「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「土木展」 
6/24~9/25



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「土木展」を見てきました。

インフラほか、日常の生活のために不可欠な技術である土木。それをアートやデザインなどの観点も盛り込んで幅広く捉えようとしています。


「渋谷駅解体」 田中智之 2011年

はじめのテーマは「都市の風景」。田中智之の描いた駅の解体図が圧巻です。舞台は東京駅と新宿駅と渋谷駅。ともに国内有数のターミナルです。単に構内にとどまらず、派生する連絡通路、エスカレーター、さらに屋外の道路、ないしビルなどが見取り図の形で描いています。


「東京駅解体」 田中智之 2014年

いずれも緻密でかつ迫力満点です。また人の足跡までが事細かに記されています。人の流れを可視化していると言えるのではないでしょうか。駅がいかに交通の重要な連結点であるかを見ることが出来ます。


「土木オーケストラ」 ドローイングマニュアル 2016年

ラベルのボレロが聞こえてきました。「土木オーケストラ」です。巨大スクリーンに投影されるのはまさに現場そのもの。溶接、解体、またクレーンが動く様子などが映されています。ヘルメットをかぶり汗を落とす職人のアップもありました。高度経済成長期の記録です。そこへ時折、現在の渋谷駅の工事現場の光景がクロスします。ボレロはいわばBGMです。とは言え、単にオーケストラの演奏ではありません。ハンマーを打音などをコラージュしてボレロの音楽に取り込んでいるわけです。これが巧妙です。すぐには気がつきませんでした。


「キミのためにボクがいる。」 WOW 2016年

同じく映像では「キミのためにボクがいる。」も目立っていました。キミとは我々人間や動物たち。ではボクとは何を指すのでしょうか。消波ブロックやコンクリートブロックでした。災害を防ぐ土木の役割をアニメーションで伝えています。


「渋谷駅(2013)構内模型」 田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科田村研究室 2013年

田中圭介は渋谷駅の構内を模型で表しました。今も工事の続く渋谷駅。再現は2013年時点のものです。四方八方、触手のように延びる駅の階段やホーム。上下に階層が多く、極めて立体的なのが特徴です。地上は3階。銀座線です。そして副都心線でしょうか。地下は5階にまで及んでいます。渋谷駅の乗り換えは縦移動が多いことを改めて思い出しました。


「人孔」 設計領域 2016年

DESIGN SIGHTらしく体験型の展示が多いのもポイントです。「人孔」では本物のマンホールに潜り込むことが可能。ヘルメットをかぶっては下からアスファルト面へ顔を出すことも出来ます。


「ダイダラの砂箱」 桐山孝司+栞原寿行

ほか等高線をつくる体験展示も興味深い。砂に触れて自由に高低差を変えられます。地形と土木は密接に関わりあっています。


「ストラクチャー」 渡邊竜一+ローラン・ネイ 2016年

土木の関する素材についての言及もありました。例えばストラクチャー。厚さ僅か1ミリの板による橋の模型です。レーザーカット、ロボット溶接、そして職人の手作業などの複数の工程を経て完成しました。


「山」 公益社団法人 日本左官会議(挟土秀平、原田進、小林隆男、小沼充) 2016年

土を突き固めた版築によるピラミッドも登場。左官の技術です。仕上げ面を触っては風合いを味わうことも出来ました。


「Perfume Music Player Installation」  ライゾマティクスリサーチ 2016年

またライゾマティクスによる映像も大がかりなシステムです。スマホの位置情報とPerfumeの楽曲視聴データを連動させ、東京の交通網や人の流れを分析しています。


「BLUE WALL 永代橋設計圖(東京大学大学院工学系社会基盤学専攻所蔵)」 EAU 2016年

都市工学、建築、環境、交通計画など、多方面からなる土木。盛りだくさんな内容のゆえか、つまるところ「土木とは何か」という点がぼやけている感も否めませんでしたが、一つのとっかかりとして土木を知る機会ではあるのかもしれません。


「土木の道具」 ワークビジョンズ/西村浩 林隆青 2016年

会場内、スマホを片手に写真を撮りながら楽しんでいる方が多く見受けられました。


「建設機械グラフィック」 コマツ 2016年

9月25日まで開催されています。

「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:6月24日(金)~9月25日(日)
休館:火曜日。但し8月23日は開館。
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
 *8月23日(火)は17時まで開館。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館

国立新美術館
「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」
7/13~10/10 



国立新美術館で開催中の「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 を見てきました。

1817年、イタリアのヴェネツィアに設立されたアカデミア美術館。元は同地のアカデミーが管理していたヴェネツィア派の絵画コレクションに由来します。またナポレオンの占領時代には、市内で取り外された祭壇画を収集していたそうです。

現在の所蔵作品は約2000点です。うち中核となる14世紀から17世紀のヴェネツィア・ルネサンス絵画、約60点がやって来ました。


ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子(赤い智天使の聖母)」 1485-90年 

冒頭はルネサンスの夜明け。ヴェネツィアでのルネサンス美術はフィレンツェにやや遅れること1440年頃に始まりました。ベッリーニの「聖母子」が見事です。しっかり目を見つめあって寄り添う聖母子の姿。あどけないイエスはマリアの膝の上に座っています。マリアの手はかなり大きい。ちょうどイエスの身体を挟み込むように支えています。目立つのは上空の天使です。通称「赤い智天使」の名が示すように、姿形が全て赤く染まっています。後景の描写が緻密でした。山が連なり、川が流れ、家々の並ぶ様子が細かに描かれています。

クリヴェッリは対で2点です。「聖セヴァスティアヌス」に惹かれました。多くの矢で射抜かれたセヴァスティアヌス。目は虚ろで、口は半開き。もはや生気はありません。一部の矢は身体を突き抜けていました。如何にも痛々しい。背後のタペストリーらしき草花の模様が魅惑的です。まるでモリスの描くデザインのようでした。

お告げを聞くマリアを正面から捉えています。アントネッロ・デ・サリバの「受胎告知の聖母」です。書物を前に、やや右手を上げては、静かに佇むマリア。青いヴェールをまとっています。手前からかなり強い光が当たっているのでしょうか。陰影はドラマティックなまでに強い。口をややすぼめては横を見やる表情にはどこか余裕が感じられます。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子(アルベルティーニの聖母)」 1560年頃

ティツィアーノの「聖母子」も慈愛に満ちていました。右手で裸のイエスを支えるのがマリアです。表情にやや硬さがあるものの、左手をイエスに差し出しては心を通わせています。筆致はやや粗く、ぼんやりとした光が全てを包み込みます。やや小ぶりの作品です。おそらくは個人の注文によって制作されたと考えられているそうです。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「受胎告知」 1563-65年頃 サン・サルヴァドール聖堂

チラシ表紙を飾るのもティツィアーノです。名は「受胎告知」。高さ4メートル超にも及ぶ祭壇画です。サン・サルヴァドール聖堂を飾っていました。予想以上に大きい。迫力があります。天井高のある新美術館だからこそ実現した展示と言えるかもしれません。

構図からして劇的です。舞台上、左からやってきたのが大天使です。マリアは驚いたのか身を屈めています。手前のガラスの花瓶には百合が活けられていました。天は裂け、聖霊の白い鳩が降りています。周囲の天使のポーズも時にアクロバティックで動きがありました。全体を覆う金褐色の色彩も美しい。作品から数メートル離れて見ると一際輝いて見えました。受胎告知の瞬間そのものを見事に捉えています。

さてティツィアーノに次ぐのがティントレット、そしてヴェロネーゼでした。


ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)「聖母被昇天」 1550年頃

ティントレットの「聖母被昇天」も充実しています。かつてヴェネツィアにあったサン・スティン聖堂を飾った祭壇画です。使徒たちの囲む中、石棺から聖母が手を広げては天へ昇る様子を描いています。使徒たちは皆、驚き、慄いては、聖母を仰ぎ見ていました。色彩は全般的に明るい。特に着衣の赤が目に付きます。強い光を示しているのでしょうか。白いハイライトも効果的でした。

パオロ・ヴェロネーゼも優品揃いです。作品は工房作を含めて全部で5点。工房作の「羊飼いの礼拝」も華麗で美しい。天は透き通るように青く、聖家族を囲む羊飼いたちも優美です。造形や色彩の感覚がかのラファエロに由来するというのにも頷けます。


パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)「レパントの海戦の寓意」 1572-73年頃

同じくヴェロネーゼの「レパントの海戦の寓意」はどうでしょうか。1571年、時の神聖同盟軍がオスマン帝国に勝利した戦い記念して描かれた一枚、当初はより大きな作品だったと言われています。

ともかく目を引くのは無数の船団です。両軍入り混じってのまさに総力戦。たくさんの兵士が乗っています。よく見ると矢を放っています。一部では火の手もあがっていました。空は白い雲と黒い雲に分かれています。右の雲の下がオスマン帝国軍です。行く末を暗示しているのでしょう。一方の同盟軍には白い光が差し込んでいます。

上空にいるのは聖母やヴェネツィアの守護聖人たちです。さらにスペインやローマの聖人らもいます。その固い結束を表しているようです。


ヤコポ・バッサーノ(本名ヤコポ・ダル・ポンテ)「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」 1569年

バッサーノにも見入る作品がありました。「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」です。暗がりの荒野の中、ヒエロニムスが瞑想する様子を描いています。前には十字架のイエス、空には聖母子が浮かんでいました。野山しかり、自然の表現に臨場感があるのが目を引きます。バッサーノは一時、ヴェネツィアで過ごしたものの、生涯の大半をその北西の小都市で活動しました。彼が見ていた田舎の景色そのものもモチーフとして取り込まれていたのかもしれません。

ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノは1580年代の終わりから90年代にかけて他界します。その後のヴェネツィア絵画は3名のスタイルを受け継ぐ後継者の時代に入りました。さらに世代を降って活動したのが、ティツィアーノの作品に学んだパドヴァニーノです。

「オルフェウスとエウリュディケ」も力作ではないでしょうか。ギリシャ神話の1シーン、ちょうどオルフェウスがエウリュディケを地上に連れ戻そうとする様子を描いています。背景は暗く、どこかバロック絵画を思わせます。とは言え、衣服の色彩感にはヴェネツィア派の影響を見ることも出来なくはありません。エウリュディケはやや顔を赤らめてもいます。幾分と官能的でした。


ベルナルディーノ・リチーニオ「バルツォ帽をかぶった女性の肖像」 1530-40年頃

展示は基本的にヴェネツィア派を時代に沿って追っていますが、彼らの得意とした肖像画をまとめて見るセクションもありました。また意外なことにアカデミア美術館のコレクションがまとめて来日したのは初めてのことだそうです。

現在、国立新美術館では1階でルノワール展、2階でヴェネツィア展が行われています。ルノワールの方はかなり賑わっているようですが、ヴェネツィア展は今のところ混雑とは無縁です。空いている環境でじっくりと楽しむことが出来ました。

10月10日まで開催されています。

「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」@accademia2016) 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月13日(水)~10月10日(月・祝)
休館:火曜日。但し8月16日(火)は開館
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は夜20時まで開館。
 *8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *9月17日(土)~19日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
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「はじめての古美術鑑賞」 根津美術館

根津美術館
「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 
7/23~9/4



根津美術館で開催中の「はじめての古美術鑑賞ー絵画の技法と表現」を見てきました。

ともすると日頃、あまり技法などを意識せずに見ている古美術品。解説などで何気なく分かっているつもりでも、どれほど正しく理解しているかと問われれば危うい面も少なくありません。

そこに着目したのが「はじめての古美術鑑賞」です。出展は日本の古い絵画。全て館蔵品です。参照する技法は、たらしこみ、溌墨、付立て、外隈、金雲、白描、截金、裏箔、繧繝彩色の9つでした。


喜多川相説「四季草花図屏風」(部分) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館

まずはたらしこみです。琳派でも比較的馴染みの深い技法、伝立林何げいの「木蓮棕櫚芭蕉図屏風」に惹かれました。乾ききらないうちに、水の含んだ墨や絵具をさらに加えて滲みを生じさせるたらしこみ、木の幹や皮の部分に用いています。一方で木蓮の白い花も美しい。喜多川相悦の「四季草花図屏風」も可憐です。右隻に芥子や夕顔、左隻に菊や萩などを描いていますが、その随所でたらしこみを見ることが出来ます。


雲溪永怡筆 沢庵宗彭賛「山水図」(部分) 日本・室町時代 16世紀 根津美術館

次いで溌墨です。たっぷりつけた墨をはね散らかすようにして形状を表現します。雲渓永怡の「山水図」では丸い山や岩を先に描き、その上から溌墨で木々を象ります。筆触は即興的で素早い。何やら景色が湧き上がるかのようでした。

よく見られますが、名称自体はあまり有名ではないかもしれません。外隈です。白い紙の地色を生かし、外側を墨などでぼかしては、隈取りする技法です。雪や光の表現などで登場します。「楊柳白鷺図」は2羽の鷺が外隈でした。仲安真康の「富嶽図」は富士の部分です。確かに山の際の外側に薄い墨が引かれていることが分かります。


長沢芦雪「竹狗児図」(部分) 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館

付立てはどうでしょうか。輪郭線を用いず、筆の穂の側面などを巧みに操り、一筆書きで対象を表す技法です。芦雪の「竹狗児図」の筆さばきが秀逸でした。師の応挙にならったのか可愛い仔犬が2匹、その上の竹笹が付立です。特に笹の部分が上手い。線に迷いがありません。効果的に用いています。

一番知られているのは金雲かもしれません。雲や霞を金箔で表す技法です。屏風絵などで頻繁に見かけます。華やかな「洛中洛外図屏風」が出ていました。胡粉で盛り上げた模様の上に金箔を貼っています。かなり装飾的です。金雲から覗き込んで見れば、市中では鉾が巡行しています。祇園祭です。多くの見物人の姿も描かれていました。

截金、裏箔、繧繝彩色も同じ金に関する技法です。そしてこれらを用いた作品は仏教絵画が目立っていました。


「愛染曼荼羅」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

非常に根気のいる作業が伴うのではないでしょうか。截金です。金箔などを細い線や三角などに切って貼り付ける技法。仏画では仏の着衣や背景の文様などで使われます。「愛染曼荼羅」では背景の無数の文様に截金を利用。一体、何個あるのでしょうか。また強い光を出す際も截金が効果的です。仏身から放たれる光線なども表現しています。


「愛染明王像」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

繧繝彩色(うんげんさいしき)、この技法の名を初めて知りました。一言で表せば、同系の色を変化させる際、ぼかしを用いず、数段階に分けて色を付けていくものです。参照されていたのは「愛染明王像」です。確かに蓮台の部分が何種類かの色に塗り分けられています。グラデーションとはまた違うのかもしれません。

技法の解説パネルと作品を交互に参照するシンプルな構成です。凝った仕掛けはありません。ただそれでも、一度、日本の古美術の絵画技法についておさらい出来る良い機会と言えるのではないでしょうか。



今回は絵画でしたが、ひょっとすると続編として工芸などもあるやもしれません。そちらにも期待したいところです。



9月4日まで開催されています。

「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 根津美術館@nezumuseum
会期:7月23日(土)~9月4日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「アートアワードトーキョー丸の内2016」 丸ビル

丸ビル1階マルキューブ、3階回廊
「アートアワードトーキョー丸の内2016」 
7/25〜8/3



丸ビルで開催中の「アートアワードトーキョー 丸の内 2016」を見てきました。

全国の美大の卒業制作などから選抜された若いアーティストらの作品を紹介するアートアワードトーキョー丸の内。今年で第10回目を迎えました。

出展作家は全20名。既に会期初日、専門家諸氏による審査が行われ、グランプリ以下、10賞が決定しました。

「アワード」@アートアワードトーキョー丸の内2016


村上勇気「大気圏」 2016年 東京藝術大学大学院 グランプリ

その栄えあるグランプリに選ばれたのが林田勇気の「大気圏」です。高さ4メートルにも及ぶ巨大な木彫作品、素材は樟でした。台座の上に立つのはおそらくは少年です。分厚いダウンコートを着てはブーツを履いています。手には手袋をはめていました。凍てつく寒さの中にいるのでしょうか。とすると周囲の装飾物も雪の結晶のようにも見えなくもありません。


村上勇気「大気圏」(部分) 2016年

目線は下方、睨むように下を向いています。両手で四角いガラスのボックスを持っていました。何を意味するのでしょうか。どこか恭しくもあります。木彫の質感、特に立体感が素晴らしい。まるで絵具や石膏を盛り固めたような表面も独特でした。


丸山純「間」 2015-16年 名古屋造形大学 小山登美夫賞

同じく木彫では丸山純の「間」も目立つのではないでしょうか。大きな円柱状の彫刻、一つは鳥のようにも見えます。表面は荒々しい。チェーンソーの跡かもしれません。無数の傷がついています。所々、くり抜かれていました。中には別のオブジェがあります。まるで大きな樹木の中に寄生する生きものようでした。


高山夏希「From as one」 2015-16年 東京造形大学大学院 後藤繁雄賞

平面では高山夏希の「From as one」に惹かれました。2対のキャンバス、何かの動物に跨る人の姿が描かれています。1つは馬、あるいは驢馬でしょうか。素材はアクリルと油彩です。何やら糸が紡ぐように広がっています。モチーフは北極圏のイヌイットとありました。1人は大きな瞳をこちらに向けています。気がつけば確かに寒々しい。雪の中を進んでいるのかもしれません。制作に際しては絵具を削り取ってもいるそうです。それゆえの表面の質感も魅惑的でした。


村上早「息もできない」 2015年 武蔵野美術大学大学院 フランス大使館賞

村上早の「息もできない」はどうでしょうか。ほぼモノクローム、銅版画です。黒く太い線が揺らいではモチーフを象ります。逆さになるのはスカートをはいた女性です。両手を開き、長い髪を振り乱しています。対に交わるのは犬でしょうか。あまりにも大きい。女性を抱くようにして転がっています。


吉田桃子「FL.stay」 2016年 京都市立芸術大学大学院 三菱地所賞

吉田桃子の「FL.stay」にも目がとまりました。計2面、何やら映像のワンシーンのようです。その意味では動きも伴います。とは言え、モチーフは明らかではありません。何層もの皮膜に覆われています。下方には無数の絵具が垂れていました。何でも音楽を聴いている時に想像するイメージを表しているのだそうです。一体、どのような音楽が流れていたのでしょうか。


アルベルト・ヨナタン・セティアワン 「Solar Worship」 2015-16年 京都精華大学大学院

確かに瞑想の場のようでした。アルベルト・ヨナタン・セティアワンは「Solar Worship」においてマンダラや人間の精神をテーマとする空間を作り上げています。床で円状に広がるのは「太陽の礼拝」。テラコッタで出来ています。実際に座り、拝むことは叶いませんが、ほかとは異なる神聖な気配を感じました。


