「贈物は経済取引とは違いつねに返礼の義務を生み、社会関係の強化と一体感を創出する機能を持っている……贈物はある社会関係に付随する当然の行為として期待されており、したがって、任意というよりは半ば義務的であり……」(平凡社『世界大百科事典』)。
マルセル・モースは『贈与論』で、「贈物をする義務」、「それを受け取る義務」、「お返しをする義務」について文化人類学的見解を述べている。
現代風にいえば、贈物によって送り手と受け取り手の間に、貸し・借りの関係が発生する。この関係は受け取り手が送り手にお返しをするまで消えない。だから、石破首相に公邸に招かれ商品券を贈られた当選1回の衆院議員は「私たちは石破チルドレンです」と言って早速負債を返済しようとした。米国ではイーロン・マスク氏から巨額の政治献金を受け取ったトランプ大統領が、マスク氏をDOGE(政府効率化省)のトップにすえた。
石破茂首相が3月、当選1回の自民党衆議院議員15人を首相公邸に招き懇談したさい参加した各議員に10万円の商品券を贈ったという報道に関連して、自民党の舞立昇治参院議員が、歴代首相も慣例としてやっていたとした発言し、すぐさま「事実誤認、推測に基づく発言であり撤回する」と表明した。菅元首相や麻生元首相はどうだったのかな、と疑惑の視線が永田町で交差している。
石破首相は首相に就任する前の去年7月、福岡市で講演し、公選法が適用されない党総裁選で買収的行為が行われてきたと指摘し、規制が必要だと訴えた。日本経済新聞によると石破氏は「自民党総裁は公職ではない。だからカネをばらまくというのがある。おかしくないですか」と述べた。石橋は総裁選に過去4回立候補したがカネをまいたことがないと明言した。
「ニッカ・サントリー・オールドパー」という語呂合わせが、かつて永田町で喧伝された。自民党総裁選で2人の候補から金を受け取るのが「ニッカ」、3人から受け取るのが「サントリー」、だれかれ構わず金を受け取るのが「オールドパー」といわれた。自民党総裁の座をめぐって、大金が動いた。永田町のポトラッチであった。
(2025.3.20 花崎泰雄)