「木々との対話」 東京都美術館

東京都美術館
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」
7/26~10/2



東京都美術館で開催中の「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」を見てきました。

主に木彫の分野で活動する5名の現代美術家。各々の表現を1つの風景に見立て、美術館の内外へと至るインスタレーションを展開しています。

出品の作家は以下の通りです。

國安孝昌、須田悦弘、田窪恭治、土屋仁応、舟越桂

舟越の展示室以外は全て撮影が出来ました。


土屋仁応「竜」 2015年 個人蔵

まずは土屋仁応です。作品は13点。モチーフは小動物、ないし神話上の生き物です。いずれも愛おしくまた美しい。中でも魅惑的なのは表面の質感です。触ることはもちろん叶いませんが、ともかく生々しく、それでいて滑らかでもあります。またどことない気位を感じるのは私だけでしょうか。生き物らは皆、慎ましいまでのオーラに包まれているようにさえ見えます。


土屋仁応「森」 2012年 個人蔵

とりわけ「森」に魅せられました。モチーフは鹿でしょうか。大きな角を生やしています。首はややうつむき加減です。細い目からは僅かな光が放たれています。瞳は水晶でした。細い脚はやはり滑らかで、艶やかさえ感じさせます。仏教彫刻の技法を用いているそうです。身体の部分の装飾も繊細でした。


土屋仁応「麒麟」 2016年 作家蔵

「麒麟」もとかく美しい。写真では彩色がないようにも見えるかもしれませんが、実際には僅かに色が付いています。いずれもまだ若々しく見えるのも興味深いところです。無垢なまでの命、あるいは魂の表れを示しているのかもしれません。

続くのは田窪恭治です。まるで祭壇のような彫刻が並んでいます。制作は1980年代。かつて精力的に制作したというアッサンブラージュによる連作でした。


田窪恭治 展示風景

寄せ集め、ないし結び付けるを意味するアッサンブラージュ。元になる素材は木、しかも廃材です。それを収集してはオブジェへと転化させています。全て金箔が貼られていました。輝きは眩い。光は空間を厳かに照らしています。


田窪恭治「イノコズチ」 1985年 宇都宮美術館

3点の彫刻が互いに向き合う「イノコズチ」に目が留まりました。下に敷かれたのは鉄板。それぞれの彫刻はワイヤーで結ばれています。さも祈りを伴うような儀礼の場をイメージさせはしないでしょうか。

國安孝昌は1点、新作の「静かに行く人は、遠くへ行く。」のみ。しかしながら吹き抜けのスペースを利用した圧巻のインスタレーションを見せています。


國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年

ともかくうず高く組み合わされたのは無数の丸太です。一体、何本あるのでしょうか。大蛇の如くとぐろを巻き、一部は天井にまで達しています。もはや建築と呼んでも良いかもしれません。


國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年

素材は丸太だけではなく、陶ブロックも用いられています。それゆえか彫刻としての強度も伴っていました。國安の作品といえば2013年、国立新美術館のアーティストファイルでも同様の大作を見たことがありますが、それを超えるスケールではないでしょうか。あっけにとられながら、ただただ見上げるほかありませんでした。

舟越桂は彫刻、ドローイングを合わせて15点ほど。いずれも2000年以降の作品です。女性をモチーフとしながらも、時に異形と称される独特な人物の彫像を展示しています。

とりわけ印象深いのは2000年代はじめと本年、つまり最新作における表現の違いでした。というのも旧作はそれこそ異形の要素が強く、シュールとも受け取れる表現が目立つものの、それが新作では幾分影を潜めています。表情も穏やかで強い母性を感じさせました。あくまでも生身の人間、トルソーを捉えたようでもあります。


須田悦弘「バラ」 2016年

須田悦弘の彫刻を全て見つけるには多少の労力が必要かもしれません。最も目立つのは「バラ」です。白く長い回廊の先に一輪、花びらを散らした赤いバラが逆さになってぶら下がっています。さらに「ユリ」も美しい。美術館の壁面、その隙間からさも本当に生えているように置いています。


須田悦弘「ユリ」 2016年

一方で「雑草」はどうでしょうか。まさに道端に生え、誰もが気に留めないような雑草。それを須田はやはり通常は見逃してしまうような場所に展示しているのです。


須田悦弘「朝顔」 2016年

さらに須田の作品は展示室の外へ拡張しています。「朝顔」と「露草」です。出品リストに設置場所の記載があるため、探して歩く必要はないかもしれませんが、特に「露草」の演出が心憎い。思わず見つけた時に息をのんでしまいました。

拡張といえば田窪の「感覚細胞ー2016年・イチョウ」も同様です。場所は展示室の外はおろか、美術館の外、つまり屋外でした。


田窪恭治「感覚細胞ー2016年・イチョウ」 2016年

舞台は文字通りイチョウです。ちょうど美術館の北側、敷地内にそびえ立つ大イチョウ。ともすると上野公園内でさほど目立つ樹木ではないかもしれませんが、田窪はそこへあえて光を当てました。

樹木の周辺に注目です。オレンジ色のブロックが敷かれていることがわかります。これこそが田窪が近年、自らの仕事とする風景芸術です。大イチョウはかつての戦争の爆撃を受け、被災。しかしながら今もたくさんの緑をつけています。その生命を祝福するかのようにブロックで彩っているわけです。

展覧会タイトルにある木々、そして再生へ特に寄り添ったインスタレーションと言えるのではないでしょうか。眩しい太陽の光のもと、深い緑とオレンジが美しいコントラストをなしていました。


土屋仁応「子鹿」 2010年 I氏コレクション(富岡市立美術博物館寄託)

いずれの作家も力作揃いです。期待以上に楽しめました。

ポンピドゥー展の半券を提示すると一般当日の入館料が300円引きになりました。大人もワンコインの500円で観覧出来ます。

10月2日まで開催されています。おすすめします。

「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:7月26日(火)~10月2日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は20時まで開館。但し9月23日(金)、9月30日(金)を除く。
 *8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日。但し9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般800(600)円、大学生・高校生400円、65歳以上500円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *「ポンピドゥー・センター傑作展」のチケット(半券可)提示にて一般当日料金から300円引。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
 *10月1日(土)は「都民の日」により無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京
「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景ーマルケ、魁夷、広重の見た世界」
7/27~8/18



ホテルオークラ東京で開催中の「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景」を見てきました。

毎年夏恒例、ホテルオークラ東京のチャリティーイベントのアートコレクション展。今年のテーマは旅、そして風景です。

出品は計70点。タイトルにもあるようにマルケ、魁夷、広重に着目しているのが特徴です。

さてそのマルケ、何と18点も出ていました。これほどまとまってマルケが展示されたことは近年なかったのではないでしょうか。ミニマルケ展としても差し支えありません。


アルベール・マルケ「コンフラン=サント=オノリーヌの川船」 1911年 公益財団法人吉野石膏美術振興財団(山形美術館に寄託)

「コンフラン=サント=オノリーヌの川船」はどうでしょうか。舞台はマルケの描き続けたセーヌ河畔の街です。河川輸送が盛んでした。川に浮かぶのは一隻の貨物船です。遠くの吊り橋の上には馬車が行き交います。川岸の緑も眩しい。水色の空には雲がわいていました。ほぼ晴天。透明な川面には空色が反射しています。


アルベール・マルケ「霧のリーヴ・ヌーヴ、マルセイユ」 1918年 公益財団法人上原美術館

セーヌだけでなく、マルセイユもマルケが見続けた水の景色でもあります。「霧のリーヴ・ヌーヴ、マルセイユ」は同地の港を描いた作品です。たくさんの船が停泊しています。霧はやや深く、遠くの建物は煙に霞んでいます。マストでしょうか。縦のラインが特徴的です。全体を覆う水色はかなりグレーを帯びています。


アルベール・マルケ「アルジェの港、ル・シャンポリオン」 1944年頃 ヤマザキマザック美術館

北アフリカのアルジェも画家の愛した土地でした。「アルジェの港、ル・シャンポリオン」も魅惑的です。広く見開かれた港。かなり高い地点から俯瞰して描いています。蒸気船は煙を吹いています。奥が外洋で手前が湾、そして陸と続きます。水面の色はエメラルドグリーンです。光は強い。同地の輝かしい陽を表しているのかもしれません。


アルベール・マルケ「ポン・ヌフ夜景」 1938年 サントリーコレクション

夜景を描いた一枚に目が留まりました。「ポン・ヌフ夜景」です。パリのセーヌに架かる橋。しかしながら闇に覆われ、川の姿を見ることは出来ません。ともかく強いのは建物のネオンサインです。黄色い明かりが粒状になって点々と連なっています。水景で知られるマルケですが、このような作品があったとは知りませんでした。

東山魁夷は全11点です。まず印象深いのは「スオミ」でした。北欧シリーズの一枚です。森林がはるか彼方へと連なり、湖が広がっています。舞台はフィンランドです。木々の緑青の質感は豊かで、水を示す白も銀色に輝いていて美しい。雄大な山河を澱みのない筆触で描いています。


東山魁夷「山峡朝霧」 1983年

唯一の屏風装である「山峡朝霧」に惹かれました。深い山を立ち上がる朝霧。山肌を隠しては辺りを潤しています。右手前に滝の白い筋が見えました。冬の景色なのでしょうか。寒々しい。水墨のニュアンスが絶妙です。幻影的とも呼べるかもしれません。

