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リアリズム

2022-05-15 01:39:38 | 国際

「法は法であり、好き嫌いに関係なく従わなければならない。現在の国際法では武力は自衛のためか、安保理の決定によってのみ許される。それ以外は全て、国連憲章下では容認されず、侵略行為となる」(The law is still the law, and we must follow it whether we like it or not. Under current international law, force is permitted only in self-defense or by the decision of the security council. Anything else is unacceptable under the United Nations charter and would constitute an act of aggression.)。

これは米軍のシリア攻撃に関して、プーチン・ロシア大統領が2013年にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した文章の一部である。日本文は5月14日付朝日新聞朝刊、英文は『ニューヨーク・タイムズ』のアーカイブから。

2022年5月12日の国連安全保障理事会でウクライナのキスリツァ国連大使が国連安全保障理事会の会合で上記のプーチン語録を引用し、ロシア大統領の言行不一致の人間的不誠実を非難した。

国際政治学の教科書の一つであるハンス・モーゲンソーの『国際政治――権力と平和』やE・H・カー『危機の二十年』などを持ち出すまでもなく、国際政治の理論は人間性というものが本質的に善であると想定する流派と、利益の対立が繰り返され道義や原則が完全に実現されることはあり得ないとする流派の二つの人間観から出発している。いわゆる「政治的ユートピアニズム」と「政治的リアリズム」である。したがって他国のふるまいはユートピアニズムから批判し、自国の行為はリアリズムの立場から弁明する。国際政治はなお、ホッブス的世界にある。

モーゲンソーの『国際政治』は、個人であれば、正義を行わしめよ。たとえ世界が滅ぶとも、と言い訳をするかもしれないが、国家にはその管理下にある人々の名において、そのように主張するいかなる権利もない、という。

ロシアがウクライナに軍を進めて以来、NATOやEU加盟国、米国などがウクライナに援助を続けている。EUのミシェル大統領やフォン・デア・ライエン委員長、カナダのトルドゥー首相、ジル・バイデン米大統領夫人、ペロシ米下院議長、ブリンケン米国務長官、オースティン米国防長官らがウクライナを訪問している。フィンランドとスウェーデンはNATO加盟の意向を明らかにしている。ピュリッツアー賞を運営する米コロンビア大学はウクライナのジャーナリストたちに賞を贈ることを決めた。

ウクライナ応援の賑々しさの一方で、ロシアを応援する声はあまり報道されない。戦争が長引き、経済制裁がロシア経済の足を引っ張るようになれば、ロシアにとって頼りは中国だ。その中国は西太平洋で米国とにらみ合っている。NATOの一員である米国の関心がヨーロッパに集まるのは悪いことではないと中国のリアリストは考えているのだろう。その分中国の太平洋進出を阻もうとする米国の力が弱まるからだ。今年後半の中国共産党大会で3選を目指していると伝えられる習近平主席も、自身や中国の評判に傷がつかないように慎重にふるまわなければならない。

中国の張軍国連大使は5月15日付の『ワシントン・ポスト』に中国の立ち位置を説明する一文を寄稿した。その中で彼は①ロシアのウクライナに対する軍事行動は中国のオリンピック大会が終わったあとにしてもらいたいと中国が言ったとか、ロシアが中国に軍事的な支援をもとめてとかいううわさは中国に泥を塗るための情報操作である②中国は国連憲章の順守、主権の領土の一体性の尊重、といった客観的で公明正大である立場である③ウクライナは主権国家であり、台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の内政である④ロシアとウクライナの紛争の早い段階で習主席はプーチン大統領に、平和会談の開催を求めて大統領から前向きな返事をもらった、と主張した。

中国の態度は今のところ掴みようがない。ウクライナ問題に深入りすることを避け、洞ヶ峠を決め込んでいるように見える。中国流のリアリズムの外交姿勢なのであろう。

 

(2022.5.15 花崎泰雄)

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