「アートアワードトーキョー丸の内2016」3階会場風景

10回展を記念したのか、今年は前年の丸ビル1階マルキューブだけでなく、3階の回廊も会場となっています。2会場制です。すぐ横のエスカレーターで簡単に行き来出来ます。観覧の際はご注意下さい。


「アートアワードトーキョー丸の内2016」1階会場風景

入退場自由、無料の展示です。8月3日まで開催されています。

「アートアワードトーキョー丸の内2016」 丸ビル1階マルキューブ、3階回廊
会期:7月25日(月)~8月3日(水)
休廊:会期中無休
時間:11:00~21:00
料金:無料
住所:千代田区丸の内2-4-1 丸ビル1階、3階
交通:JR線東京駅丸の内地下中央口、東京メトロ丸ノ内線東京駅より地下直結。東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より地下直結
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「古代ギリシャ展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「古代ギリシャー時空を超えた旅」
6/21~9/19



東京国立博物館で開催中の「古代ギリシャ展」を見てきました。

古くは紀元前7000年にまで遡る古代ギリシャ。新石器時代からミノス、ミュケナイ文明、そしてヘレニズム、さらにはローマ時代までのギリシャの歴史を振り返ります。

はじまりは新石器時代の女性像でした。粘土製です。足を組み、手を組んでは座る人物の姿。身体中に白い刻線が引かれています。お腹からお尻の辺りの造形が逞しい。おそらくは儀式用のものだと考えられています。

不思議な形をした容器がありました。「スキュフォスとアンフォリスコス」です。例えるならキノコ型です。上部は蓋だそうです。中に入れるのは人骨、つまり骨壷でした。ひっくり返して穴に入れます。既に埋葬された人を再び取り出して火葬する風習があったそうです。呪術的な意味もあったのかもしれません。


「スペドス型女性像」 前2800~前2300年(初期キュクラデス2期) クフォニシア群島より出土か キュクラデス博物館

紀元前3000年に初期青銅器時代を迎えました。キュクラデス文明です。大理石の「スペドス型女性像」に魅せられました。高さは70センチ超と大きい。完全に直立です。両脚をピタリと寄せては立っています。腕はちょうど胸の下、腹の上辺りで組んでいます。長くのびた鼻が特徴的です。現在はいわゆるのっぺらぼうですが、かつては顔料で目や口が描かれていました。


「漁夫のフレスコ画」 前17世紀 テラ(サントリーニ島)、アクロティリの集落、「西の家」(第5室)より出土 テラ先史博物館

紀元前2000年頃にはクレタ島各地に宮殿が建設されるようになります。ミノス文明です。チラシ表紙を飾る「漁夫のフレスコ画」もこの時代の作品でした。海との密接な関わりを伺わせる漁労の姿。両手でたくさんの魚を吊るし持っています。表情はあどけない。若者です。髪型が変わっています。というのも、前後の2房を除いてはほぼ刈り上げているのです。この作品が残されたのはテラ(サントリーニ)島。後に火山の噴火により灰に埋もれてしまいます。それゆえに色彩が鮮やかなのだそうです。

「海洋様式の葡萄酒甕」も海との関わりを示す作品でした。何と言っても目を引くのはタコのモチーフ。3匹ほどいます。タコはまるで戯けたような表情をしていて可愛らしい。ちょっとしたゆるキャラのようです。ほかに海藻や魚も描かれています。見慣れた海の生き物をそのまま土器に描いたのかもしれません。

一方でかなり精緻な作品がありました。「牛頭型リュトン」です。素材は緑泥石。牛の毛並や模様も浮彫りで細かに表しています。神域でバラバラな形で出土したそうです。何らかの犠牲を伴う宗教儀式の祭具として用いられたと言われています。


「戦士の象牙浮彫り」 前14~前13世紀 キプロスの工房 デロス島、アルテミス神域より出土 デロス考古学博物館

長い長い古代ギリシャ。展示はまだ序盤に過ぎません。ミノス文明に次ぐのはミュケナイ文明。戦士たちが主役です。都市は堅牢な城壁に囲まれていました。その際たるものが「戦士の象牙浮彫り」ではないでしょうか。やや欠落しているものの、兜をかぶり、盾を持った戦士の姿が象られています。

紀元前1000年に入ると、幾何学様式(アルカイック)呼ばれる時代が到来しました。その様式の際たるのが「アッティカ幾何学様式アンフォラ」 です。かなり大型の陶器です。高さは80センチもあります。そこに円やジグザグ、あるいはメアンダー文と呼ばれる幾何学文が描かれています。アンフォラといえば貯蔵用の容器ですが、大型のものは墓標としても使われたそうです。


「クーロス像」 前520年頃 ボイオティア地方、プトイオン山のアポロン神域より出土 アテネ国立考古学博物館

大理石の立派な男女の彫像も登場しました。「クーロス像」と「コレー像」です。前者が男性で後者は女性。ともに笑みを浮かべています。「コレー像」は長い髪を胸の辺りまで垂らして美しい。衣服のドレープも流麗です。ギリシャでは紀元前7世紀末頃、このような大理石彫刻が次々と制作されました。


「アリストテレス像」 1世紀末期 アテネ、アクロポリス博物館敷地 アクロポリス博物館

ギリシャのシンボルともいえるパルテノン神殿が建設されたのは紀元前430年頃。民主政も確立し、演劇や哲学が盛んとなります。クラシック時代の到来です。堂々たるは「アリストテレス像」。ほぼ欠落もない、極めて状態の良い作品です。引き締まった口元、見開いた目はまさに聡明。いかにも賢者然としています。

パルテノン神殿の彫刻の複製も展示されていました。ほか演劇用の仮面や演者を象った彫像も面白い。民主政に因むのは投票具です。さらに神域に関する法令碑文や医療用のメスなどもあります。かの時代のギリシャ人の生活も浮き上がるようでした。

古代オリンピックに関する資料も充実しています。はじまりは紀元前8世紀。一際目につくのは大理石の「競技者像」です。ややうつ向き加減で笑みを浮かべる裸の男性。両腕が失われていますが、右手に冠を持っていたと考えられています。優勝者として頭に載せようとしていたのかもしれません。


「赤像式パナテナイア小型アンフォラ ボクシング」 前500年頃 アッティカ工房、「ピュトクレスの画家」 アイギナ島より出土 アテネ国立考古学博物館

アンフォラのモチーフにもオリンピックの演目が使われます。「赤像式パナテナイア小型アンフォラ ボクシング」は文字通りボクシングの様子を描いたものです。2人の男が殴り合います。左の男がもう1人の喉元あたりにパンチをくらわせています。鍛え上げられた筋肉も線で示されていました。なお古代オリンピックのボクシングが制限時間がなかったそうです。どちらかが降参するまでひたすらに試合は続きます。まさに死闘だったのではないでしょうか。

紀元前359年、マケドニアの王、フィリッポス2世が即位します。そして息子こそかのアレクサンドロス。東征により版図を広げた大王です。唯一に生前、王子時代を捉えたとも言われる大理石像が「アレクサンドロス頭部」でした。斜め上を見据えた姿。確かにややあどけなくも見えます。


「ギンバイカの金冠」  前4世紀後半 デルヴェニ(古代レテ)の墓地(B墓)より出土 テッサロニキ考古学博物館

マケドニアでは金の宝飾品が見事でした。特に「ギンバイカの金冠」が素晴らしい。ギンバイカとはギリシャに自生する植物です。金を薄く引き伸ばしては葉を表現しています。大変に華やかです。細かな蔦模様を配した「蔦花文様を表したディアデマ」も美しい。マケドニアは金の産地でもありました。ゆえに金の装身具などが多く作られたそうです。


「アルテミス像」 前100年頃 デロス島、「ディアドゥメノスの家」より出土 アテネ国立考古学博物館

ラストはローマ時代へと至る展開です。「ポセイドン像」や「アフロディケ像」など、お馴染みのギリシャの神々を象った彫像などが並んでいます。「アルテミス像」はどうでしょうか。やや上目遣いで立つ女神アルテミス。着衣の彫刻に立体感があります。時はヘレニズム後期。ミロのヴィーナスと同じ頃、場所も同じキュクラデス諸島で作られたと言われています。

ほかアフロディケを表したモザイクタイルなども目を引きます。後にキリスト教が広まると、ギリシャの彫像は破壊されたり、建築資材として使われたりすることもあったそうです。ローマは積極的にギリシャの美術や文化を取り入れましたが、そうした歴史の事実についても一部、言及がありました。

それにしても数千年の旅。出品も320件超と膨大です。うち9割は日本初公開でした。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



彫刻は露出も多く、細かに区切った会場は雰囲気もあります。一部、金の工芸品など、意匠の細かい作品がありました。単眼鏡があると便利かもしれません。



会場内、それなりに賑わってはいましたが、特に行列があるわけでもなく、全般的にスムーズに観覧出来ました。

9月19日まで開催されています。

「古代ギリシャー時空を超えた旅」@greece2016_17) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:6月21日(火)~9月19日(月)
時間:9:30~17:00。
 *金曜、および7、8月中の水曜は20時まで開館。
 *土曜・日曜・祝日は18時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日(月・祝)、8月15日(月)、9月19日(月・祝)は開館。7月19日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生900(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「河井寬次郎と棟方志功」 千葉市美術館