さてアートコレクション、「秘蔵」とあるように、思いがけない画家に魅惑的な作品があるのも嬉しいところです。


牧野義雄「テームス河畔」 制作年不詳 東京藝術大学

例えば牧野義雄です。名は「テームス河畔」。明治30年、画家がイギリスの地に渡った頃に描いた一枚です。場所はテムズ。川岸の小径です。街路樹の木立が手前の上から垂れています。そして語らう人々。穏やかな夜の景色です。何よりも美しいのはうっすら紫色を帯びた霧の描写でした。牧野自身、ロンドンの霧の印象に強く感化されていたそうです。それゆえの表現かもしれません。遠景は色が滲み出ていて明瞭ではありません。何とも叙情的な作品ではないでしょうか。


赤松麟作「夜汽車」 1901年 東京藝術大学

赤松麟作の「夜汽車」も力作です。時は明治時代、汽車に乗る人々を捉えています。煙草を吸い、談笑し、外の景色を眺める者などがいます。よく見ると床にはミカンの皮が転がっていました。誰か食べたものをそのまま捨ててしまったのかもしれません。手前の母子が目立っています。子は疲れてしまったのか母の膝を枕に眠りこけています。母も目はうつろです。長旅なのかもしれません。とはいえ、しっかりと子を毛布にくるんでは抱いていました。

広重はラストでの展開です。「東海道五十三次」が全点揃い踏みしています。四季折々、人々の営みや土地の風土を交えての東海道の旅。追って楽しむことが出来ました。

お盆休み中に出掛けましたが、場内は空いていました。間もなく会期末ですが、ゆっくり楽しめると思います。

8月18日まで開催されています。

「第22回 秘蔵の名品 アートコレクション展 旅への憧れ、愛しの風景ーマルケ、魁夷、広重の見た世界」 ホテルオークラ東京
会期:7月27日 (水) ~8月18日 (木)
休館:会期中無休。
時間:10:30~18:30(入場は18時まで)*初日のみ12時開場。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 アスコットホール (地下2階)
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 
7/26〜9/25



渋谷区立松濤美術館で開催中の「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」を見てきました。

15世紀後半以降、マレーシアやシンガポールへと移住してきた中国系移民の末裔ことプラナカン。彼らは数百年に渡ってマレーやヨーロッパと交わり、独自の「ハイブリットな文化」(解説より)を築きました。

その一つがサロンクバヤです。クバヤとはレースのブラウス、そしてサロンとは色鮮やかなジャワ更紗の腰布を意味します。つまりファッションの文化です。女性たちが身に付けていました。

館内の撮影が出来ました。


「儀礼用ローブ(カワイ)」 18世紀 インドネシア、スマトラ島ランブン(縫製) シンガポール国立アジア文明博物館

冒頭はジャワのローブです。用途は儀礼用。刺繍は実に多様で複雑です。同じものを探すのは容易ではありません。時は18世紀です。当時の施政者らはパッチワークにこそ呪術的な力があると考え、ローブを注文しました。


「腰衣(サロン)」 18世紀後半、19世紀初期 インド、コロマンデル海岸(染) リー・キップリー夫妻

腰衣も美しい。サロンのかなり早い時期の作例です。両端に小さな針穴があることから、かつては縫われ、スカートとして利用されていたことが分かりました。


「上衣(クバヤ)」 1890-1910年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館

一方のクバヤ、すなわちレースは、16世紀から17世紀頃にインドを経てアジアへ入ってきたと考えられています。展示のクバヤは19世紀末から20世紀初頭のもの。この頃には身体に添う形のスタイルが流行しました。昼用と夜用で装飾が違っていたそうです。


「腰衣(サロン)」 1890年頃 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻

そのサロンにも注目です。何と模様は白雪姫。ちょうど女王が鏡に向かって話しかける場面が表されています。意匠は繊細でアール・ヌーヴォー風。実際に影響を受けています。ヨーロッパ人の作家の手によって制作されました。

サロンクバヤは時にプラナカンらの置かれた政治的状況を物語ります。例えば20世紀初頭の中華ナショナリズムの台頭です。その動きはシンガポールへも伝播。プラナカンらは祖先の母国、中国の動向と、植民地下におけるイギリス臣民として立場の間に挟まれます。サロンクバヤが中国風であるのか、あるいは洋風であるのかは、一つのアイデンティティーの表明でもあったわけです。


「上衣(サロン) 1900年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰衣(カインパンジャン)」 1900-1910年 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻


一方でオランダ領東インドに居住していたプラナカンはどうでしょうか。彼らは1910年にオランダ臣民になることを許され、ヨーロッパのモチーフを付けたサロンクバヤを新たなステイタスとして取り入れます。一言にサロンクバヤとはいえども、地域によって流行なり実情はかなり違っていました。


「上衣(クバヤ)」 1920年代 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン)」 1920年代 インドネシア、ジャワ島北岸 リー・キップリー夫妻


製法の進展もサロンクバヤのスタイルを変化させます。染料です。19世紀の半ばに合成染料が開発。一気に色が増えていきます。またヨーロッパのプリント布も使われるようになりました。


「上衣(クバヤ)」 1945-1955年 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン パソギレ)」 1950年代 インドネシア、ジャワ島、クドゥンウニ


最後の革新をもたらしたのがミシンの導入でした。手縫いから機械を利用することで、広い面積に簡単に刺繍が出来るようになります。より強い色彩でかつ、華やかな刺繍を伴うサロンクバヤが一般化しました。


シンガポール航空客室乗務員の制服「サロンケバヤ」 2016年 シンガポールを拠点(縫製) シンガポール航空

いわゆる洋装が普及した2次大戦以降もサロンクバヤも作られています。現在のシンガポール航空の客室乗務員の制服もサロンケバヤと呼ばれるクバヤのスタイルを受け継いだもの。その伝統は今も脈々と受け継がれています。


「3点組ブローチ」  1900-1920年 マレーシア、ペナン(制作) リー・キップリー夫妻

ほかプラナカンの人々が身につけた装身具も紹介。ペンダントやブローチ、ブレスレットなどの細かな細工には目を奪われました。


「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」会場風景

サロンクバヤの大半はシンガポール国立アジア文明博物館、ないしはプラナカンの名門であるリー・キップリー夫妻のコレクション。約140点です。そう頻繁に日本で公開されるものではありません。またサロンクバヤを通し、プラナカンの歴史、ないし社会的状況の変遷なども追うことが出来ました。

9月25日まで開催されています。

「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館
会期:7月26日(火)〜9月25日(日)
休館:8月1日(月)、8日(月)、15日(月)、22日(月)、29日(月)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)、23日(金)
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「土木展」 
6/24~9/25



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「土木展」を見てきました。

インフラほか、日常の生活のために不可欠な技術である土木。それをアートやデザインなどの観点も盛り込んで幅広く捉えようとしています。


「渋谷駅解体」 田中智之 2011年

はじめのテーマは「都市の風景」。田中智之の描いた駅の解体図が圧巻です。舞台は東京駅と新宿駅と渋谷駅。ともに国内有数のターミナルです。単に構内にとどまらず、派生する連絡通路、エスカレーター、さらに屋外の道路、ないしビルなどが見取り図の形で描いています。


「東京駅解体」 田中智之 2014年

いずれも緻密でかつ迫力満点です。また人の足跡までが事細かに記されています。人の流れを可視化していると言えるのではないでしょうか。駅がいかに交通の重要な連結点であるかを見ることが出来ます。


「土木オーケストラ」 ドローイングマニュアル 2016年

ラベルのボレロが聞こえてきました。「土木オーケストラ」です。巨大スクリーンに投影されるのはまさに現場そのもの。溶接、解体、またクレーンが動く様子などが映されています。ヘルメットをかぶり汗を落とす職人のアップもありました。高度経済成長期の記録です。そこへ時折、現在の渋谷駅の工事現場の光景がクロスします。ボレロはいわばBGMです。とは言え、単にオーケストラの演奏ではありません。ハンマーを打音などをコラージュしてボレロの音楽に取り込んでいるわけです。これが巧妙です。すぐには気がつきませんでした。


「キミのためにボクがいる。」 WOW 2016年

同じく映像では「キミのためにボクがいる。」も目立っていました。キミとは我々人間や動物たち。ではボクとは何を指すのでしょうか。消波ブロックやコンクリートブロックでした。災害を防ぐ土木の役割をアニメーションで伝えています。


「渋谷駅(2013)構内模型」 田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科田村研究室 2013年

田中圭介は渋谷駅の構内を模型で表しました。今も工事の続く渋谷駅。再現は2013年時点のものです。四方八方、触手のように延びる駅の階段やホーム。上下に階層が多く、極めて立体的なのが特徴です。地上は3階。銀座線です。そして副都心線でしょうか。地下は5階にまで及んでいます。渋谷駅の乗り換えは縦移動が多いことを改めて思い出しました。


「人孔」 設計領域 2016年

DESIGN SIGHTらしく体験型の展示が多いのもポイントです。「人孔」では本物のマンホールに潜り込むことが可能。ヘルメットをかぶっては下からアスファルト面へ顔を出すことも出来ます。


「ダイダラの砂箱」 桐山孝司+栞原寿行

ほか等高線をつくる体験展示も興味深い。砂に触れて自由に高低差を変えられます。地形と土木は密接に関わりあっています。


「ストラクチャー」 渡邊竜一+ローラン・ネイ 2016年

土木の関する素材についての言及もありました。例えばストラクチャー。厚さ僅か1ミリの板による橋の模型です。レーザーカット、ロボット溶接、そして職人の手作業などの複数の工程を経て完成しました。


