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セドナヤの火葬場

2017-05-16 22:33:41 | Weblog

チュニジアで2010年12月に始まったジャスミン革命は、アラブの民主化運動にとなって中東に広がった。あれから6年余り。すべては短い春の夜の夢であった。

エジプトは再び軍政の国に逆戻りしたし、シリアでは地獄の内戦が続いている。

民主化失敗の原因究明はこの地域の政治を観察している専門家にゆだねることにするが、素人判断では、この地域に民主化を進めることができる政治指導者が不足していたこと、政治制度の確立が遅れていたこと、指導者や住民の多くが古い政治的メンタリティーを残していたことが原因であろう。これらは多くの国が抱える問題である。

日本の民主化は占領軍が原案をつくり、それにしたがって成立したが、そののち、日本の有権者と彼らが選んだ議員たちがさらなる民主主義の前進に向って、大きな足跡を残したという事例は、あいにくこれといってない。日本にはびこっている藩閥時代のメンタリティーと、家柄・血筋の信仰と、拝金主義と、大勢順応・異議申し立てへの嫌悪、などが足かせになっている。

 愚痴はさておき、シリアのことだが、5月15日のワシントン・ポスト紙の記事を読んで暗然となった。ダマスカスから30キロほど離れたセドナヤ軍刑務所に、シリア政府が火葬場を建設し、刑務所内で殺害した囚人の遺体を密かに焼却している、というニュースだった。

アムネスティ・インターナショナル(AI)によると、シリア内戦が始まった2011年からこれまでに、シリア政府の監獄で拷問、殴打、電気ショック、レイプの果てに殺された囚人は1万8千に達する。AIや他のNGOによると、2011年から2015年の間に、6万5千人から11万7千人の人々が投獄された。また、10万人以上の人々がなお拘束され続けているか、消されているという推定もある。

AIがかつて囚人だった人々から集めた証言によると、毎月300人のペースで囚人が殺害されているという。政府による自国民のホロコーストである。

国連の資料によると、シリア内戦でこれまでに40万人が死んでいる。AIによると、住む場所を失って国内を漂泊しているシリア人は6百万人を超え、400万人が難民となって国外に出た。内戦前のシリアの人口は2千2百万人だった。

それぞれ腹に一物――安全保障上の自国の利益――抱えるソ連、EU、トルコ、米国がにらみ合って身動き取れない間に、シリアの人口がどんどん減って行く。

 

(2017.5.16  花崎泰雄)

 


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