千葉市美術館
「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」 
7/6~8/28



千葉市美術館で開催中の「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」を見てきました。

創設者の柳宗悦とともに民藝運動を推進した2人の芸術家、河井寛次郎と棟方志功。ちょうど昨年が棟方の没後40年、今年が河井の没後50年でした。

その由縁ということかもしれません。民藝館のコレクションを中心とした2人の作品を概観する展覧会が行われています。

はじまりは民藝館の誕生前史です。若き棟方の油絵が3点ほど出ていました。実は棟方、幼少時代にゴッホ画の感化を受けて油絵を志向。キャリア初期には帝展などにも出品しています。いわゆる版画こと板画に進んだ後も油絵の制作を止めることはありませんでした。

うち目立つのが「庭B」です。縦横130センチほどの大作でした。西洋庭園でしょうか。噴水とアーチが見えます。色は強く、真夏の光を表すためか、全体的に明るい。熱気に満ちています。


河井寛次郎「碎紅芒目(さいこうのぎめ)草花文花瓶」 1920(大正9)年 河井寛次郎記念館

同じく最初期の河井では「碎紅芒目草花文花瓶」が美しい。まだ20歳頃の作品です。青く、また薄い白を伴った赤い色面が滲むように広がっています。

河井は本作の翌年、1921年に個展デビュー。しかしながら柳の収集した朝鮮陶磁の展覧会を見たことで、自らの「技術偏重の姿勢」(キャプションより)を転換します。そのシンプルな造形美にいたく感心したそうです。さらに後輩にあたる濱田庄司から柳本人を紹介されます。いつしや民藝運動へ深く関わるようになりました。

棟方が柳や河井と交流し始めたのは民藝館建設中の頃です。時は1936年。国画展に板画の「大和し美し」を出品したのが切っ掛けでした。そこに柳が注目。河井と棟方も互いの出会いを果たします。長きにわたる親交が始まりました。


棟方志功「鬼門譜板畫譜」より「眞黒童女」 1937(昭和12)年 日本民藝館

棟方の「萬朶譜」の原画は柳によるものです。松や梅が言わば幾何学模様を描くように広がります。デザインを意識させるかもしれません。


棟方志功「華厳譜」より「十八 風神」 1936(昭和11)年 日本民藝館

作品は大まかに制作年代順に並んでいますが、幾つかのテーマが設定されているのも興味深いところです。例えば「ほとけ」。言うまでもなく仏教説話に由来する作品を展示しています。

木喰の「薬師如来像」がありました。河井の後援者である川勝堅一が棟方に贈った仏像です。また目立つのは棟方の「東北経鬼門譜」でした。板画の屏風装です。横幅は何と9メートルにも及びます。モチーフは棟方の故郷の青森です。中央に鬼門仏を配し、菩薩や羅漢、あるいは人間の姿などを描いています。棟方が東北の幸を祈っては完成させた作品でもあるそうです。

河井と棟方の関わりを示す一枚が「鐘溪頌」でした。棟方が河井の新作展のために描いた6枚の板画。名は河井が京都で構えた「鐘渓窯」に由来しています。

「実験茶会」には驚きました。主催は棟方です。乾山の軸画を背に、河井から贈られた井戸茶碗などで茶をたてます。何に驚くかといえばBGMです。かの壮大なベートーヴェンの第九交響曲の第四楽章を流したそうです。さぞかし賑やかで荘厳な茶会になったことでしょう。


河井寛次郎「三色打薬扁壷」 1963(昭和38)年 河井寛次郎記念館

総出品数は170点。大変な量です。また民藝館のコレクションが中心でしたが、河井寛次郎記念館と棟方志功記念館、および我孫子市白樺文学館からも作品がやってきていました。

会期中の展示替えはありません。8月28日まで開催されています。

「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」 千葉市美術館
会期:7月6日(水)~8月28日(日)
休館:8月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前売券は千葉都市モノレール千葉みなと駅、千葉駅、都賀駅、千城台駅の窓口で会期末日まで販売。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」 国立歴史民俗博物館

国立歴史民俗博物館
「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」
7/12〜9/4



国立歴史民俗博物館で開催中の「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」を見てきました。

江戸幕末期、2度に渡り、医者として来日したシーボルト。博物学者でもあったことから日本の生活資料を数多く収集し、ヨーロッパへと持ち帰りました。

そのシーボルト、現地の博物館でいわゆる日本の博物展示を行ったそうです。


「日本人の画家によるシーボルト肖像」 ブランデンシュタイン家

冒頭はシーボルト自身に関する資料です。シーボルトの肖像画はどうでしょうか。描いたのは日本の絵師。目を吊り上げ、口を尖らせては横を向く姿を捉えていますが、ともかく鼻が異様に高い。西洋人の鼻はよほど印象に深かったのでしょう。かなり誇張しています。

最初の来日後は出島に住み、16歳の女性に身の回りの世話をさせます。その人物こそが、事実上の夫婦生活を送ったオタキこと其扇です。5年間ともに暮らし、娘のイネをもうけました。

シーボルトは長崎郊外の鳴滝に学塾を構えることを許されます。ここで日本人の研究者と交流。医学知識を教えるとともに、日本の資料収集に熱心に取り組みました。


「鳴滝の家屋模型」 ミュンヘン五大陸博物館

「鳴滝の家屋模型」が出ていました。木造2階だて、縦の格子が特徴的な建物です。意外と小さい。結果的にシーボルトは当時、国外へ持ち出し禁止だった地図を持ち出そうとして追放処分を受けます。とは言え、他の収集品はそのまま持ち帰ることに成功。帰国後は日本研究の成果を著した「日本」、「日本動物誌」、そして「日本植物誌」などを刊行しました。

この「日本」の扉絵の原画が面白い。鳥居があり、甲冑を着た武将が座り、鬼が現れ、何故かトウモロコシが描かれています。古来の神話をモチーフとしたそうです。西洋人の見た日本のイメージを詰め込んでいるかもしれません。


「日本植物誌(オタクサ)」 ブランデンシュタイン家

植物誌の原画も出ています。名は「オタクサ」。オタキに因んで付けられたものです。薄い紫の花弁も美しい。極めて写実的に表されています。

シーボルトは人類学にも深い関心を寄せていました。よって日本人の肖像画も多く描かせています。例えば肖像の「くまそ」です。銅版画を思わせる深い陰影が目を引きます。顔面の筋肉、髪の毛の一本一本の表現も大変に細かい。おそらくはモデルの特徴を巧みに捉えています。

ヨーロッパでの最初の日本展示を実現したのは帰国から3年後。場所はライデンです。シーボルトの自宅で開催しました。


「雑誌に掲載されたアムステルダムにおける展示風景」 ブランデンシュタイン家

その後、シーボルトは2度目の来日を挟み、計4度の日本展示を行います。まずはアムステルダムです。同地の産業振興会館でした。さらに故郷ヴュルツブルクへも移設。時のバイエルンの国王に日本コレクションの有益性を説きます。最終的には1866年、ミュンヘンの宮殿内のギャラリー棟にて日本展示室をオープンさせました。

この日本の博物展示を再現したのが「ようこそシーボルトの日本博物館」です。現在はミュンヘンの五大陸博物館に収蔵されるコレクションをまとめて展示。いわゆる里帰りです。約150年ぶりにシーボルトの意図した博物館が日本の地で蘇りました。


「花鳥図衝立」 ミュンヘン五大陸博物館

このシーボルトのコレクションが思いがけないほどに多彩です。華やかなのは「花鳥図衝立」。極彩色の花鳥図が4面に続く衝立です。上下の浮彫も見事に表されています。


「燈籠」 ミュンヘン五大陸博物館

「燈籠」も目立つのではないでしょうか。計2つ。寺院にあったものだと言われています。ほか「阿弥陀如来立像」も立派です。まさか家具や仏像彫刻までを網羅していたとは思いませんでした。


「阿弥陀如来立像」 ミュンヘン五大陸博物館

絵画もありました。「泥絵画帖」や伝探幽の「貝之図」、それに「捕鯨之図」なども印象深い。ちなみに捕鯨はシーボルト自身も強い興味を持っていたそうです。10隻以上もの船が連なっては鯨を追い込む様子が描かれています。


「法被(長崎くんち衣裳)」 ミュンヘン五大陸博物館

日用品や玩具などの生活資料も充実しています。例えば「かるた」や「色紙」。胃薬「清神丸」の小袋も収集しています。文具では「筆洗」です。さらにアイヌの前掛けや長崎くんちの衣装やら獣面に太鼓、蒔絵や太刀と幅広い。小判もありました。


「麦藁細工の玩具」 ミュンヘン五大陸博物館

デジタルコンテンツも用意されています。ミュンヘンの五大陸博物館にあるシーボルトコレクション、計6000点をタッチパネルで拡大閲覧することも可能です。



シーボルトが取り組んだヨーロッパでの日本博物展示。新出の地図をはじめ、初来日品も少なくありません。かなり綿密に資料調査を行った形跡も伺えます。その一端を知ることが出来ました。

[よみがえれ!シーボルトの日本博物館]巡回スケジュール
江戸東京博物館:9月13日(火)〜2016年11月6日(日)
長崎歴史文化博物館:2017年2月18日(土)〜2017年4月2日(日)
*以降、名古屋、大阪へも巡回予定。



9月4日まで開催されています。

「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」@150Siebold) 国立歴史民俗博物館@rekihaku
会期:7月12日(火)~9月4日(日)
休館:月曜日。但し休日の場合は翌日が休館日。8月15日(月)は開館。
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
料金:一般830(560)円、高校生・大学生450(250)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎週土曜日は高校生が無料。
 *総合展示も観覧可。
住所:千葉県佐倉市城内町117
交通:京成線京成佐倉駅下車徒歩約15分。JR線佐倉駅北口1番乗場よりちばグリーンバス田町車庫行きにて「国立博物館入口」または「国立歴史民俗博物館」下車。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「竹岡雄二 台座から空間へ」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「竹岡雄二 台座から空間へ」
7/9~9/4