「山」 公益社団法人 日本左官会議(挟土秀平、原田進、小林隆男、小沼充) 2016年

土を突き固めた版築によるピラミッドも登場。左官の技術です。仕上げ面を触っては風合いを味わうことも出来ました。


「Perfume Music Player Installation」  ライゾマティクスリサーチ 2016年

またライゾマティクスによる映像も大がかりなシステムです。スマホの位置情報とPerfumeの楽曲視聴データを連動させ、東京の交通網や人の流れを分析しています。


「BLUE WALL 永代橋設計圖(東京大学大学院工学系社会基盤学専攻所蔵)」 EAU 2016年

都市工学、建築、環境、交通計画など、多方面からなる土木。盛りだくさんな内容のゆえか、つまるところ「土木とは何か」という点がぼやけている感も否めませんでしたが、一つのとっかかりとして土木を知る機会ではあるのかもしれません。


「土木の道具」 ワークビジョンズ/西村浩 林隆青 2016年

会場内、スマホを片手に写真を撮りながら楽しんでいる方が多く見受けられました。


「建設機械グラフィック」 コマツ 2016年

9月25日まで開催されています。

「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:6月24日(金)~9月25日(日)
休館:火曜日。但し8月23日は開館。
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
 *8月23日(火)は17時まで開館。
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館

国立新美術館
「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」
7/13~10/10 



国立新美術館で開催中の「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 を見てきました。

1817年、イタリアのヴェネツィアに設立されたアカデミア美術館。元は同地のアカデミーが管理していたヴェネツィア派の絵画コレクションに由来します。またナポレオンの占領時代には、市内で取り外された祭壇画を収集していたそうです。

現在の所蔵作品は約2000点です。うち中核となる14世紀から17世紀のヴェネツィア・ルネサンス絵画、約60点がやって来ました。


ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子(赤い智天使の聖母)」 1485-90年 

冒頭はルネサンスの夜明け。ヴェネツィアでのルネサンス美術はフィレンツェにやや遅れること1440年頃に始まりました。ベッリーニの「聖母子」が見事です。しっかり目を見つめあって寄り添う聖母子の姿。あどけないイエスはマリアの膝の上に座っています。マリアの手はかなり大きい。ちょうどイエスの身体を挟み込むように支えています。目立つのは上空の天使です。通称「赤い智天使」の名が示すように、姿形が全て赤く染まっています。後景の描写が緻密でした。山が連なり、川が流れ、家々の並ぶ様子が細かに描かれています。

クリヴェッリは対で2点です。「聖セヴァスティアヌス」に惹かれました。多くの矢で射抜かれたセヴァスティアヌス。目は虚ろで、口は半開き。もはや生気はありません。一部の矢は身体を突き抜けていました。如何にも痛々しい。背後のタペストリーらしき草花の模様が魅惑的です。まるでモリスの描くデザインのようでした。

お告げを聞くマリアを正面から捉えています。アントネッロ・デ・サリバの「受胎告知の聖母」です。書物を前に、やや右手を上げては、静かに佇むマリア。青いヴェールをまとっています。手前からかなり強い光が当たっているのでしょうか。陰影はドラマティックなまでに強い。口をややすぼめては横を見やる表情にはどこか余裕が感じられます。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子(アルベルティーニの聖母)」 1560年頃

ティツィアーノの「聖母子」も慈愛に満ちていました。右手で裸のイエスを支えるのがマリアです。表情にやや硬さがあるものの、左手をイエスに差し出しては心を通わせています。筆致はやや粗く、ぼんやりとした光が全てを包み込みます。やや小ぶりの作品です。おそらくは個人の注文によって制作されたと考えられているそうです。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「受胎告知」 1563-65年頃 サン・サルヴァドール聖堂

チラシ表紙を飾るのもティツィアーノです。名は「受胎告知」。高さ4メートル超にも及ぶ祭壇画です。サン・サルヴァドール聖堂を飾っていました。予想以上に大きい。迫力があります。天井高のある新美術館だからこそ実現した展示と言えるかもしれません。

構図からして劇的です。舞台上、左からやってきたのが大天使です。マリアは驚いたのか身を屈めています。手前のガラスの花瓶には百合が活けられていました。天は裂け、聖霊の白い鳩が降りています。周囲の天使のポーズも時にアクロバティックで動きがありました。全体を覆う金褐色の色彩も美しい。作品から数メートル離れて見ると一際輝いて見えました。受胎告知の瞬間そのものを見事に捉えています。

さてティツィアーノに次ぐのがティントレット、そしてヴェロネーゼでした。


ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)「聖母被昇天」 1550年頃

ティントレットの「聖母被昇天」も充実しています。かつてヴェネツィアにあったサン・スティン聖堂を飾った祭壇画です。使徒たちの囲む中、石棺から聖母が手を広げては天へ昇る様子を描いています。使徒たちは皆、驚き、慄いては、聖母を仰ぎ見ていました。色彩は全般的に明るい。特に着衣の赤が目に付きます。強い光を示しているのでしょうか。白いハイライトも効果的でした。

パオロ・ヴェロネーゼも優品揃いです。作品は工房作を含めて全部で5点。工房作の「羊飼いの礼拝」も華麗で美しい。天は透き通るように青く、聖家族を囲む羊飼いたちも優美です。造形や色彩の感覚がかのラファエロに由来するというのにも頷けます。


パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)「レパントの海戦の寓意」 1572-73年頃

同じくヴェロネーゼの「レパントの海戦の寓意」はどうでしょうか。1571年、時の神聖同盟軍がオスマン帝国に勝利した戦い記念して描かれた一枚、当初はより大きな作品だったと言われています。

ともかく目を引くのは無数の船団です。両軍入り混じってのまさに総力戦。たくさんの兵士が乗っています。よく見ると矢を放っています。一部では火の手もあがっていました。空は白い雲と黒い雲に分かれています。右の雲の下がオスマン帝国軍です。行く末を暗示しているのでしょう。一方の同盟軍には白い光が差し込んでいます。

上空にいるのは聖母やヴェネツィアの守護聖人たちです。さらにスペインやローマの聖人らもいます。その固い結束を表しているようです。


ヤコポ・バッサーノ(本名ヤコポ・ダル・ポンテ)「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」 1569年

バッサーノにも見入る作品がありました。「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」です。暗がりの荒野の中、ヒエロニムスが瞑想する様子を描いています。前には十字架のイエス、空には聖母子が浮かんでいました。野山しかり、自然の表現に臨場感があるのが目を引きます。バッサーノは一時、ヴェネツィアで過ごしたものの、生涯の大半をその北西の小都市で活動しました。彼が見ていた田舎の景色そのものもモチーフとして取り込まれていたのかもしれません。

ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノは1580年代の終わりから90年代にかけて他界します。その後のヴェネツィア絵画は3名のスタイルを受け継ぐ後継者の時代に入りました。さらに世代を降って活動したのが、ティツィアーノの作品に学んだパドヴァニーノです。

「オルフェウスとエウリュディケ」も力作ではないでしょうか。ギリシャ神話の1シーン、ちょうどオルフェウスがエウリュディケを地上に連れ戻そうとする様子を描いています。背景は暗く、どこかバロック絵画を思わせます。とは言え、衣服の色彩感にはヴェネツィア派の影響を見ることも出来なくはありません。エウリュディケはやや顔を赤らめてもいます。幾分と官能的でした。


ベルナルディーノ・リチーニオ「バルツォ帽をかぶった女性の肖像」 1530-40年頃

展示は基本的にヴェネツィア派を時代に沿って追っていますが、彼らの得意とした肖像画をまとめて見るセクションもありました。また意外なことにアカデミア美術館のコレクションがまとめて来日したのは初めてのことだそうです。

現在、国立新美術館では1階でルノワール展、2階でヴェネツィア展が行われています。ルノワールの方はかなり賑わっているようですが、ヴェネツィア展は今のところ混雑とは無縁です。空いている環境でじっくりと楽しむことが出来ました。

10月10日まで開催されています。

「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」@accademia2016) 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月13日(水)~10月10日(月・祝)
休館:火曜日。但し8月16日(火)は開館
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は夜20時まで開館。
 *8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *9月17日(土)~19日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
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「はじめての古美術鑑賞」 根津美術館

根津美術館
「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 
7/23~9/4



根津美術館で開催中の「はじめての古美術鑑賞ー絵画の技法と表現」を見てきました。

ともすると日頃、あまり技法などを意識せずに見ている古美術品。解説などで何気なく分かっているつもりでも、どれほど正しく理解しているかと問われれば危うい面も少なくありません。

そこに着目したのが「はじめての古美術鑑賞」です。出展は日本の古い絵画。全て館蔵品です。参照する技法は、たらしこみ、溌墨、付立て、外隈、金雲、白描、截金、裏箔、繧繝彩色の9つでした。


喜多川相説「四季草花図屏風」(部分) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館

まずはたらしこみです。琳派でも比較的馴染みの深い技法、伝立林何げいの「木蓮棕櫚芭蕉図屏風」に惹かれました。乾ききらないうちに、水の含んだ墨や絵具をさらに加えて滲みを生じさせるたらしこみ、木の幹や皮の部分に用いています。一方で木蓮の白い花も美しい。喜多川相悦の「四季草花図屏風」も可憐です。右隻に芥子や夕顔、左隻に菊や萩などを描いていますが、その随所でたらしこみを見ることが出来ます。


雲溪永怡筆 沢庵宗彭賛「山水図」(部分) 日本・室町時代 16世紀 根津美術館

次いで溌墨です。たっぷりつけた墨をはね散らかすようにして形状を表現します。雲渓永怡の「山水図」では丸い山や岩を先に描き、その上から溌墨で木々を象ります。筆触は即興的で素早い。何やら景色が湧き上がるかのようでした。

