「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 
7/26〜9/25



渋谷区立松濤美術館で開催中の「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」を見てきました。

15世紀後半以降、マレーシアやシンガポールへと移住してきた中国系移民の末裔ことプラナカン。彼らは数百年に渡ってマレーやヨーロッパと交わり、独自の「ハイブリットな文化」(解説より)を築きました。

その一つがサロンクバヤです。クバヤとはレースのブラウス、そしてサロンとは色鮮やかなジャワ更紗の腰布を意味します。つまりファッションの文化です。女性たちが身に付けていました。

館内の撮影が出来ました。


「儀礼用ローブ(カワイ)」 18世紀 インドネシア、スマトラ島ランブン(縫製) シンガポール国立アジア文明博物館

冒頭はジャワのローブです。用途は儀礼用。刺繍は実に多様で複雑です。同じものを探すのは容易ではありません。時は18世紀です。当時の施政者らはパッチワークにこそ呪術的な力があると考え、ローブを注文しました。


「腰衣(サロン)」 18世紀後半、19世紀初期 インド、コロマンデル海岸(染) リー・キップリー夫妻

腰衣も美しい。サロンのかなり早い時期の作例です。両端に小さな針穴があることから、かつては縫われ、スカートとして利用されていたことが分かりました。


「上衣(クバヤ)」 1890-1910年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館

一方のクバヤ、すなわちレースは、16世紀から17世紀頃にインドを経てアジアへ入ってきたと考えられています。展示のクバヤは19世紀末から20世紀初頭のもの。この頃には身体に添う形のスタイルが流行しました。昼用と夜用で装飾が違っていたそうです。


「腰衣(サロン)」 1890年頃 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻

そのサロンにも注目です。何と模様は白雪姫。ちょうど女王が鏡に向かって話しかける場面が表されています。意匠は繊細でアール・ヌーヴォー風。実際に影響を受けています。ヨーロッパ人の作家の手によって制作されました。

サロンクバヤは時にプラナカンらの置かれた政治的状況を物語ります。例えば20世紀初頭の中華ナショナリズムの台頭です。その動きはシンガポールへも伝播。プラナカンらは祖先の母国、中国の動向と、植民地下におけるイギリス臣民として立場の間に挟まれます。サロンクバヤが中国風であるのか、あるいは洋風であるのかは、一つのアイデンティティーの表明でもあったわけです。


「上衣(サロン) 1900年頃 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰衣(カインパンジャン)」 1900-1910年 インドネシア、ジャワ島、プカロンガン(染) リー・キップリー夫妻


一方でオランダ領東インドに居住していたプラナカンはどうでしょうか。彼らは1910年にオランダ臣民になることを許され、ヨーロッパのモチーフを付けたサロンクバヤを新たなステイタスとして取り入れます。一言にサロンクバヤとはいえども、地域によって流行なり実情はかなり違っていました。


「上衣(クバヤ)」 1920年代 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン)」 1920年代 インドネシア、ジャワ島北岸 リー・キップリー夫妻


製法の進展もサロンクバヤのスタイルを変化させます。染料です。19世紀の半ばに合成染料が開発。一気に色が増えていきます。またヨーロッパのプリント布も使われるようになりました。


「上衣(クバヤ)」 1945-1955年 インドネシア(縫製) シンガポール国立プラナカン博物館
「腰布(カインパンジャン パソギレ)」 1950年代 インドネシア、ジャワ島、クドゥンウニ


最後の革新をもたらしたのがミシンの導入でした。手縫いから機械を利用することで、広い面積に簡単に刺繍が出来るようになります。より強い色彩でかつ、華やかな刺繍を伴うサロンクバヤが一般化しました。


シンガポール航空客室乗務員の制服「サロンケバヤ」 2016年 シンガポールを拠点(縫製) シンガポール航空

いわゆる洋装が普及した2次大戦以降もサロンクバヤも作られています。現在のシンガポール航空の客室乗務員の制服もサロンケバヤと呼ばれるクバヤのスタイルを受け継いだもの。その伝統は今も脈々と受け継がれています。


「3点組ブローチ」  1900-1920年 マレーシア、ペナン(制作) リー・キップリー夫妻

ほかプラナカンの人々が身につけた装身具も紹介。ペンダントやブローチ、ブレスレットなどの細かな細工には目を奪われました。


「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」会場風景

サロンクバヤの大半はシンガポール国立アジア文明博物館、ないしはプラナカンの名門であるリー・キップリー夫妻のコレクション。約140点です。そう頻繁に日本で公開されるものではありません。またサロンクバヤを通し、プラナカンの歴史、ないし社会的状況の変遷なども追うことが出来ました。

9月25日まで開催されています。

「サロンクバヤ:シンガポール 麗しのスタイル」 渋谷区立松濤美術館
会期:7月26日(火)〜9月25日(日)
休館:8月1日(月)、8日(月)、15日(月)、22日(月)、29日(月)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)、23日(金)
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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