埼玉県立近代美術館で開催中の「竹岡雄二 台座から空間へ」を見てきました。

京都に生まれ、現在はドイツに在住する美術家、竹岡雄二(1946~)。とりわけ「台座そのものをモチーフ」(解説より)とする彫刻作品で知られています。

いわゆる立体の展示です。とは言え、面白いのは立体それ自体だけではありません。作品は空間へ半ば拡張しています。美術館そのものを変容させていました。

展示室の造作からして異なりました。間仕切りはほぼ全て開放。ぶち抜きで奥行きのある空間が広がっています。

「クリーン・ルーム・ジャパン」に目が留まりました。大きさは約3メートル弱四方。高さも2メートル以上ある箱型の作品です。素材は透明のガラスです。黒いフレームに収まっています。床には白い大理石が敷かれています。ほぼ4畳半。茶室のようにも見えなくもありませんが、入口はなく、中に入ることは叶いません。


竹岡雄二「無題」 1996年 マンツ・コレクション, シュトゥットガルト

ガラス面には僅かに周囲の風景が映りこんでいます。ちょうど奥の彫刻がボックスの向こうに重なって見える位置に立ってみました。するとさもその作品がボックスの中へ入ったような錯覚に陥ります。作品の配置関係は絶妙です。意識は確かに「台座から空間へ」と働きました。

竹岡の台座に対する関心はドローイングからも知ることが出来ます。一例が「オーギュスト・ロダン 青銅時代」です。水彩の一枚、まさしく台座だけが描かれていますが、これは本来ある彫刻から人体の部分を消して表したものです。「マルセル・デュシャン 自転車の車輪へのオマージュ」では車輪の部分だけが省かれています。車輪なしです。つまり台座しかありません。


竹岡雄二「七つの台座」 2011年

ずばり台座と名付けられた作品がありました。「七つの台座」です。素材は真鍮。金のメッキが施されています。いずれも大きさは50センチ四方です。反面に厚さは20センチ弱。やや薄い。形も真四角であったり、台形であったり、また角を削っていたりと変化があります。床面へ直に間隔をあけて置かれていました。何やら庭石のようにも見えます。


竹岡雄二「無題」 1996年 個人蔵

家具を連想させる彫刻があるのも興味深いところです。「無題」はどうでしょうか。4つの細い脚に支えられた立体、中がくり貫かれています。キャビネットと呼んでも良いかもしれません。中に物を収納しようと思えば可能です。

素材が多彩なのには驚きました。ガラスに真鍮、そして人工大理石。テラコッタや木材に銅板も使用しています。またブロンズに緑青を吹き付けるなど色や質感の表現も細かい。作品の仕上げに抜かりはありません。

物理的に美術館の施設へ手を加えた作品がありました。「サイト・ケース1」です。分厚い透明のアクリルボックスです。壁に打ち付けられています。中は空洞です。よく見ると奥の面には何やら石膏を塗り固めたような層が広がっていました。はじめはそれもてっきり竹岡が手を加えたものかと思ってしまいました。

実はこの面、美術館の壁なのです。つまり手前のボードを切り取り、ぴたりと作品をはめ込んでいます。ゆえに切り取った奥の壁の部分が露出して見えているわけです。



「竹岡雄二 台座から空間へ」@遠山記念館(7/9〜9/4)
https://www.e-kinenkan.com/exhibit/index2.html

なお本展は遠山記念館と同時開催です。同記念館のコレクションもやって来ています。とは言え、一工夫がありました。とするのも竹岡自身が台座に因んだ古美術品を選定しているのです。江戸時代の蒔絵を施した文台や盤、それに琉球の螺鈿の杯などが並んでいました。


竹岡雄二「インターナショナル・アート・マガジン・ラック」 1997年 個人蔵

作品を介在しては変化する景色が面白い。思わず会場内をうろうろと彷徨ってしまいます。いつもとは異なる埼玉県立近代美術館の空間を楽しむことが出来ました。



9月4日まで開催されています。

「竹岡雄二 台座から空間へ」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:7月9日 (土) ~9月4日 (日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」 
7/16~8/31



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」を見てきました。

2011年から比較的若い世代の美術家を公募展形式で紹介している「新鋭作家展」シリーズ。今年で5回目を迎えました。

ポートフォリオ、及び専門家の審査を経て選出されたのは大石麻央と野原万里絵。ともに1980年代後半生まれの女性の作家です。

会場内の撮影が出来ました。

さて今回の新鋭作家展、タイトルにもあるように、ある1つのテーマが設定されています。それは「型」でした。

野原万里絵は型紙を使って作品を制作しています。目立つのは人型でしょうか。様々なかたちを切り抜いた紙を用い、木炭に塗りつけては壁面へ写しています。


野原万里絵「Pattern」 

個々の型紙はノートサイズほどに過ぎませんが、作品は巨大でした。壁画と呼んでも差し支えありません。一体、高さは何メートルあるのでしょうか。床から天井まで壁いっぱいに広がっています。


野原万里絵「Pattern」

壁画の一部はワークショップで作られたそうです。また型紙は下記の日程に限り、実際に切り抜いて作ることも出来ます。つまり観覧者の型も作品に取り込まれるわけです。

「かたち発掘場」
日にち:7月16日(土)、17日(日)、18日(月祝)、23日(土)、24日(日)
時間:13:00~16:00


野原万里絵「Pattern」

蝶や鳥が舞い、花や草木が生い茂っているかと思うと、人や動物のシルエットが浮かんでいるように見えます。まるで生命の楽園です。また同じパターンが繰り返し続く場面も少なくありません。その意味では装飾的でもありました。


大石麻央「私の辞書」

大石麻央の型は動物のかぶり物でした。タイトルは「私の辞書」。鳩のかぶり物をした人物の写真がたくさん並んでいます。実際にかぶり物をした人形もいました。椅子に座り、空中でロープに腰掛ける姿はどこかコミカル。視線を合わせては見入ってしまいます。


大石麻央「私の辞書」

一連の写真のモデルは一般の参加者です。会期に先立ち「着るアート体験&撮影大会」にて撮影されました。確かによく見ると体型が様々です。同じようで同じではありません。そもそもかぶり方にも若干の違いが見られます。

会場の構成に一工夫ありました。というのも順路がAとBの2パターンあるのです。最初から作品を見るコースと、展示物を後回しにして、コンセプトなどを先に見るコースがあります。もちろん結果的に同じ展示を廻るわけですが、少し見え方も変わってくるかもしれません。

入場料は300円のパスポート制です。会期中、何度でも入場出来ます。



8月31日まで開催されています。

「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち 大石麻央・野原万里絵」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:7月16日(土)~8月31日(水)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。翌19日は休館。
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:300円。(パスポート制。会期中何度でも再入場可。)高校生以下無料。
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「From Lifeー写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」
7/2~9/19
 


三菱一号館美術館で開催中の「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」を見てきました。

19世紀後半、ラファエル前派とほぼ同時代、ヴィクトリア朝のイギリスにおいて、写真表現で新たな「地平」(解説より)を切り開いた一人の芸術家がいました。

それがジュリア・マーガレット・キャメロン。1815年にカルカッタで生まれ、イギリスの上層中流階級で育った女性です。

まさに遅咲きの芸術家です。キャメロンが写真に取り組み始めたのは48歳の時。娘夫婦からカメラをプレゼントされたのが切っ掛けでした。

当初は家族や文化サロンの友人など、身近な人物を写します。ほぼポートレートです。「ウィリアム・マイケル・ロセッティ」はかの芸術家の弟をモデルにした一枚。右上に傘が写り込んでいますが、あえて光量を調節するために持ち込んだそうです。光に対する鋭敏な感覚を知ることが出来ます。

コスプレとも呼んで良いのでしょうか。モデルに様々な衣装を着せているのも興味深いところです。「クーマイの巫女になったエルコ卿夫人」はまさしく巫女の姿。古代風の衣服を身にまとっています。

カメラを手にしてから僅か1年半。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の前身であるサウス・ケンジントン博物館に作品が買い上げられるという栄誉を得ます。鮮烈なデビューと言ったところでしょうか。当時の館長とキャメロンがやり取りした書簡も展示されていました。

会場内、一部展示室のみ撮影が出来ました。

キャメロンの写真の主題は肖像、聖母、ないし幻想です。そして物語や神話を引用した絵画的な作品を多数制作していきます。


左:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「休息の聖母ー希望に安らいで」 1864年

「休息の聖母ー希望に安らいで」はどうでしょうか。ベールを被る母の胸には幼子が眠っています。もちろん聖母子です。とは言え、目を瞑った子はどこか死を暗示させることから、マリアが死んだキリストを抱くピエタの図像を意識したとも考えられているそうです。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 連作「聖霊の実」 1864年

ルネサンス絵画を引用し、キリスト教の9つの美徳を表現した「聖霊の実」にも目が留まりました。愛、喜び、忍耐、優しさ、そして信仰などと名付けられた9枚の連作です。後に1つの額に収められ、大英博物館へと寄贈されました。


上:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「聖セシリアーラファエロ風に」 1864-65年
下:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「巫女ーミケランジェロ風に」 1864年


ラファエロやミケランジェロに倣った作品もあります。その名も「聖セシリアーラファエロ風に」と「巫女ーミケランジェロ風に」です。前者は画家の「聖セシリアの法悦」を、後者はシスティーナ礼拝堂のフレスコ画を手本としています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「イエスかノーか?」 1865年