よく見られますが、名称自体はあまり有名ではないかもしれません。外隈です。白い紙の地色を生かし、外側を墨などでぼかしては、隈取りする技法です。雪や光の表現などで登場します。「楊柳白鷺図」は2羽の鷺が外隈でした。仲安真康の「富嶽図」は富士の部分です。確かに山の際の外側に薄い墨が引かれていることが分かります。


長沢芦雪「竹狗児図」(部分) 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館

付立てはどうでしょうか。輪郭線を用いず、筆の穂の側面などを巧みに操り、一筆書きで対象を表す技法です。芦雪の「竹狗児図」の筆さばきが秀逸でした。師の応挙にならったのか可愛い仔犬が2匹、その上の竹笹が付立です。特に笹の部分が上手い。線に迷いがありません。効果的に用いています。

一番知られているのは金雲かもしれません。雲や霞を金箔で表す技法です。屏風絵などで頻繁に見かけます。華やかな「洛中洛外図屏風」が出ていました。胡粉で盛り上げた模様の上に金箔を貼っています。かなり装飾的です。金雲から覗き込んで見れば、市中では鉾が巡行しています。祇園祭です。多くの見物人の姿も描かれていました。

截金、裏箔、繧繝彩色も同じ金に関する技法です。そしてこれらを用いた作品は仏教絵画が目立っていました。


「愛染曼荼羅」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

非常に根気のいる作業が伴うのではないでしょうか。截金です。金箔などを細い線や三角などに切って貼り付ける技法。仏画では仏の着衣や背景の文様などで使われます。「愛染曼荼羅」では背景の無数の文様に截金を利用。一体、何個あるのでしょうか。また強い光を出す際も截金が効果的です。仏身から放たれる光線なども表現しています。


「愛染明王像」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

繧繝彩色(うんげんさいしき)、この技法の名を初めて知りました。一言で表せば、同系の色を変化させる際、ぼかしを用いず、数段階に分けて色を付けていくものです。参照されていたのは「愛染明王像」です。確かに蓮台の部分が何種類かの色に塗り分けられています。グラデーションとはまた違うのかもしれません。

技法の解説パネルと作品を交互に参照するシンプルな構成です。凝った仕掛けはありません。ただそれでも、一度、日本の古美術の絵画技法についておさらい出来る良い機会と言えるのではないでしょうか。



今回は絵画でしたが、ひょっとすると続編として工芸などもあるやもしれません。そちらにも期待したいところです。



9月4日まで開催されています。

「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 根津美術館@nezumuseum
会期:7月23日(土)~9月4日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「アートアワードトーキョー丸の内2016」 丸ビル

丸ビル1階マルキューブ、3階回廊
「アートアワードトーキョー丸の内2016」 
7/25〜8/3



丸ビルで開催中の「アートアワードトーキョー 丸の内 2016」を見てきました。

全国の美大の卒業制作などから選抜された若いアーティストらの作品を紹介するアートアワードトーキョー丸の内。今年で第10回目を迎えました。

出展作家は全20名。既に会期初日、専門家諸氏による審査が行われ、グランプリ以下、10賞が決定しました。

「アワード」@アートアワードトーキョー丸の内2016


村上勇気「大気圏」 2016年 東京藝術大学大学院 グランプリ

その栄えあるグランプリに選ばれたのが林田勇気の「大気圏」です。高さ4メートルにも及ぶ巨大な木彫作品、素材は樟でした。台座の上に立つのはおそらくは少年です。分厚いダウンコートを着てはブーツを履いています。手には手袋をはめていました。凍てつく寒さの中にいるのでしょうか。とすると周囲の装飾物も雪の結晶のようにも見えなくもありません。


村上勇気「大気圏」(部分) 2016年

目線は下方、睨むように下を向いています。両手で四角いガラスのボックスを持っていました。何を意味するのでしょうか。どこか恭しくもあります。木彫の質感、特に立体感が素晴らしい。まるで絵具や石膏を盛り固めたような表面も独特でした。


丸山純「間」 2015-16年 名古屋造形大学 小山登美夫賞

同じく木彫では丸山純の「間」も目立つのではないでしょうか。大きな円柱状の彫刻、一つは鳥のようにも見えます。表面は荒々しい。チェーンソーの跡かもしれません。無数の傷がついています。所々、くり抜かれていました。中には別のオブジェがあります。まるで大きな樹木の中に寄生する生きものようでした。


高山夏希「From as one」 2015-16年 東京造形大学大学院 後藤繁雄賞

平面では高山夏希の「From as one」に惹かれました。2対のキャンバス、何かの動物に跨る人の姿が描かれています。1つは馬、あるいは驢馬でしょうか。素材はアクリルと油彩です。何やら糸が紡ぐように広がっています。モチーフは北極圏のイヌイットとありました。1人は大きな瞳をこちらに向けています。気がつけば確かに寒々しい。雪の中を進んでいるのかもしれません。制作に際しては絵具を削り取ってもいるそうです。それゆえの表面の質感も魅惑的でした。


村上早「息もできない」 2015年 武蔵野美術大学大学院 フランス大使館賞

村上早の「息もできない」はどうでしょうか。ほぼモノクローム、銅版画です。黒く太い線が揺らいではモチーフを象ります。逆さになるのはスカートをはいた女性です。両手を開き、長い髪を振り乱しています。対に交わるのは犬でしょうか。あまりにも大きい。女性を抱くようにして転がっています。


吉田桃子「FL.stay」 2016年 京都市立芸術大学大学院 三菱地所賞

吉田桃子の「FL.stay」にも目がとまりました。計2面、何やら映像のワンシーンのようです。その意味では動きも伴います。とは言え、モチーフは明らかではありません。何層もの皮膜に覆われています。下方には無数の絵具が垂れていました。何でも音楽を聴いている時に想像するイメージを表しているのだそうです。一体、どのような音楽が流れていたのでしょうか。


アルベルト・ヨナタン・セティアワン 「Solar Worship」 2015-16年 京都精華大学大学院

確かに瞑想の場のようでした。アルベルト・ヨナタン・セティアワンは「Solar Worship」においてマンダラや人間の精神をテーマとする空間を作り上げています。床で円状に広がるのは「太陽の礼拝」。テラコッタで出来ています。実際に座り、拝むことは叶いませんが、ほかとは異なる神聖な気配を感じました。


「アートアワードトーキョー丸の内2016」3階会場風景

10回展を記念したのか、今年は前年の丸ビル1階マルキューブだけでなく、3階の回廊も会場となっています。2会場制です。すぐ横のエスカレーターで簡単に行き来出来ます。観覧の際はご注意下さい。


「アートアワードトーキョー丸の内2016」1階会場風景

入退場自由、無料の展示です。8月3日まで開催されています。

「アートアワードトーキョー丸の内2016」 丸ビル1階マルキューブ、3階回廊
会期:7月25日(月)~8月3日(水)
休廊:会期中無休
時間:11:00~21:00
料金:無料
住所:千代田区丸の内2-4-1 丸ビル1階、3階
交通:JR線東京駅丸の内地下中央口、東京メトロ丸ノ内線東京駅より地下直結。東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より地下直結
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「古代ギリシャ展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「古代ギリシャー時空を超えた旅」
6/21~9/19



東京国立博物館で開催中の「古代ギリシャ展」を見てきました。

古くは紀元前7000年にまで遡る古代ギリシャ。新石器時代からミノス、ミュケナイ文明、そしてヘレニズム、さらにはローマ時代までのギリシャの歴史を振り返ります。

はじまりは新石器時代の女性像でした。粘土製です。足を組み、手を組んでは座る人物の姿。身体中に白い刻線が引かれています。お腹からお尻の辺りの造形が逞しい。おそらくは儀式用のものだと考えられています。

不思議な形をした容器がありました。「スキュフォスとアンフォリスコス」です。例えるならキノコ型です。上部は蓋だそうです。中に入れるのは人骨、つまり骨壷でした。ひっくり返して穴に入れます。既に埋葬された人を再び取り出して火葬する風習があったそうです。呪術的な意味もあったのかもしれません。


「スペドス型女性像」 前2800~前2300年(初期キュクラデス2期) クフォニシア群島より出土か キュクラデス博物館

紀元前3000年に初期青銅器時代を迎えました。キュクラデス文明です。大理石の「スペドス型女性像」に魅せられました。高さは70センチ超と大きい。完全に直立です。両脚をピタリと寄せては立っています。腕はちょうど胸の下、腹の上辺りで組んでいます。長くのびた鼻が特徴的です。現在はいわゆるのっぺらぼうですが、かつては顔料で目や口が描かれていました。


「漁夫のフレスコ画」 前17世紀 テラ(サントリーニ島)、アクロティリの集落、「西の家」(第5室)より出土 テラ先史博物館

紀元前2000年頃にはクレタ島各地に宮殿が建設されるようになります。ミノス文明です。チラシ表紙を飾る「漁夫のフレスコ画」もこの時代の作品でした。海との密接な関わりを伺わせる漁労の姿。両手でたくさんの魚を吊るし持っています。表情はあどけない。若者です。髪型が変わっています。というのも、前後の2房を除いてはほぼ刈り上げているのです。この作品が残されたのはテラ(サントリーニ)島。後に火山の噴火により灰に埋もれてしまいます。それゆえに色彩が鮮やかなのだそうです。

「海洋様式の葡萄酒甕」も海との関わりを示す作品でした。何と言っても目を引くのはタコのモチーフ。3匹ほどいます。タコはまるで戯けたような表情をしていて可愛らしい。ちょっとしたゆるキャラのようです。ほかに海藻や魚も描かれています。見慣れた海の生き物をそのまま土器に描いたのかもしれません。

