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日本国政は自家中毒

2007-09-14 13:42:30 | Weblog
安倍晋三氏は9月12日に首相辞任の意思を明らかにし、翌日13日、慶応大学病院で診察をうけた。機能性胃腸障害との見立てをもらって入院した。いわゆる純政治的入院ではないが、おおざっぱにいうと、政治的自家中毒による政治的入院の範疇に属する。

これは安倍氏だけの話ではない。いわば、日本の政治全体が自家中毒を起こしているといってよい。原因ははっきりしている。国会議員の世襲化であり、デモクラシーの衣をかぶったアリストクラシーへの先祖帰り現象である。

試みに数えてみると、先ごろ死去した宮沢喜一以降の日本国首相は、細川護熙、羽田孜、村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三である。この9人のうち、世襲国会議員でなかったのは、村山と森の2人に過ぎない。宮沢喜一の父は衆議院議員・宮沢裕。細川護熙の母方の祖父は貴族院議員・首相の近衛文麿。羽田孜の父は衆議院議員・羽田武嗣郎。橋本龍太郎の父は衆議院議員・橋本龍伍。小渕恵三の父は衆議院議員・小渕光平。小泉純一郎の父は衆議院議員・小泉純也、祖父は衆議院議員・小泉又次郎。安倍晋三の父は衆議院議員・安倍晋太郎、父方の祖父は衆議院議員・安倍寛、母方の祖父は元首相・岸信介。

International Herald Tribune-The Asahi Shimbun(9月11日付)のAsahi
Shimbun部分の論評で、Andrew Horvatという東京経済大学の訪問教授が安倍内閣のことを “Boku-chan in Versailles” と冷やかしていた。貴族の苑で甘やかされて育った世間知らずの世襲議員の仲良し内閣のことである。

競馬用の馬などはinbreedingという同種交配でよく走る個体をつくるが、病気には弱くなる。日本の国会ではこの政治的同種交配(political inbreeding)がひどく進行している。そのひどさはアジアではフィリピンと並ぶ。

なぜこのようなことになったかというと、有権者の中にある消えやらぬ名望家信仰と、地盤の排他性である。古い話だが、当時すでに首相だった吉田茂が、新しい憲法で首相になるためには衆議院議員の資格が必要になったため、1947年の総選挙で高知県から立候補した。そのさい、仲介者に頼んで地盤を周旋してもらったそうである。吉田の父である竹内綱も衆議院議員だったが、1904年以降、立候補していなかったので地盤は消えていた。そこで、第1次吉田内閣の書記官長だった林譲二が高知県議の田村良平に、彼の父親・田村実の地盤を吉田に貸してやるようにと、説得したそうである。田村良平は父親の地盤をつかって総選挙に出馬するつまりだったが、あきらめて吉田に地盤を貸した。吉田が引退したあと田村は地盤を返してもらい、衆議院議員になった。「現職の首相であっても、新人として当選するには、だれかの地盤を譲り受けなければ当選するかどうか、安心はできなかった」(石川真澄『戦後政治構造史』日本評論社、1978年)。小渕恵三の急死のあと留学先のイギリスから呼びもどされた小渕の娘は、亡き父親の地盤に守られて難なく衆院入りした。

さて、まもなく始まる自民党の後継総裁選びでは、福田康夫と麻生太郎が焦点になっている。福田康夫の父は福田赳夫元首相である。麻生太郎の父は衆議院議員・麻生太賀吉で、母方の祖父が吉田茂元首相である。

一方、攻勢をかける野党の民主党代表の小沢一郎の父親・小沢佐重喜は衆議院議員。同党幹事長の鳩山由紀夫の父・鳩山威一郎は衆議院議員、祖父鳩山一郎は元首相、曽祖父鳩山和夫は衆議院議長だった。この人など究極の世襲議員といえる。

政治的同種交配による自家中毒症状が顕著になった日本の将来はおよそ明るくない。だれもが悲劇が起きることを予感しつつも、だれもそれをとめられない、まがまがしいギリシャ悲劇の日本翻案版が、永田町から全国に広がろうとしている気配を感じる。そのクライマックスにあたっての大向こうのかけ声「○○屋!」をなんとするか、今のうちから考えておかなくてはなるまい……。

(2007.9.14 花崎泰雄)

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