変わったタイトルです。「イエスかノーか?」。2人の人物が身を寄せては、互いの手を取り合っています。プロポーズが主題です。思案し、また熟慮する様子を捉えています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「五月祭」 1866年 ほか

大型のガラスネガに対応するカメラを手にしたキャメロンは、表現の幅をより広げることに成功しました。一例が群像表現です。「五月祭」と「夏の日」では4名以上の群像を巧みな構図で切り取っています。「五月祭」はキャメロンと親しかったテニスンの詩作のための挿入写真です。登場するのはキャメロン家の小間使いたち。冠を付けて着飾っています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「修道士ロレンスとジュリエット」 1865年

シェイクスピアも素材の1つです。「修道士ロレンスとジュリエット」は同劇の場面を表現した一枚。互いに視線を交わしてはポーズをとっています。キャメロンの写真、総じてモデルは演じています。その意味でも演劇的とも呼べるかもしれません。

なお作品には多くのモデルが登場しますが、主要な人物についてはパネルで紹介されています。鑑賞の参考になりました。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「クリスタベル」 1866年

時にモデルの内面を見据えたキャメロン。「クリスタベル」に惹かれました。題材はコールリッジです。魔女に束縛された有徳の少女を表現しています。正面を向きながらも目は虚ろです。長い髪を垂らしています。焦点はややぼやけてもいます。

このぼやけ、言い換えればソフトフォーカスもキャメロン写真の特徴の1つです。彼女はそれまで「技術的欠陥とみらされかねない不規則な出来栄え」(解説より)を進んで取り入れました。

ソフトフォーカスのほかにも、引っかき傷の付いたネガを用いたり、合成の技術を取り込むなど、当時としては異例の試みも行っています。制作に関してキャメロンは大変に野心的です。批判も少なくなかったそうですが、結果的に自己の道を貫き通しました。

「守護の聖母ー永遠の見守り」ではガラスネガの上の感光剤をあえて剥がしています。さらに「夢」では指紋をそのまま写真に残しました。こうした技巧は後の写真家にも影響を与えたそうです。

ラストは同時代、ないし次世代の写真家らの作品が並んでいました。スティーグリッツのオキーフを捉えた肖像が、キャメロンの構図に似てるように見えなくもありません。影響関係について議論あるやもしれませんが、写真表現の史的変遷なども一部で追うことが出来ました。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「ベアトリーチェ」 1866年

チラシ表紙に掲載されたのは「ベアトリーチェ」。レーニの絵画に基づく作品です。モデルはメイ・プリンセプ。キャメロンの義理の姪で、後にテニスンの息子と結婚した人物でもあります。先の「クリスタベル」でもモデルを務めています。


「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」会場風景

何かを懇願するような視線を投げかけています。心が射抜かれるようです。視線に囲まれては、視線を追う。実は全く初めて見知った写真家でしたが、いつしかその視線の虜になっている自分に気がつきました。

9月19日まで開催されています。

「From Lifeー写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:7月2日(土)~9月19日(月)
休館:月曜日。但し祝日と9月12日は開館。
時間:10:00~18:00。
 *金曜日と第2水曜日、会期最終週の平日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア2800円。
 *アフター5女子割:第2水曜日の17時以降は一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 
7/3〜9/4



練馬区立美術館で開催中の「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」を見てきました。

アニメや漫画で知られる作家、しりあがり寿。近年は「回転」をテーマとした現代美術のインスタレーションも制作しています。

美術館では初の個展だそうです。そしてタイトルに回転とあるように、ありとあらゆるものが回転していました。

一部の映像作品を除き、撮影が可能でした。(動画不可)


「エレキな春」(表紙イラスト) 1985年7月 ほか

まずは順に沿って1階です。イラストや漫画の原画の展示が続きます。デビューを飾ったのは1985年です。当時の「エレキな春」の表紙イラストが出ていました。


「御前しりとり合戦」(読みきり) 平凡パンチ 1986年3月10日号

原画が緻密なのには感心しました。平凡パンチに掲載された「御前しりとり合戦」や少年サンデーの「流星課長」も面白い。ギャグとパロディー。ともに80年代の作品です。懐かしく思う方もいるのではないでしょうか。


下:「箱舟」(最終話) クイックジャパン第30号 2000年4月

「箱舟」と題した一枚に目がとまりました。立ち並ぶのビル群です。大都会のおそらくは繁華街を描いています。ただし道路には瓦礫が散乱し、宙にはもはや魂を失ったような人が上下になって舞っています。瓦礫の上にあるのが一隻の箱舟です。さも宇宙船が着陸したように降りていました。


「地球防衛家のヒトビト」 朝日新聞夕刊 2002年〜

現在も朝日新聞の夕刊に連載されているのが「地球防衛家のヒトビト」です。連載開始は2002年。既に15年近くも続いています。ネタはほぼ時事です。ちょうど東日本大震災から1〜2ヶ月後の作品が展示されていました。防衛家の人々は震災後、「出動中」として救援ボランティアに駆けつけています。

2階へあがりましょう。ここからが回転です。まさしく回転に次ぐ回転。世界は全て回転で成り立っているのでしょうか。あらゆるものがただ淡々とひたすらに回転しています。


「回転宣言」 2016年7月 しりあがり寿

「回転にこそ未来がある」と高らかにうたう「回転宣言」を筆頭に回転するのはヤカン。宣言においてしりあがりは「回ることによりヤカンは芸術となる」と述べています。


「回転派のアトリエ」 2013〜2014年

「回転派のアトリエ」では、絵画に彫刻にスケッチ箱などが回転。写真では分かりにくいかもしれませんが、ともかく壁の絵画もグルグルと回っているのです。


「まわる歴史」 「人形」 ほか 2016年

しりあがりの回転にかける熱意は並大抵ではありません。自身の所有物でしょうか。たとえば人形です。「タンザニアで買わされた」と記しています。さらに小学校時代に貰ったという賞状やファミコンのドラクエ3のカセットまであります。もちろん全て回転しているわけです。果てには監視員用の椅子まで回っていました。思わず座りたくなってしまいます。


「回転体は行進する ダルマの夢を視る」 2014年

さらに奥の展示室ではだるまが華麗なまでに回転。皆、半ば思い思い、顔をあちこちに向けてはぐるぐると回っています。だるまさんが転んだならぬ、だるまさんが回ったということなのでしょうか。どのように受け止めれば良いのか戸惑うほどでした。


「回る白昼夢」 2016年

「回る白昼夢」で回転するのはしりあがりの生活の痕跡なのかもしれません。レシートやボンド、トイレットペーパーにタオル、軍手、携帯電話に名刺、フリスク、メモ書き、プリンかヨーグルトのカップほか、様々な日用品がいずれも回転しています。

先のだるまの赤に対比させたのでしょうか。全てではないにしろ、いずれも白が際立っているのも特徴です。食べ散らかしたかのようなカップ麺の入れ物。日用品というよりゴミと言っても良いかもしれません。それらを一つ一つ、言わば生命でも吹き込むかの如く、丁寧に回転させています。


「ゆるめ〜しょん」 2007〜2014年

ラストの「回転道場」なる映像は笑いなしに見られません。全20分です。老師に扮するのはしりあがり自身。弟子たちに回転の極意を教えています。真剣な表情で回転を極めようする様はまさしく滑稽です。にやにやしながら見入ってしまいました。



観覧の際は目が回らないようにご注意下さい。9月4日まで開催されています。

「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 練馬区立美術館
会期:7月3日(日)~9月4日(日) 
休館:月曜日。但し7月18日(月祝)は開館。翌19日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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「美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」
6/17〜7/18



出光美術館で開催中の「美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」へ行ってきました。

開館50周年を記念したコレクション展こと「美の祝典」。全3回シリーズです。

既に会期は第1期のやまと絵、第2期の水墨を終え、最終の第3期目に突入。「江戸絵画の華やぎ」と題し、館蔵の江戸絵画が一堂に公開されています。


喜多川歌麿「更衣美人図」 江戸時代 重要文化財 出光美術館

冒頭は歌麿に北斎の肉筆です。歌麿の「更衣美人図」が美しい。女性が着物を脱ぐ姿を描いています。おそらくは真夏でしょう。帯を解き、やや袖を開けては、如何にも暑そうに扇子で風を送っています。緊張も緩んだのかもしれません。ため息をついているようにも見えます。藍ともグレーとも言える着物の表現も見事でした。筆に緩みはありません。

その後は桃山から江戸期の屏風でした。4点の揃い踏み。まず横に並ぶのは「祇園祭礼図屏風」と「洛中洛外図屏風」です。ともに京都市中の景観や賑わいを表しています。

うち「洛中洛外図屏風」が面白い。右に東山、左中央に二条城を配置したパノラマですが、右隻の右上に伏見城が描かれているのが特徴です。二条城に負けじと天守閣が堂々とそびえています。町家の屋根に目が留まりました。上に重石でしょうか。石が載っています。市中では喧嘩も多かったのかもしれません。男たちが刀を抜いて向き合う姿も見て取れます。一人、外国人でしょうか。傘を従えて歩く大きな男の姿が目にとまりました。

「南蛮屏風」の舞台は港です。もちろん来航するのは南蛮船です。ちょうど小舟を出して荷物を陸揚げする様子を描いています。外国人は皆、背が高い。その大きさに江戸時代の人々はさぞかし驚いたのではないでしょうか。右に見えるお堂は教会です。何名かの宣教師がいます。保存状態も良好です。細部の着色も鮮やかでした。