一方でかなり精緻な作品がありました。「牛頭型リュトン」です。素材は緑泥石。牛の毛並や模様も浮彫りで細かに表しています。神域でバラバラな形で出土したそうです。何らかの犠牲を伴う宗教儀式の祭具として用いられたと言われています。


「戦士の象牙浮彫り」 前14~前13世紀 キプロスの工房 デロス島、アルテミス神域より出土 デロス考古学博物館

長い長い古代ギリシャ。展示はまだ序盤に過ぎません。ミノス文明に次ぐのはミュケナイ文明。戦士たちが主役です。都市は堅牢な城壁に囲まれていました。その際たるものが「戦士の象牙浮彫り」ではないでしょうか。やや欠落しているものの、兜をかぶり、盾を持った戦士の姿が象られています。

紀元前1000年に入ると、幾何学様式(アルカイック)呼ばれる時代が到来しました。その様式の際たるのが「アッティカ幾何学様式アンフォラ」 です。かなり大型の陶器です。高さは80センチもあります。そこに円やジグザグ、あるいはメアンダー文と呼ばれる幾何学文が描かれています。アンフォラといえば貯蔵用の容器ですが、大型のものは墓標としても使われたそうです。


「クーロス像」 前520年頃 ボイオティア地方、プトイオン山のアポロン神域より出土 アテネ国立考古学博物館

大理石の立派な男女の彫像も登場しました。「クーロス像」と「コレー像」です。前者が男性で後者は女性。ともに笑みを浮かべています。「コレー像」は長い髪を胸の辺りまで垂らして美しい。衣服のドレープも流麗です。ギリシャでは紀元前7世紀末頃、このような大理石彫刻が次々と制作されました。


「アリストテレス像」 1世紀末期 アテネ、アクロポリス博物館敷地 アクロポリス博物館

ギリシャのシンボルともいえるパルテノン神殿が建設されたのは紀元前430年頃。民主政も確立し、演劇や哲学が盛んとなります。クラシック時代の到来です。堂々たるは「アリストテレス像」。ほぼ欠落もない、極めて状態の良い作品です。引き締まった口元、見開いた目はまさに聡明。いかにも賢者然としています。

パルテノン神殿の彫刻の複製も展示されていました。ほか演劇用の仮面や演者を象った彫像も面白い。民主政に因むのは投票具です。さらに神域に関する法令碑文や医療用のメスなどもあります。かの時代のギリシャ人の生活も浮き上がるようでした。

古代オリンピックに関する資料も充実しています。はじまりは紀元前8世紀。一際目につくのは大理石の「競技者像」です。ややうつ向き加減で笑みを浮かべる裸の男性。両腕が失われていますが、右手に冠を持っていたと考えられています。優勝者として頭に載せようとしていたのかもしれません。


「赤像式パナテナイア小型アンフォラ ボクシング」 前500年頃 アッティカ工房、「ピュトクレスの画家」 アイギナ島より出土 アテネ国立考古学博物館

アンフォラのモチーフにもオリンピックの演目が使われます。「赤像式パナテナイア小型アンフォラ ボクシング」は文字通りボクシングの様子を描いたものです。2人の男が殴り合います。左の男がもう1人の喉元あたりにパンチをくらわせています。鍛え上げられた筋肉も線で示されていました。なお古代オリンピックのボクシングが制限時間がなかったそうです。どちらかが降参するまでひたすらに試合は続きます。まさに死闘だったのではないでしょうか。

紀元前359年、マケドニアの王、フィリッポス2世が即位します。そして息子こそかのアレクサンドロス。東征により版図を広げた大王です。唯一に生前、王子時代を捉えたとも言われる大理石像が「アレクサンドロス頭部」でした。斜め上を見据えた姿。確かにややあどけなくも見えます。


「ギンバイカの金冠」  前4世紀後半 デルヴェニ(古代レテ)の墓地(B墓)より出土 テッサロニキ考古学博物館

マケドニアでは金の宝飾品が見事でした。特に「ギンバイカの金冠」が素晴らしい。ギンバイカとはギリシャに自生する植物です。金を薄く引き伸ばしては葉を表現しています。大変に華やかです。細かな蔦模様を配した「蔦花文様を表したディアデマ」も美しい。マケドニアは金の産地でもありました。ゆえに金の装身具などが多く作られたそうです。


「アルテミス像」 前100年頃 デロス島、「ディアドゥメノスの家」より出土 アテネ国立考古学博物館

ラストはローマ時代へと至る展開です。「ポセイドン像」や「アフロディケ像」など、お馴染みのギリシャの神々を象った彫像などが並んでいます。「アルテミス像」はどうでしょうか。やや上目遣いで立つ女神アルテミス。着衣の彫刻に立体感があります。時はヘレニズム後期。ミロのヴィーナスと同じ頃、場所も同じキュクラデス諸島で作られたと言われています。

ほかアフロディケを表したモザイクタイルなども目を引きます。後にキリスト教が広まると、ギリシャの彫像は破壊されたり、建築資材として使われたりすることもあったそうです。ローマは積極的にギリシャの美術や文化を取り入れましたが、そうした歴史の事実についても一部、言及がありました。

それにしても数千年の旅。出品も320件超と膨大です。うち9割は日本初公開でした。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



彫刻は露出も多く、細かに区切った会場は雰囲気もあります。一部、金の工芸品など、意匠の細かい作品がありました。単眼鏡があると便利かもしれません。



会場内、それなりに賑わってはいましたが、特に行列があるわけでもなく、全般的にスムーズに観覧出来ました。

9月19日まで開催されています。

「古代ギリシャー時空を超えた旅」@greece2016_17) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:6月21日(火)~9月19日(月)
時間:9:30~17:00。
 *金曜、および7、8月中の水曜は20時まで開館。
 *土曜・日曜・祝日は18時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日(月・祝)、8月15日(月)、9月19日(月・祝)は開館。7月19日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生900(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「河井寬次郎と棟方志功」 千葉市美術館

千葉市美術館
「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」 
7/6~8/28



千葉市美術館で開催中の「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」を見てきました。

創設者の柳宗悦とともに民藝運動を推進した2人の芸術家、河井寛次郎と棟方志功。ちょうど昨年が棟方の没後40年、今年が河井の没後50年でした。

その由縁ということかもしれません。民藝館のコレクションを中心とした2人の作品を概観する展覧会が行われています。

はじまりは民藝館の誕生前史です。若き棟方の油絵が3点ほど出ていました。実は棟方、幼少時代にゴッホ画の感化を受けて油絵を志向。キャリア初期には帝展などにも出品しています。いわゆる版画こと板画に進んだ後も油絵の制作を止めることはありませんでした。

うち目立つのが「庭B」です。縦横130センチほどの大作でした。西洋庭園でしょうか。噴水とアーチが見えます。色は強く、真夏の光を表すためか、全体的に明るい。熱気に満ちています。


河井寛次郎「碎紅芒目(さいこうのぎめ)草花文花瓶」 1920(大正9)年 河井寛次郎記念館

同じく最初期の河井では「碎紅芒目草花文花瓶」が美しい。まだ20歳頃の作品です。青く、また薄い白を伴った赤い色面が滲むように広がっています。

河井は本作の翌年、1921年に個展デビュー。しかしながら柳の収集した朝鮮陶磁の展覧会を見たことで、自らの「技術偏重の姿勢」(キャプションより)を転換します。そのシンプルな造形美にいたく感心したそうです。さらに後輩にあたる濱田庄司から柳本人を紹介されます。いつしや民藝運動へ深く関わるようになりました。

棟方が柳や河井と交流し始めたのは民藝館建設中の頃です。時は1936年。国画展に板画の「大和し美し」を出品したのが切っ掛けでした。そこに柳が注目。河井と棟方も互いの出会いを果たします。長きにわたる親交が始まりました。


棟方志功「鬼門譜板畫譜」より「眞黒童女」 1937(昭和12)年 日本民藝館

棟方の「萬朶譜」の原画は柳によるものです。松や梅が言わば幾何学模様を描くように広がります。デザインを意識させるかもしれません。


棟方志功「華厳譜」より「十八 風神」 1936(昭和11)年 日本民藝館

作品は大まかに制作年代順に並んでいますが、幾つかのテーマが設定されているのも興味深いところです。例えば「ほとけ」。言うまでもなく仏教説話に由来する作品を展示しています。

木喰の「薬師如来像」がありました。河井の後援者である川勝堅一が棟方に贈った仏像です。また目立つのは棟方の「東北経鬼門譜」でした。板画の屏風装です。横幅は何と9メートルにも及びます。モチーフは棟方の故郷の青森です。中央に鬼門仏を配し、菩薩や羅漢、あるいは人間の姿などを描いています。棟方が東北の幸を祈っては完成させた作品でもあるそうです。

河井と棟方の関わりを示す一枚が「鐘溪頌」でした。棟方が河井の新作展のために描いた6枚の板画。名は河井が京都で構えた「鐘渓窯」に由来しています。

「実験茶会」には驚きました。主催は棟方です。乾山の軸画を背に、河井から贈られた井戸茶碗などで茶をたてます。何に驚くかといえばBGMです。かの壮大なベートーヴェンの第九交響曲の第四楽章を流したそうです。さぞかし賑やかで荘厳な茶会になったことでしょう。


河井寛次郎「三色打薬扁壷」 1963(昭和38)年 河井寛次郎記念館

総出品数は170点。大変な量です。また民藝館のコレクションが中心でしたが、河井寛次郎記念館と棟方志功記念館、および我孫子市白樺文学館からも作品がやってきていました。

