10月2日の『ニューヨーク・タイムズ』がトランプ米大統領の記者会見の模様を伝えた。ホワイトハウスでのニーニスト・フィンランド大統領との共同記者会見でのことだ。
「私に言っているのか」とトランプ大統領。民主党が下院で大統領弾劾のための調査をスタートさせたウクライナ疑惑に関連して質問したロイター通信のメイソン記者に対して言った。フィンランド大統領に対して質問しないのは失礼ではないか、という意味である。
メイソン記者がそれに対して、大統領、私の質問にお答えください、と言った。
トランプ氏はそこでキレてしまい、例によってフェイク・ニュースだの、なんだのかんだのとののしった。ついでに記者団にむかって次のような罵倒の言葉を浴びせた。この部分はぜひとも、原文で味わっていただきたい。
“It’s a whole hoax, and you know who’s playing into the hoax? People like you and the fake news media that we have in this country — and, I say in many cases, the corrupt media, because you’re corrupt. Much of the media in this country is not just fake, it’s corrupt.”
ニーニスト・フィンランド大統領がこのやりとりを、相撲でいえば「砂かぶり」の席で目撃していた。報道の自由の先進国の政治家であるニーニスト氏は、報道の自由の面では中進国の米国の大統領と記者団のやり取りを直接見分して何を思っただろうか。
『国境なき記者団』の2018年の報道の自由度調査では、フィンランドは自由度世界第2位。トランプ大統領の米国は48位である。
翌日(3日)の日本の『朝日新聞』が、かんぽ生命保険の不正販売報道の件で、鈴木康雄・日本郵政副社長が国会で野党によるヒアリングに応じた後、院内で記者団の取材に対して次のように言った、と伝えた。
「(NHK)のクロ現(クローズアップ現代)は続編に向け情報提供を募る動画を昨年7月にネット投稿したが、郵政側の抗議後に削除。続編はかんぽ生命の不正販売の問題が広がった後の今年7月まで放送されなかった。鈴木氏はNHK側から『取材を受けてくれれば動画を消す』と言われたと説明。記者団に対し、『まるで暴力団と一緒。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならやめたるわ。俺の言うことを聞けって。バカじゃねぇの』と述べた。NHKへの抗議について、長門正貢・日本郵政社長は『深く反省している』と話しているが、鈴木氏はこの日、『いろんな考え方がある』と述べるにとどめた」
開会した臨時国会の論戦のテーマは「芸術祭への補助金、NHKかんぽ報道、関電の金品受領」と野党側が意気込んでいる割には、安倍政権下での報道の自由についての危機感がジャーナリズムの側に足りない。
国境なき記者団の調査では、日本の報道自由度は米国をも下回り世界で67位。日本は2010年には11位だったが、安倍政権下で順位が急降下した。
(2019.10.5 花崎泰雄)