12月12日、所用あって本郷・菊坂あたりに行き、ついでに菊坂コロッケを買った。あげたてのコロッケの匂いがプンプンする袋を下げて神保町へ行った。近くで「土井たか子さん、ありがとう! 思いを引き継ぐ集い」をやっていた。
いろんな人が壇上に立って土井たか子のことを語った。安倍身勝手解散による衆院選挙の投票日が2日後に迫っていた。壇上に立つ土井たか子ファンや社民党シンパは安倍自民党の専横を慨嘆し、この頃のはやり言葉なのだろう「今だけ、カネだけ、自分だけ」と世相を憂い、安倍晋三と自民党の手口に怒りを爆発させ、やるせない気持ちを「失望するが、絶望はせず」「あと10年たったら違う日本を」と声を絞った。
会場からは「そうだ!」の声や拍手があがった。だが、会場を埋めていたのは社会党が野党第一党だったころの支持者OGやOBがほとんどだった。去りゆく世代であり、これから先、中心になって土井たか子の思いを引き継でくれる若い世代の姿はそこにはなかった。
集会が終って会場をでると、引き継いでほしい世代は、神保町の飲食店の席をしめ、週末の夜を楽しんでいた。
さて、14日の衆院は戦後最低の投票率で、その開票結果は、事前の選挙情勢結果のとおり自民党の圧勝に終わった。
安倍自民党は安全保障・自衛権、原発関連の問題を総選挙の争点としてテーブルに並べず、引出しにしまったうえで選挙戦を繰り広げた。野党の側には、それらの問題を引き出しから引っ張り出して、机の上におかせるだけの意欲も気力も才覚もなかった。
それらの諸問題は自民圧勝を受けて、これから具体的な形で出てくる。勢いづいた安倍晋三は憲法改正への動きも再開するだろう。
先の戦争でひどい目にあった人々が憲法9条を擁護した。その世代は、まもなく老兵のごとく消え去るだろう。つらい記憶がうすれれば、人間はまた同じことを繰り返す。人間がもしそうでない生き物だったとすれば、トロイ戦争このかたずっと戦争ばかり続けるようなことはしてこなかっただろう。
土井たか子をカーテンコールで呼び戻したところで、流れが変わるわけではない。「かくすればかくなるものと知りながら」人間は愚行を繰り返すのだ。破局が見えているのに、誰もその進行を止めることができない。これがギリシャ悲劇の核心である。
トロイの王女カサンドラは「木馬を城内に入れてはならぬ」と叫んだが、誰もその警告を聞き入れなかった。トロイが戦に敗れたのちカサンドラはアガメムノンにさらわれ、ミケーネに連れて行かれた。そこでも彼女は「この館には人殺しと滴る血の気がこもっている」とアガメムノン暗殺を予言するが、信じる者はひとりとしていなかった。カサンドラはアポロンから予言の能力を与えられたが、同時に、「その予言を誰も信じない」と呪いをかけられていた。
12月12日夕、土井たか子のカーテンコールに集まったOGやOBは、カサンドラの気持ちだったに違いない。
(2014.12.14 花崎泰雄)