会期中の展示替えはありません。8月28日まで開催されています。

「河井寬次郎と棟方志功 日本民藝館所蔵品を中心に」 千葉市美術館
会期:7月6日(水)~8月28日(日)
休館:8月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前売券は千葉都市モノレール千葉みなと駅、千葉駅、都賀駅、千城台駅の窓口で会期末日まで販売。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」 国立歴史民俗博物館

国立歴史民俗博物館
「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」
7/12〜9/4



国立歴史民俗博物館で開催中の「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」を見てきました。

江戸幕末期、2度に渡り、医者として来日したシーボルト。博物学者でもあったことから日本の生活資料を数多く収集し、ヨーロッパへと持ち帰りました。

そのシーボルト、現地の博物館でいわゆる日本の博物展示を行ったそうです。


「日本人の画家によるシーボルト肖像」 ブランデンシュタイン家

冒頭はシーボルト自身に関する資料です。シーボルトの肖像画はどうでしょうか。描いたのは日本の絵師。目を吊り上げ、口を尖らせては横を向く姿を捉えていますが、ともかく鼻が異様に高い。西洋人の鼻はよほど印象に深かったのでしょう。かなり誇張しています。

最初の来日後は出島に住み、16歳の女性に身の回りの世話をさせます。その人物こそが、事実上の夫婦生活を送ったオタキこと其扇です。5年間ともに暮らし、娘のイネをもうけました。

シーボルトは長崎郊外の鳴滝に学塾を構えることを許されます。ここで日本人の研究者と交流。医学知識を教えるとともに、日本の資料収集に熱心に取り組みました。


「鳴滝の家屋模型」 ミュンヘン五大陸博物館

「鳴滝の家屋模型」が出ていました。木造2階だて、縦の格子が特徴的な建物です。意外と小さい。結果的にシーボルトは当時、国外へ持ち出し禁止だった地図を持ち出そうとして追放処分を受けます。とは言え、他の収集品はそのまま持ち帰ることに成功。帰国後は日本研究の成果を著した「日本」、「日本動物誌」、そして「日本植物誌」などを刊行しました。

この「日本」の扉絵の原画が面白い。鳥居があり、甲冑を着た武将が座り、鬼が現れ、何故かトウモロコシが描かれています。古来の神話をモチーフとしたそうです。西洋人の見た日本のイメージを詰め込んでいるかもしれません。


「日本植物誌(オタクサ)」 ブランデンシュタイン家

植物誌の原画も出ています。名は「オタクサ」。オタキに因んで付けられたものです。薄い紫の花弁も美しい。極めて写実的に表されています。

シーボルトは人類学にも深い関心を寄せていました。よって日本人の肖像画も多く描かせています。例えば肖像の「くまそ」です。銅版画を思わせる深い陰影が目を引きます。顔面の筋肉、髪の毛の一本一本の表現も大変に細かい。おそらくはモデルの特徴を巧みに捉えています。

ヨーロッパでの最初の日本展示を実現したのは帰国から3年後。場所はライデンです。シーボルトの自宅で開催しました。


「雑誌に掲載されたアムステルダムにおける展示風景」 ブランデンシュタイン家

その後、シーボルトは2度目の来日を挟み、計4度の日本展示を行います。まずはアムステルダムです。同地の産業振興会館でした。さらに故郷ヴュルツブルクへも移設。時のバイエルンの国王に日本コレクションの有益性を説きます。最終的には1866年、ミュンヘンの宮殿内のギャラリー棟にて日本展示室をオープンさせました。

この日本の博物展示を再現したのが「ようこそシーボルトの日本博物館」です。現在はミュンヘンの五大陸博物館に収蔵されるコレクションをまとめて展示。いわゆる里帰りです。約150年ぶりにシーボルトの意図した博物館が日本の地で蘇りました。


「花鳥図衝立」 ミュンヘン五大陸博物館

このシーボルトのコレクションが思いがけないほどに多彩です。華やかなのは「花鳥図衝立」。極彩色の花鳥図が4面に続く衝立です。上下の浮彫も見事に表されています。


「燈籠」 ミュンヘン五大陸博物館

「燈籠」も目立つのではないでしょうか。計2つ。寺院にあったものだと言われています。ほか「阿弥陀如来立像」も立派です。まさか家具や仏像彫刻までを網羅していたとは思いませんでした。


「阿弥陀如来立像」 ミュンヘン五大陸博物館

絵画もありました。「泥絵画帖」や伝探幽の「貝之図」、それに「捕鯨之図」なども印象深い。ちなみに捕鯨はシーボルト自身も強い興味を持っていたそうです。10隻以上もの船が連なっては鯨を追い込む様子が描かれています。


「法被(長崎くんち衣裳)」 ミュンヘン五大陸博物館

日用品や玩具などの生活資料も充実しています。例えば「かるた」や「色紙」。胃薬「清神丸」の小袋も収集しています。文具では「筆洗」です。さらにアイヌの前掛けや長崎くんちの衣装やら獣面に太鼓、蒔絵や太刀と幅広い。小判もありました。


「麦藁細工の玩具」 ミュンヘン五大陸博物館

デジタルコンテンツも用意されています。ミュンヘンの五大陸博物館にあるシーボルトコレクション、計6000点をタッチパネルで拡大閲覧することも可能です。



シーボルトが取り組んだヨーロッパでの日本博物展示。新出の地図をはじめ、初来日品も少なくありません。かなり綿密に資料調査を行った形跡も伺えます。その一端を知ることが出来ました。

[よみがえれ!シーボルトの日本博物館]巡回スケジュール
江戸東京博物館:9月13日(火)〜2016年11月6日(日)
長崎歴史文化博物館:2017年2月18日(土)〜2017年4月2日(日)
*以降、名古屋、大阪へも巡回予定。



9月4日まで開催されています。

「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」@150Siebold) 国立歴史民俗博物館@rekihaku
会期:7月12日(火)~9月4日(日)
休館:月曜日。但し休日の場合は翌日が休館日。8月15日(月)は開館。
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
料金:一般830(560)円、高校生・大学生450(250)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎週土曜日は高校生が無料。
 *総合展示も観覧可。
住所:千葉県佐倉市城内町117
交通:京成線京成佐倉駅下車徒歩約15分。JR線佐倉駅北口1番乗場よりちばグリーンバス田町車庫行きにて「国立博物館入口」または「国立歴史民俗博物館」下車。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「竹岡雄二 台座から空間へ」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「竹岡雄二 台座から空間へ」
7/9~9/4



埼玉県立近代美術館で開催中の「竹岡雄二 台座から空間へ」を見てきました。

京都に生まれ、現在はドイツに在住する美術家、竹岡雄二(1946~)。とりわけ「台座そのものをモチーフ」(解説より)とする彫刻作品で知られています。

いわゆる立体の展示です。とは言え、面白いのは立体それ自体だけではありません。作品は空間へ半ば拡張しています。美術館そのものを変容させていました。

展示室の造作からして異なりました。間仕切りはほぼ全て開放。ぶち抜きで奥行きのある空間が広がっています。

「クリーン・ルーム・ジャパン」に目が留まりました。大きさは約3メートル弱四方。高さも2メートル以上ある箱型の作品です。素材は透明のガラスです。黒いフレームに収まっています。床には白い大理石が敷かれています。ほぼ4畳半。茶室のようにも見えなくもありませんが、入口はなく、中に入ることは叶いません。


竹岡雄二「無題」 1996年 マンツ・コレクション, シュトゥットガルト

ガラス面には僅かに周囲の風景が映りこんでいます。ちょうど奥の彫刻がボックスの向こうに重なって見える位置に立ってみました。するとさもその作品がボックスの中へ入ったような錯覚に陥ります。作品の配置関係は絶妙です。意識は確かに「台座から空間へ」と働きました。

竹岡の台座に対する関心はドローイングからも知ることが出来ます。一例が「オーギュスト・ロダン 青銅時代」です。水彩の一枚、まさしく台座だけが描かれていますが、これは本来ある彫刻から人体の部分を消して表したものです。「マルセル・デュシャン 自転車の車輪へのオマージュ」では車輪の部分だけが省かれています。車輪なしです。つまり台座しかありません。


竹岡雄二「七つの台座」 2011年

ずばり台座と名付けられた作品がありました。「七つの台座」です。素材は真鍮。金のメッキが施されています。いずれも大きさは50センチ四方です。反面に厚さは20センチ弱。やや薄い。形も真四角であったり、台形であったり、また角を削っていたりと変化があります。床面へ直に間隔をあけて置かれていました。何やら庭石のようにも見えます。


竹岡雄二「無題」 1996年 個人蔵

家具を連想させる彫刻があるのも興味深いところです。「無題」はどうでしょうか。4つの細い脚に支えられた立体、中がくり貫かれています。キャビネットと呼んでも良いかもしれません。中に物を収納しようと思えば可能です。

素材が多彩なのには驚きました。ガラスに真鍮、そして人工大理石。テラコッタや木材に銅板も使用しています。またブロンズに緑青を吹き付けるなど色や質感の表現も細かい。作品の仕上げに抜かりはありません。

物理的に美術館の施設へ手を加えた作品がありました。「サイト・ケース1」です。分厚い透明のアクリルボックスです。壁に打ち付けられています。中は空洞です。よく見ると奥の面には何やら石膏を塗り固めたような層が広がっていました。はじめはそれもてっきり竹岡が手を加えたものかと思ってしまいました。

