「はじめての古美術鑑賞」 根津美術館

根津美術館
「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 
7/23~9/4



根津美術館で開催中の「はじめての古美術鑑賞ー絵画の技法と表現」を見てきました。

ともすると日頃、あまり技法などを意識せずに見ている古美術品。解説などで何気なく分かっているつもりでも、どれほど正しく理解しているかと問われれば危うい面も少なくありません。

そこに着目したのが「はじめての古美術鑑賞」です。出展は日本の古い絵画。全て館蔵品です。参照する技法は、たらしこみ、溌墨、付立て、外隈、金雲、白描、截金、裏箔、繧繝彩色の9つでした。


喜多川相説「四季草花図屏風」(部分) 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館

まずはたらしこみです。琳派でも比較的馴染みの深い技法、伝立林何げいの「木蓮棕櫚芭蕉図屏風」に惹かれました。乾ききらないうちに、水の含んだ墨や絵具をさらに加えて滲みを生じさせるたらしこみ、木の幹や皮の部分に用いています。一方で木蓮の白い花も美しい。喜多川相悦の「四季草花図屏風」も可憐です。右隻に芥子や夕顔、左隻に菊や萩などを描いていますが、その随所でたらしこみを見ることが出来ます。


雲溪永怡筆 沢庵宗彭賛「山水図」(部分) 日本・室町時代 16世紀 根津美術館

次いで溌墨です。たっぷりつけた墨をはね散らかすようにして形状を表現します。雲渓永怡の「山水図」では丸い山や岩を先に描き、その上から溌墨で木々を象ります。筆触は即興的で素早い。何やら景色が湧き上がるかのようでした。

よく見られますが、名称自体はあまり有名ではないかもしれません。外隈です。白い紙の地色を生かし、外側を墨などでぼかしては、隈取りする技法です。雪や光の表現などで登場します。「楊柳白鷺図」は2羽の鷺が外隈でした。仲安真康の「富嶽図」は富士の部分です。確かに山の際の外側に薄い墨が引かれていることが分かります。


長沢芦雪「竹狗児図」(部分) 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館

付立てはどうでしょうか。輪郭線を用いず、筆の穂の側面などを巧みに操り、一筆書きで対象を表す技法です。芦雪の「竹狗児図」の筆さばきが秀逸でした。師の応挙にならったのか可愛い仔犬が2匹、その上の竹笹が付立です。特に笹の部分が上手い。線に迷いがありません。効果的に用いています。

一番知られているのは金雲かもしれません。雲や霞を金箔で表す技法です。屏風絵などで頻繁に見かけます。華やかな「洛中洛外図屏風」が出ていました。胡粉で盛り上げた模様の上に金箔を貼っています。かなり装飾的です。金雲から覗き込んで見れば、市中では鉾が巡行しています。祇園祭です。多くの見物人の姿も描かれていました。

截金、裏箔、繧繝彩色も同じ金に関する技法です。そしてこれらを用いた作品は仏教絵画が目立っていました。


「愛染曼荼羅」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

非常に根気のいる作業が伴うのではないでしょうか。截金です。金箔などを細い線や三角などに切って貼り付ける技法。仏画では仏の着衣や背景の文様などで使われます。「愛染曼荼羅」では背景の無数の文様に截金を利用。一体、何個あるのでしょうか。また強い光を出す際も截金が効果的です。仏身から放たれる光線なども表現しています。


「愛染明王像」(部分) 日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館

繧繝彩色(うんげんさいしき)、この技法の名を初めて知りました。一言で表せば、同系の色を変化させる際、ぼかしを用いず、数段階に分けて色を付けていくものです。参照されていたのは「愛染明王像」です。確かに蓮台の部分が何種類かの色に塗り分けられています。グラデーションとはまた違うのかもしれません。

技法の解説パネルと作品を交互に参照するシンプルな構成です。凝った仕掛けはありません。ただそれでも、一度、日本の古美術の絵画技法についておさらい出来る良い機会と言えるのではないでしょうか。



今回は絵画でしたが、ひょっとすると続編として工芸などもあるやもしれません。そちらにも期待したいところです。



9月4日まで開催されています。

「コレクション展 はじめての古美術鑑賞 絵画の技法と表現」 根津美術館@nezumuseum
会期:7月23日(土)~9月4日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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