ちょこんと座るその可愛気な様子。石膏にて立体感を生み出した画面は、日本画の作品にもあったような温もりをさらに増す形で感じさせます。全体のややくすんだ色合いも味わい深く、少しいびつに曲がった椅子も、まるでそれが生きて呼吸しているかのように描かれていました。
日本画の題材としては王道的な存在でもある、桜や楓を描いた素朴な作品も展示されています。それぞれから沸き上がる事物の仄かな温かみ。そこにさらにものの重みが加われば、さらにより一層素晴らしくなっていくのではないかと思いました。明日までの開催です。
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エリアフ・インバル、都響に再登場!

私がインバルに接したのは、ただ一回きり、1999年10月の都響のコンサートでの「ワルキューレ第三幕」(演奏会方式)でした。私はその頃、丁度クラシックのコンサートへ通い始めた時期だったのですが、このコンサートの様子は今も深く印象に残っています。荒れ狂う弦と管の壮絶な咆哮。音楽の力感の凄みに心底驚き、また感銘しました。
当時のベルティーニとインバルは、都響を車の両輪ように支えていました。私はてっきり今後も、二人が都響でまた名演を繰り広げてくれるのかと思っていたのですが、いつの間にか気がつかないうちに、インバルの名が都響のラインナップから消えてしまったのです。(またベルティーニもあのような悲しい形となってしまいました。)もちろん、インバルはその後もフランクフルト放送響などと頻繁に来日しています。私がそれを聴きそびれているだけではありますが、あの日のコンサートは、インバルの名を心に深く留めさせました。彼は、私がクラシックに接した初めの頃に、生のコンサートの素晴らしさを教えてくれた指揮者の一人とも言えるでしょう。そしてその彼が、再び来年ステージへとあがるのです。これは待ちに待った朗報です。
予定では、来年11月19日のプロムナードコンサートと、24日の定期Aシリーズ、さらには25日のBシリーズに登場します。しかしながら、曲目はまだ未定です。同時に発表されていた他のコンサートのラインナップでは、全ての曲目が公表されていたので、少しヤキモキもさせるアナウンスですが、「また都響でインバルが聴ける。」と信じて、来年の11月を楽しみに待ちたいと思いました。
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