実はこの面、美術館の壁なのです。つまり手前のボードを切り取り、ぴたりと作品をはめ込んでいます。ゆえに切り取った奥の壁の部分が露出して見えているわけです。



「竹岡雄二 台座から空間へ」@遠山記念館(7/9〜9/4)
https://www.e-kinenkan.com/exhibit/index2.html

なお本展は遠山記念館と同時開催です。同記念館のコレクションもやって来ています。とは言え、一工夫がありました。とするのも竹岡自身が台座に因んだ古美術品を選定しているのです。江戸時代の蒔絵を施した文台や盤、それに琉球の螺鈿の杯などが並んでいました。


竹岡雄二「インターナショナル・アート・マガジン・ラック」 1997年 個人蔵

作品を介在しては変化する景色が面白い。思わず会場内をうろうろと彷徨ってしまいます。いつもとは異なる埼玉県立近代美術館の空間を楽しむことが出来ました。



9月4日まで開催されています。

「竹岡雄二 台座から空間へ」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:7月9日 (土) ~9月4日 (日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」 
7/16~8/31



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち」を見てきました。

2011年から比較的若い世代の美術家を公募展形式で紹介している「新鋭作家展」シリーズ。今年で5回目を迎えました。

ポートフォリオ、及び専門家の審査を経て選出されたのは大石麻央と野原万里絵。ともに1980年代後半生まれの女性の作家です。

会場内の撮影が出来ました。

さて今回の新鋭作家展、タイトルにもあるように、ある1つのテーマが設定されています。それは「型」でした。

野原万里絵は型紙を使って作品を制作しています。目立つのは人型でしょうか。様々なかたちを切り抜いた紙を用い、木炭に塗りつけては壁面へ写しています。


野原万里絵「Pattern」 

個々の型紙はノートサイズほどに過ぎませんが、作品は巨大でした。壁画と呼んでも差し支えありません。一体、高さは何メートルあるのでしょうか。床から天井まで壁いっぱいに広がっています。


野原万里絵「Pattern」

壁画の一部はワークショップで作られたそうです。また型紙は下記の日程に限り、実際に切り抜いて作ることも出来ます。つまり観覧者の型も作品に取り込まれるわけです。

「かたち発掘場」
日にち:7月16日(土)、17日(日)、18日(月祝)、23日(土)、24日(日)
時間:13:00~16:00


野原万里絵「Pattern」

蝶や鳥が舞い、花や草木が生い茂っているかと思うと、人や動物のシルエットが浮かんでいるように見えます。まるで生命の楽園です。また同じパターンが繰り返し続く場面も少なくありません。その意味では装飾的でもありました。


大石麻央「私の辞書」

大石麻央の型は動物のかぶり物でした。タイトルは「私の辞書」。鳩のかぶり物をした人物の写真がたくさん並んでいます。実際にかぶり物をした人形もいました。椅子に座り、空中でロープに腰掛ける姿はどこかコミカル。視線を合わせては見入ってしまいます。


大石麻央「私の辞書」

一連の写真のモデルは一般の参加者です。会期に先立ち「着るアート体験&撮影大会」にて撮影されました。確かによく見ると体型が様々です。同じようで同じではありません。そもそもかぶり方にも若干の違いが見られます。

会場の構成に一工夫ありました。というのも順路がAとBの2パターンあるのです。最初から作品を見るコースと、展示物を後回しにして、コンセプトなどを先に見るコースがあります。もちろん結果的に同じ展示を廻るわけですが、少し見え方も変わってくるかもしれません。

入場料は300円のパスポート制です。会期中、何度でも入場出来ます。



8月31日まで開催されています。

「第5回新鋭作家展 型にハマってるワタシたち 大石麻央・野原万里絵」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:7月16日(土)~8月31日(水)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。翌19日は休館。
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:300円。(パスポート制。会期中何度でも再入場可。)高校生以下無料。
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「From Lifeー写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」
7/2~9/19
 


三菱一号館美術館で開催中の「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」を見てきました。

19世紀後半、ラファエル前派とほぼ同時代、ヴィクトリア朝のイギリスにおいて、写真表現で新たな「地平」(解説より)を切り開いた一人の芸術家がいました。

それがジュリア・マーガレット・キャメロン。1815年にカルカッタで生まれ、イギリスの上層中流階級で育った女性です。

まさに遅咲きの芸術家です。キャメロンが写真に取り組み始めたのは48歳の時。娘夫婦からカメラをプレゼントされたのが切っ掛けでした。

当初は家族や文化サロンの友人など、身近な人物を写します。ほぼポートレートです。「ウィリアム・マイケル・ロセッティ」はかの芸術家の弟をモデルにした一枚。右上に傘が写り込んでいますが、あえて光量を調節するために持ち込んだそうです。光に対する鋭敏な感覚を知ることが出来ます。

コスプレとも呼んで良いのでしょうか。モデルに様々な衣装を着せているのも興味深いところです。「クーマイの巫女になったエルコ卿夫人」はまさしく巫女の姿。古代風の衣服を身にまとっています。

カメラを手にしてから僅か1年半。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の前身であるサウス・ケンジントン博物館に作品が買い上げられるという栄誉を得ます。鮮烈なデビューと言ったところでしょうか。当時の館長とキャメロンがやり取りした書簡も展示されていました。

会場内、一部展示室のみ撮影が出来ました。

キャメロンの写真の主題は肖像、聖母、ないし幻想です。そして物語や神話を引用した絵画的な作品を多数制作していきます。


左:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「休息の聖母ー希望に安らいで」 1864年

「休息の聖母ー希望に安らいで」はどうでしょうか。ベールを被る母の胸には幼子が眠っています。もちろん聖母子です。とは言え、目を瞑った子はどこか死を暗示させることから、マリアが死んだキリストを抱くピエタの図像を意識したとも考えられているそうです。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 連作「聖霊の実」 1864年

ルネサンス絵画を引用し、キリスト教の9つの美徳を表現した「聖霊の実」にも目が留まりました。愛、喜び、忍耐、優しさ、そして信仰などと名付けられた9枚の連作です。後に1つの額に収められ、大英博物館へと寄贈されました。


上:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「聖セシリアーラファエロ風に」 1864-65年
下:ジュリア・マーガレット・キャメロン 「巫女ーミケランジェロ風に」 1864年


ラファエロやミケランジェロに倣った作品もあります。その名も「聖セシリアーラファエロ風に」と「巫女ーミケランジェロ風に」です。前者は画家の「聖セシリアの法悦」を、後者はシスティーナ礼拝堂のフレスコ画を手本としています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「イエスかノーか?」 1865年

変わったタイトルです。「イエスかノーか?」。2人の人物が身を寄せては、互いの手を取り合っています。プロポーズが主題です。思案し、また熟慮する様子を捉えています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「五月祭」 1866年 ほか

大型のガラスネガに対応するカメラを手にしたキャメロンは、表現の幅をより広げることに成功しました。一例が群像表現です。「五月祭」と「夏の日」では4名以上の群像を巧みな構図で切り取っています。「五月祭」はキャメロンと親しかったテニスンの詩作のための挿入写真です。登場するのはキャメロン家の小間使いたち。冠を付けて着飾っています。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「修道士ロレンスとジュリエット」 1865年

シェイクスピアも素材の1つです。「修道士ロレンスとジュリエット」は同劇の場面を表現した一枚。互いに視線を交わしてはポーズをとっています。キャメロンの写真、総じてモデルは演じています。その意味でも演劇的とも呼べるかもしれません。

なお作品には多くのモデルが登場しますが、主要な人物についてはパネルで紹介されています。鑑賞の参考になりました。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「クリスタベル」 1866年

時にモデルの内面を見据えたキャメロン。「クリスタベル」に惹かれました。題材はコールリッジです。魔女に束縛された有徳の少女を表現しています。正面を向きながらも目は虚ろです。長い髪を垂らしています。焦点はややぼやけてもいます。

このぼやけ、言い換えればソフトフォーカスもキャメロン写真の特徴の1つです。彼女はそれまで「技術的欠陥とみらされかねない不規則な出来栄え」(解説より)を進んで取り入れました。

ソフトフォーカスのほかにも、引っかき傷の付いたネガを用いたり、合成の技術を取り込むなど、当時としては異例の試みも行っています。制作に関してキャメロンは大変に野心的です。批判も少なくなかったそうですが、結果的に自己の道を貫き通しました。

「守護の聖母ー永遠の見守り」ではガラスネガの上の感光剤をあえて剥がしています。さらに「夢」では指紋をそのまま写真に残しました。こうした技巧は後の写真家にも影響を与えたそうです。

ラストは同時代、ないし次世代の写真家らの作品が並んでいました。スティーグリッツのオキーフを捉えた肖像が、キャメロンの構図に似てるように見えなくもありません。影響関係について議論あるやもしれませんが、写真表現の史的変遷なども一部で追うことが出来ました。


ジュリア・マーガレット・キャメロン 「ベアトリーチェ」 1866年

チラシ表紙に掲載されたのは「ベアトリーチェ」。レーニの絵画に基づく作品です。モデルはメイ・プリンセプ。キャメロンの義理の姪で、後にテニスンの息子と結婚した人物でもあります。先の「クリスタベル」でもモデルを務めています。


「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」会場風景

何かを懇願するような視線を投げかけています。心が射抜かれるようです。視線に囲まれては、視線を追う。実は全く初めて見知った写真家でしたが、いつしかその視線の虜になっている自分に気がつきました。

9月19日まで開催されています。

「From Lifeー写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン展」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:7月2日(土)~9月19日(月)
休館:月曜日。但し祝日と9月12日は開館。
時間:10:00~18:00。
 *金曜日と第2水曜日、会期最終週の平日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア2800円。
 *アフター5女子割:第2水曜日の17時以降は一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 
7/3〜9/4