「江戸名所図屏風」に驚きました。と言うのも、どこも過剰なまでに人で溢れ返っているからです。押し合いへし合いと人がうごめいています。一体、何名いるのでしょうか。右隻は寛永寺から日本橋、左隻は江戸城から芝浦の景色が広がっています。時は寛永6年です。何でも解説によれば寛永寺の池にペリカンが現れた記録があり、実際にそれが描かれているから分かったそうです。確かに池のほとりで一羽の鳥が羽を休めていました。

英一蝶の「四季日待図巻」に魅せられました。元は神事であった日待。元禄の頃には夜通しで宴会や芝居に講じるお祭りとして浸透していたそうです。さすがは一蝶、筆が流麗です。祭りを楽しむ人々を生き生きと表しています。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎは今も江戸時代もさほど変わらないのかもしれません。囲碁に博打をしている人もいます。ちなみに本作は一蝶が流刑先の三宅島で制作しました。とするもお祭りの様子も彼の記憶に過ぎません。何を思って描いたのでしょうか。

琳派の優品も目立ちます。光琳の「禊図屏風」はどうでしょうか。面白いのは構図です。川辺にいる一人の男。モデルは業平です。ほぼ背中を向けて座っています。川は大きく弧を描いて縦に流れています。小山も丸みを帯びています。図像として川の弧と呼応しているように見えなくもありません。

抱一の大作屏風は3点です。うちより魅惑的なのが「紅白梅図屏風」でした。得意の銀地に紅白の梅を表した屏風絵です。枝振りも力強い紅梅に対して白梅は可憐。対比的な姿をしています。一面の銀世界は月夜を示しているのでしょう。ふと雪の降る光景を連想しました。淡く白い光とひんやりした空気感。銀の名手こと抱一ならではの抒情的な作品でもあります。


酒井抱一「風神雷神図屏風」 江戸時代 出光美術館

ちなみに抱一はほかに「風神雷神図屏風」と「八ツ橋図屏風」も出ています。久々に3屏風を揃って見たような気がしました。

ラストは今秋にサントリー美術館での回顧展の控えた其一です。作品は2点。「四季花木図屏風」と「秋草図」でした。

より小さな「秋草図」が殊更に魅力的でした。元は戸襖絵です。幅は25センチもありません。まだ若い30代の頃の作品ゆえか、流麗な秋草の描写は師の抱一を連想させる面もあります。


「伴大納言絵巻(下巻部分)」 平安時代 国宝 出光美術館

3期間に分けて展示中の「伴大納言絵巻」は下巻の部分が開いていました。私も結局3期、全ての展示を追いかけましたが、やはり人気の江戸絵画ゆえか、1、2期の時よりは心なしか混雑しているように思えました。とは言え、「伴大納言絵巻」も行列なく、スムーズに観覧可能です。じっくり見られました。

「美の祝典2ー水墨の壮美」 出光美術館(5/13〜6/12)
「美の祝典1ーやまと絵の四季」 出光美術館(4/9〜5/8)

またリストにはないものの、蒔絵など、工芸にも佳い作品が少なくありません。3期揃って出光の誇る日本美術コレクションを存分に堪能することが出来ました。

「江戸絵画入門ー驚くべき奇才たちの時代/別冊太陽/平凡社」

7月18日まで開催されています。

「開館50周年記念 美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」 出光美術館
会期:6月17日(金)~7月18日(月)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「建築倉庫ミュージアム」 寺田倉庫

寺田倉庫
「建築倉庫ミュージアム」
6/18~



寺田倉庫で開催中の「建築倉庫ミュージアム」を見てきました。

1950年創業の倉庫会社「寺田倉庫」。その本社ビル内に、今年6月、日本では唯一の建築模型専門のミュージアムが誕生しました。

名付けて建築倉庫です。コンセプトは「模型を展示しながら保存する」。何も模型はこのミュージアムのために作られたわけではありません。

模型はいずれも建築家や建築事務所がデザインする際に活用したものです。通常はコンペなどの後、スペースの都合から捨てられてしまうこともありますが、建築倉庫にて保存。それを広く一般に公開しようと整備された施設でもあります。

撮影が可能でした。


「建築倉庫」会場風景

建築倉庫の広さは約450平方メートル。坪に換算すると約150坪です。ビルの1階、1室のみ。天井高が5.2メートルとかなりありました。面白いのは建築模型がいずれも展示台に載っていないことです。収蔵庫らしく白い棚の上に収められています。中には模型を入れるための箱でしょうか。段ボールなども積まれていました。


坂茂「ハノーバー国際博覧会日本館」 2000年 完成模型 1/100

建築模型の活用を提案したのは坂茂です。ゆえに坂の模型が目立っています。「ハノーバー国際博覧会日本館」はどうでしょうか。アーチ状のシルエットが美しい。アーチは坂の得意とする紙管で作られています。


坂茂「コンテナ多層仮設住宅」 2011年 完成模型 1/300

かねてより世界各地の災害支援活動に取り組む坂。その関連の建築模型も出ています。例えば「コンテナ多層住宅」です。時は2011年。言うまでもなく東日本大震災の被災者のために建設されました。


坂茂「紙の教会」 1995年 完成模型 1/50

ほか阪神大震災によって焼失した教会の再建プロジェクトこと「紙の教会」も目を引きます。これも紙管製です。現在は同じく地震の被害を受けた台湾に移築され、コミュニティーセンターとして利用されているそうです。


山本理顕「横須賀美術館」 2006年 1/200

坂に続いて目に付いたのは山本理顕でした。身近なところでは「横須賀美術館」です。開館は2007年。ちょうど東京湾を望む海岸の上に建てられました。海を前景にして山を後景にした立地は傾いています。その傾斜の地形をそのまま活かしています。


隈研吾「中国美術学院民芸博物館」 2015年 竣工模型、他 1/100

隈研吾も多数模型を出展しています。大胆なのは「中国美術学院民芸博物館」です。敷地は勾配。そこに平行四辺形を単位とする幾何学的な分割システムを採用しました。ジグザグに交差するフォルムは独特です。瓦屋根の連続する村のイメージも志向しているそうです。


隈研吾「スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店」 2011年 プレゼン模型 1/50

木組みの内装が話題となった「スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店」も隈の設計です。木組みはX字状に連なって空間を埋め尽くします。角材は全部で2000本使用しています。太宰府という土地に対して、隈が新たな建築の在り方を示した作品でもあります。


隈研吾「浅草文化観光センター」 2012年 展示模型 1/100

浅草の新たなランドマークとなりつつある浅草文化観光センターの模型もありました。手前がスケルトン状の雷門。交差点を挟み、左上に位置するのが観光センターです。敷地面積は326平方メートルと広くありません。そこに案内所や展示室を組み込んでいます。屋根の形状が独特です。五重塔のようでもあり、そうでないようにも見えます。変化のある斜めのラインが特徴的でした。


山本理顕「ザ・サークル チューリッヒ国際空港」 2019年 1/1000

模型のスケールは大小に様々です。スタディから竣工模型の如何も問いません。飛行場などの模型は2メートル近くにも及んでいます。


「建築倉庫」会場風景

収蔵庫だけあって、棚の下部、足元の位置にまで模型が置かれています。屈んで模型を見る必要がありました。


小嶋一浩+赤松佳珠子「流山市立おおたかの森小・中学校、おおたかの森センター、こども図書館」 2015年 基本設計終了時 1/200

小嶋一浩と赤松佳珠子による「流山おおたかの森小・中学校、おおたかの森センター、子ども図書館」も大掛かりです。植栽に囲まれた複合施設、学校にはあわせて1800名もの生徒や児童が通います。建物の周囲は植栽でしょうか。緑が目立ちました。太陽の動きや風の向きなど、採光や通風に配慮した設計でもあるそうです。


「建築倉庫」会場風景

同一の建築物の小型模型が複数に並ぶ棚も目を引きました。建築家の設計のプロセスの一端も伺いしれるのではないでしょうか。


「建築倉庫」会場風景

照明が抑えられ、一部にはさも夜景を前にしたような演出もされています。なお通路は狭いため、手荷物が模型に当たらないように注意する必要があります。


「建築倉庫」会場風景

模型は基本的に建築家らが倉庫に預けるという形をとっているそうです。全部で100ある棚にはまだ空きがありました。ひょっとすると今後も多くの模型が収められるのかもしれません。


「UNIQLO New York Fifth Avenue」 2011年 1/30

最後に会場の情報です。最寄りはりんかい線の天王洲アイル駅です。山手通りを西に向かって歩いておおよそ5分ほどです。JR線の品川駅からも港南口を経由して歩けますが、15分から20分ほどかかります。

同じく港南口より出ている都営バスが意外と便利です。品98系統「大田市場」行きに乗ると、約5分ほどで、寺田倉庫のほぼ目の前にあるバス停「新東海橋」に到着します。


寺田倉庫本社ビル

入場料は1000円。模型を出展したのは国内外で活動する日本人建築家、および設計事務所の約25組です。思ったより狭いスペースでしたが、所狭しと並ぶ建築模型に時間を忘れて見入ってしまいました。



寺田倉庫の建築模型ミュージアムは6月18日にオープンしました。

「建築倉庫ミュージアム」 寺田倉庫
会期:5月31日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は翌火曜休。
時間:11:00~21:00 *入館は閉館の1時間前まで。
料金:一般1000円、高校生以下500円。
住所:品川区東品川2-6-10 寺田倉庫本社ビル1F
交通:東京高速臨海鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口徒歩4分。東京モノレール天王洲アイル駅 徒歩5分。JR線品川駅港南口より都バス品98系統「大田市場」行きに乗車、「新東海橋」下車すぐ。
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「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」 
6/7~8/7