練馬区立美術館で開催中の「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」を見てきました。

アニメや漫画で知られる作家、しりあがり寿。近年は「回転」をテーマとした現代美術のインスタレーションも制作しています。

美術館では初の個展だそうです。そしてタイトルに回転とあるように、ありとあらゆるものが回転していました。

一部の映像作品を除き、撮影が可能でした。(動画不可)


「エレキな春」(表紙イラスト) 1985年7月 ほか

まずは順に沿って1階です。イラストや漫画の原画の展示が続きます。デビューを飾ったのは1985年です。当時の「エレキな春」の表紙イラストが出ていました。


「御前しりとり合戦」(読みきり) 平凡パンチ 1986年3月10日号

原画が緻密なのには感心しました。平凡パンチに掲載された「御前しりとり合戦」や少年サンデーの「流星課長」も面白い。ギャグとパロディー。ともに80年代の作品です。懐かしく思う方もいるのではないでしょうか。


下:「箱舟」(最終話) クイックジャパン第30号 2000年4月

「箱舟」と題した一枚に目がとまりました。立ち並ぶのビル群です。大都会のおそらくは繁華街を描いています。ただし道路には瓦礫が散乱し、宙にはもはや魂を失ったような人が上下になって舞っています。瓦礫の上にあるのが一隻の箱舟です。さも宇宙船が着陸したように降りていました。


「地球防衛家のヒトビト」 朝日新聞夕刊 2002年〜

現在も朝日新聞の夕刊に連載されているのが「地球防衛家のヒトビト」です。連載開始は2002年。既に15年近くも続いています。ネタはほぼ時事です。ちょうど東日本大震災から1〜2ヶ月後の作品が展示されていました。防衛家の人々は震災後、「出動中」として救援ボランティアに駆けつけています。

2階へあがりましょう。ここからが回転です。まさしく回転に次ぐ回転。世界は全て回転で成り立っているのでしょうか。あらゆるものがただ淡々とひたすらに回転しています。


「回転宣言」 2016年7月 しりあがり寿

「回転にこそ未来がある」と高らかにうたう「回転宣言」を筆頭に回転するのはヤカン。宣言においてしりあがりは「回ることによりヤカンは芸術となる」と述べています。


「回転派のアトリエ」 2013〜2014年

「回転派のアトリエ」では、絵画に彫刻にスケッチ箱などが回転。写真では分かりにくいかもしれませんが、ともかく壁の絵画もグルグルと回っているのです。


「まわる歴史」 「人形」 ほか 2016年

しりあがりの回転にかける熱意は並大抵ではありません。自身の所有物でしょうか。たとえば人形です。「タンザニアで買わされた」と記しています。さらに小学校時代に貰ったという賞状やファミコンのドラクエ3のカセットまであります。もちろん全て回転しているわけです。果てには監視員用の椅子まで回っていました。思わず座りたくなってしまいます。


「回転体は行進する ダルマの夢を視る」 2014年

さらに奥の展示室ではだるまが華麗なまでに回転。皆、半ば思い思い、顔をあちこちに向けてはぐるぐると回っています。だるまさんが転んだならぬ、だるまさんが回ったということなのでしょうか。どのように受け止めれば良いのか戸惑うほどでした。


「回る白昼夢」 2016年

「回る白昼夢」で回転するのはしりあがりの生活の痕跡なのかもしれません。レシートやボンド、トイレットペーパーにタオル、軍手、携帯電話に名刺、フリスク、メモ書き、プリンかヨーグルトのカップほか、様々な日用品がいずれも回転しています。

先のだるまの赤に対比させたのでしょうか。全てではないにしろ、いずれも白が際立っているのも特徴です。食べ散らかしたかのようなカップ麺の入れ物。日用品というよりゴミと言っても良いかもしれません。それらを一つ一つ、言わば生命でも吹き込むかの如く、丁寧に回転させています。


「ゆるめ〜しょん」 2007〜2014年

ラストの「回転道場」なる映像は笑いなしに見られません。全20分です。老師に扮するのはしりあがり自身。弟子たちに回転の極意を教えています。真剣な表情で回転を極めようする様はまさしく滑稽です。にやにやしながら見入ってしまいました。



観覧の際は目が回らないようにご注意下さい。9月4日まで開催されています。

「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」 練馬区立美術館
会期:7月3日(日)~9月4日(日) 
休館:月曜日。但し7月18日(月祝)は開館。翌19日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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「美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」
6/17〜7/18



出光美術館で開催中の「美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」へ行ってきました。

開館50周年を記念したコレクション展こと「美の祝典」。全3回シリーズです。

既に会期は第1期のやまと絵、第2期の水墨を終え、最終の第3期目に突入。「江戸絵画の華やぎ」と題し、館蔵の江戸絵画が一堂に公開されています。


喜多川歌麿「更衣美人図」 江戸時代 重要文化財 出光美術館

冒頭は歌麿に北斎の肉筆です。歌麿の「更衣美人図」が美しい。女性が着物を脱ぐ姿を描いています。おそらくは真夏でしょう。帯を解き、やや袖を開けては、如何にも暑そうに扇子で風を送っています。緊張も緩んだのかもしれません。ため息をついているようにも見えます。藍ともグレーとも言える着物の表現も見事でした。筆に緩みはありません。

その後は桃山から江戸期の屏風でした。4点の揃い踏み。まず横に並ぶのは「祇園祭礼図屏風」と「洛中洛外図屏風」です。ともに京都市中の景観や賑わいを表しています。

うち「洛中洛外図屏風」が面白い。右に東山、左中央に二条城を配置したパノラマですが、右隻の右上に伏見城が描かれているのが特徴です。二条城に負けじと天守閣が堂々とそびえています。町家の屋根に目が留まりました。上に重石でしょうか。石が載っています。市中では喧嘩も多かったのかもしれません。男たちが刀を抜いて向き合う姿も見て取れます。一人、外国人でしょうか。傘を従えて歩く大きな男の姿が目にとまりました。

「南蛮屏風」の舞台は港です。もちろん来航するのは南蛮船です。ちょうど小舟を出して荷物を陸揚げする様子を描いています。外国人は皆、背が高い。その大きさに江戸時代の人々はさぞかし驚いたのではないでしょうか。右に見えるお堂は教会です。何名かの宣教師がいます。保存状態も良好です。細部の着色も鮮やかでした。

「江戸名所図屏風」に驚きました。と言うのも、どこも過剰なまでに人で溢れ返っているからです。押し合いへし合いと人がうごめいています。一体、何名いるのでしょうか。右隻は寛永寺から日本橋、左隻は江戸城から芝浦の景色が広がっています。時は寛永6年です。何でも解説によれば寛永寺の池にペリカンが現れた記録があり、実際にそれが描かれているから分かったそうです。確かに池のほとりで一羽の鳥が羽を休めていました。

英一蝶の「四季日待図巻」に魅せられました。元は神事であった日待。元禄の頃には夜通しで宴会や芝居に講じるお祭りとして浸透していたそうです。さすがは一蝶、筆が流麗です。祭りを楽しむ人々を生き生きと表しています。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎは今も江戸時代もさほど変わらないのかもしれません。囲碁に博打をしている人もいます。ちなみに本作は一蝶が流刑先の三宅島で制作しました。とするもお祭りの様子も彼の記憶に過ぎません。何を思って描いたのでしょうか。

琳派の優品も目立ちます。光琳の「禊図屏風」はどうでしょうか。面白いのは構図です。川辺にいる一人の男。モデルは業平です。ほぼ背中を向けて座っています。川は大きく弧を描いて縦に流れています。小山も丸みを帯びています。図像として川の弧と呼応しているように見えなくもありません。

抱一の大作屏風は3点です。うちより魅惑的なのが「紅白梅図屏風」でした。得意の銀地に紅白の梅を表した屏風絵です。枝振りも力強い紅梅に対して白梅は可憐。対比的な姿をしています。一面の銀世界は月夜を示しているのでしょう。ふと雪の降る光景を連想しました。淡く白い光とひんやりした空気感。銀の名手こと抱一ならではの抒情的な作品でもあります。


酒井抱一「風神雷神図屏風」 江戸時代 出光美術館

ちなみに抱一はほかに「風神雷神図屏風」と「八ツ橋図屏風」も出ています。久々に3屏風を揃って見たような気がしました。

ラストは今秋にサントリー美術館での回顧展の控えた其一です。作品は2点。「四季花木図屏風」と「秋草図」でした。

より小さな「秋草図」が殊更に魅力的でした。元は戸襖絵です。幅は25センチもありません。まだ若い30代の頃の作品ゆえか、流麗な秋草の描写は師の抱一を連想させる面もあります。


「伴大納言絵巻(下巻部分)」 平安時代 国宝 出光美術館

3期間に分けて展示中の「伴大納言絵巻」は下巻の部分が開いていました。私も結局3期、全ての展示を追いかけましたが、やはり人気の江戸絵画ゆえか、1、2期の時よりは心なしか混雑しているように思えました。とは言え、「伴大納言絵巻」も行列なく、スムーズに観覧可能です。じっくり見られました。

「美の祝典2ー水墨の壮美」 出光美術館(5/13〜6/12)
「美の祝典1ーやまと絵の四季」 出光美術館(4/9〜5/8)

またリストにはないものの、蒔絵など、工芸にも佳い作品が少なくありません。3期揃って出光の誇る日本美術コレクションを存分に堪能することが出来ました。

「江戸絵画入門ー驚くべき奇才たちの時代/別冊太陽/平凡社」

7月18日まで開催されています。

「開館50周年記念 美の祝典3ー江戸絵画の華やぎ」 出光美術館
会期:6月17日(金)~7月18日(月)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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