東京国立近代美術館で開催中の「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」を見てきました。

1939年に東京で生まれた詩人、吉増剛造。詩作に留まらず、写真、オブジェ、パフォーマンスなど、幅広いジャンルで活動を続けているそうです。

タイトルにある「声ノマ」。初めは何を指すのかまるで見当もつきませんでした。会場に入ると確かにどこからともなく声が聞こえてきます。吉増の朗読テープです。ただしその声は何を語っているのか判然としません。空間を浮遊しつつ、あてどもなく彷徨うような声は、さも耳をなぞるかのごとくに響いています。

吉増は制作に関して声を重要視しているそうです。解説に声ノマとは「声の真を求めて声の間を研究する声の魔でもある」とありました。声は見る側の身体の奥底へとじわじわ染み込んできます。

会場の一部の撮影が可能でした。


「銅板」 展示風景

構成に工夫があります。会場はほぼ暗室です。入口すぐの展示室が6つに分けられています。とはいえ、何も壁で仕切られているわけではなく、半透明の黒い布が吊るされているのに過ぎません。よって境界は緩やかです。布を通して全体をぼんやりと見通すことが出来ました。

初めは日記でした。古くは1961年。20代の頃です。「愛したい人間を!女を!太陽が消え果てる程!」などの文言が記されています。言わば魂の叫びとも呼べるでしょうか。日常の出来事なども詳細に記録しています。メモ魔だったのでしょうか。字は大変に細かい。近年は日記帳自体も小さくなります。文字は小さ過ぎて判別不能です。何が書いてあるか分かりません。

吉増は10代から写真を撮っていましたが、60歳前後からより本格的に向き合うようになりました。多重露光です。離れた2つ以上の場所の風景を1つの画面に合わせ重ねます。不思議な世界です。実在の場所を素材としながら、この世の景色ではないようにも見えます。現実が異界と交わっているとでも言えるでしょうか。アラーキーとの関わりを示す作品にも目が留まりました。2人の間には交流があるそうです。


「長尺銅板1」 1999-2000年 ほか

オブジェです。言葉ないし声を銅版に打ちつけています。床に横たわるのは薄く長い銅版。まるで絵巻物です。鏨とハンマーで文字を記しています。文字は書のように流麗というよりも、むしろ一画一画の周囲を点で刻み込むかのように書いています。点や線は震え、揺らいでいました。色が介在しています。時に文字とは無関係に広がっていました。


「長尺銅板5」 2001-2012年

オブジェは長いもので5メートルもあります。銅版やハンマーは彫刻家の若林奮から譲り受けたものだそうです。


「声ノート」等 展示風景

吉増が発した声。それを記録したのがカセットテープです。2列で一直線に並ぶカセットは全部で1000本。うち自身の声を収めた「声ノート」を300本含みます。メモに熱心であった吉増は、世の中の声の採集にも取り組んでいたようです。


「声ノート」等 展示風景

瞽女の歌や相撲甚句が目立ちます。独特の抑揚にシンパシーを感じていたのかもしれません。

映像もありました。名は「ゴーゾーシネ」。ほぼ無編集のロードムービーです。砂浜でおそらくは原稿を置き、どこか鬼気迫る様で色を塗りたくっています。何とも謎めいた姿です。まるで呪術のための儀式をしているかのようでした。

「怪物君/みすず書房」

ハイライトは「怪物君」でした。いわゆる長編詩。生の原稿です。東日本大震災の1年後より制作がはじまりました。大きく分けて2部構成です。前半は自作の詩、後半は同じく詩人で思想家の吉本隆明の著作を引用しています。これが膨大。原稿用紙は1000枚を超えるそうです。そしてかの日記よりも極小の文字で記しているため、もはや読むことすら叶いません。


「怪物君」より 2015年

ドローイングと捉えて良いのでしょうか。文字とともに水彩も施されています。色は赤や青です。それらは塗るというよりも、散っていて、表情は激しい。貝殻のようなものが縫いこまれていました。紙は時にぐしゃぐしゃです。皺のないものは一つとしてありません。また何枚か重ねたりもしています。鮮烈です。これが詩の原稿なのでしょうか。俄かには信じられませんでした。

ラストは演出家、飴屋法水が「怪物君」をモチーフにした空間演出を行っていました。これも強烈です。ベニヤ板やキャンバスが積み上がり、青いゴミ袋が転がっているかと思うと、避難ハシゴがや半ば唐突に置かれています。ほか扇風機や鉄のパイプなども散乱。忘れ物の傘までが束になっていました。美術館の空間をかき乱しています。


「声ノート」等 展示風景

疎い私にとって、詩とは何たるかを語ることも出来ません。ただこの展覧会を通じて、吉増剛造という存在が、目に、そして耳に、あるいは身体へ刻み込まれたような気がします。思いがけないほど興味深く見られました。

「我が詩的自伝 素手で焔をつかみとれ/吉増剛造/講談社現代新書」

8月7日まで開催されています。

「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:6月7日(火)~8月7日(日)
休館:月曜日。但し7/18は開館。翌7/19は休館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般1000(800)円、大学生500(400)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り「MOMATコレクション」、「奈良美智がえらぶ MOMAT コレクション:近代風景 ~人と景色、そのまにまに~」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コレクションより」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コレクションより」 
7/2~9/4



東京ステーションギャラリーで開催中の「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コレクションより」を見てきました。

スイスを拠点に世界規模で事業を展開する金融グループのUBS。その現代美術コレクションは全部で30000点余にも及んでいます。

うち12作家、80点の作品がやって来ました。タイトルの「12Rooms」とはギャラリーを12スペースに区切り、それを一部屋と見立てているからです。一部屋一作家です。個展形式による12作家のグループ展と言えるかもしれません。

さて80点の展示とはいえ、12作家に等しく作品があるわけではありません。特に充実しているのがエド・ルーシェイとルシアン・フロイド。この2作家で半数程度を占めています。

まずはルーシェイ。1937年生まれのアメリカの作家です。本そのものを作品として見せるアーティストブックの創始者としても知られています。


エド・ルーシェイ「スタンダードのスタンド(赤)」 1966年

ガソリンスタンドをモチーフにした作品に目が留まりました。「スタンダードのスタンド(赤)」。リトグラフです。確かに看板に「STANDARD」と記されたスタンドが描かれています。とはいえ遠近感は独特。屋根の線が手前から遥か彼方へとのびています。給油機は5台。しかしながら完全なる無人です。車の姿も人の姿もありません。スタンド自体も幻のように映りました。

何が示されているのか判然としませんが、一際巨大な「ブラザー、シスター」にも興味が惹かれました。広がるのはグレーの色面。しばらく眺めていると、まるで帆船が波間で揺れている姿を描いているようにも見えます。

ルシアン・フロイドは展示のハイライトと言っても差し支えありません。作品は全26点。各1点の油彩と水彩を除くと、全てエッチングでした。

チラシ表紙を飾るのが唯一の油彩、「裸の少女の頭部」です。タイトルが物語るように、やや首を傾げては、前を見据える女性の姿が描かれています。眉間に皺を寄せ、やや苦悶の表情をしているようにも思えなくはありません。少女とするにはやや大人びているようにも見えます。

フロイドは1922年のイギリスの画家。精神分析学であるジークムント・フロイトの孫でもあります。

作品の多くは頭部などのポートレートです。そしていずれもフロイトの名を知る間もなく、人の内面、ないし苦しみのような感情を引き出した作品が目立ちました。かのフランシス・ベーコンと並べて評価する向きもあるそうです。確かに先の油彩しかり、どこか生々しい肉体表現はベーコン画を連想させはしないでしょうか。


荒木経惟「切実」 1972年

日本人の作家もいます。アラーキーこと荒木経惟です。7点の連作、タイトルは「切実」です。いずれもゼラチン・シルバー・プリント、1970年代の作品でした。被写体はTVCMです。その画面を写してはプリント。一度、真ん中の部分を破り、再びテープで貼り合わせています。多くはモデルの顔面が引き裂かれていました。コラージュとも呼べるでしょうか。キャリアの早い段階の作品です。まさかこのような制作を行っていたとは知りませんでした。

リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダーの写真も美しいのではないでしょうか。舞台はフランクフルトの動植物園です。ともかく色が美しい。赤や青の色彩が際立っています。主役は必ずしも動物ではありません。ペンギンの姿が僅かに写っているように見えましたが、ほかはどうでしょうか。全体的に像は朧げです。何処となく幻想的でさえあります。

デイヴィッド・ホックニーは3点、うち「シャトー・マーモントの裏手の家」に惹かれました。黒鉛とクレヨンによる小品ながらも、ざわざわとした細かな筆触などが心地良い。質感に優れています。


陳界仁「ファクトリー」 2003年

映像が1点、陳界仁の「ファクトリー」が展示されています。衣料工場を捉えたサイレントの映像です。上映時間は約30分ほどでした。


アイザック・ジュリアン「花が咲くとき(一万の波)」 2010年

ルーシェイなど、日本ではあまり見られない作家も少なくありません。作家の国籍も日本、台湾、アメリカ、イギリス、イタリア、そしてブラジルと幅広い。派手さはなく、必ずしも取っつきやすい内容ではありませんが、現代の美術に触れる一つの機会であるとは言えそうです。



9月4日まで開催されています。

「12 Rooms 12 Artists UBSアート・コレクションより」 東京ステーションギャラリー
会期:7月2日(土)~9月4日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。翌22日は休館。
料金:一般1000(800)円、高校・大学生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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