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news commentary

秋の日の釣瓶落としに呆然と

2020-09-17 03:10:41 | 政治

毎日新聞が安倍首相陣表明後の9月8日、安倍内閣支持率を世論調査で調べた。内閣支持率は50%に跳ね上がった。前回8月22日の辞任表明前の34%から16ポイント急増した。

安倍氏がいる内閣よりも、安倍氏がいなくなる内閣を支持する、という辛辣な冗談なのだろうか。死者を鞭うたない東洋古来の道徳観がもたらしたものだろうか。政治家がよく使う「禊ぎ」を辞めてゆく安倍氏に与えたのだろうか。「いずれにせよ」は安倍氏をはじめとする安倍内閣の面々の口癖だったが、いずれにせよ、日本の有権者はそのような考え方をするのである。日本の政治家はそのような日本の有権者の中を遊弋している。

「政治はいまや立身出世の方便である」といったのは、イギリスのサミュエル・ジョンソンである。安倍氏の後任総裁に菅氏を選んだ自民党内の選出過程は、一般の会社の役員選出風景と変わることがなかった。総裁選に出た3人の自民党議員の中で、政治のグランド・デザインを語ることが最も少なかった菅氏が圧倒的な勝利を収めた。自民党国会議員の集団は日本で最も根深いムラ型政治の体質を引きずる永田町のクラスターである。自民党国会議員は大臣の椅子を目指して派閥に所属し、大臣や党の役職を経ていつの日か総理大臣のポストを手に入れようと、虎視眈々、機会をうかがっている。それが彼らにとっては自分らしく生きることなのである。

安倍氏が掲げた「美しい日本」の旗も、ほぼ居ぬきのかたちで内閣をひきつぐ菅氏が受け継ぐのであろう。「きれいはきたない」「美しいは醜い」――国家だの、国だのと叫び散らす政治家は油断ならない。なぜなら、サミュエル・ジョンソンに言わせると「愛国主義は悪党の最後のよりどころ」であるからだ。

副総理として菅内閣に残留した麻生氏の悪党ぶりはものすごい。彼は2013年、当時の新聞記事によるとこんな風な発言をしている。

ヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、出てきた。ドイツ国民がヒトラーを選んだ。ワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下でヒトラーが出てきた。憲法はよくても、そういうことがありうる……憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね……

翌2014年安倍内閣は、内閣法制局を人事を通じてねじふせ、それまで集団的自衛権は憲法に違反するとしてきた法制局見解を「合憲」に変更させた。

そういう人たちが2012年の暮れからこの国の政治を牛耳ってきた。したがって、功績よりも弊害が目立った。

国連関連団体が毎年発表している「世界幸福度ランキング」によると、2019年の「美しい国」日本の住人たちの幸福度は104か国中ランキング58位だった。上位には例によって、フィンランドを筆頭に北欧諸国とオセアニアのニュージーランドやオーストラリアが入った。日本は2015年46位、2016年53位、2017年51位、2018年54位、と幸福度世界で中位をさまよっている国である。

幸せをもたらすのは、もちろん金だけではないが、極貧の中でも幸せを感じることができのは、少数の哲人だけだろう。日本の1人当りGDPは2010年の統計では世界第2位で35,534ドルだった。安倍政権が続く中、2018年には39,304ドルで世界26位までに後退した。同年シンガポール64,574ドル、オーストラリア51,334ドル、香港48,451ドル、ドイツ46,667ドル、カナダ46,290ドル。日本が足踏みするうちに、多少の幸運と多少の才覚・工夫と努力で、諸国が日本を追い越して行った。

だが、安倍政権は安倍のミックスは成果をあげたと誇らしげに言いつのった。安倍政権最後の日の9月16日、朝日新聞の「天声人語」は「景気対策に限れば安倍政権は満点には遠いが及第点だったと筆者は考える」と書いた。一方で、13面のオピニオンのページでは原真人記者が「アベノミクスを経済界がもてはやしたのは、円安・株高・堅調な雇用のせいだった」と書いた。だが、円安はドル高とユーロ高が急速に進んだ結果の裏返しにすぎず、雇用が堅調なのはここ10年で生産年齢人口が640万人減ったせいであり、株高は日銀のマイナス金利政策と、上場投資信託の巨額買い入れが相場を支えただけである。アベノミクスは雨乞いのようなものではなかったか。そのおかげで「政府の借金はもはや一朝一夕には解消できないほどに膨らみあがっている。その半分近くは、日銀が輪転機をぐるぐる回してお札を刷ってしのいでいる」ど同記者は書いた。

株価は市井の人々の経済生活と関連が薄い。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストでノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマン氏は最近の同紙に “Gross Domestic Misery Is Rising” という評論を書き、その中で「株式市場は経済ではない。アメリカ人のわずか1パーセントが株式の半分以上を所有し、所得中位以下の人々が持つ株式は市場の0.7パーセントにすぎない」と説明した。雇用もGDPも経済であるが、経済の1点に過ぎない。エコノミストの一部や政治家の多くが忘れているのは、経済はデータでなく人々の暮らしの問題であることを指摘した。

日本証券業協会の2019年のデータによると、2018年度末の個人金融資産残高は1,834兆円で、現金・預金が全体の53.3パーセント、上場株式は5.6パーセントだった。

スーザン・ストレンジが実体経済とは関係なく動くマネー・ゲームをカジノ資本主義と名付け、その金をマッド・マネーと名付けたのは前世紀の終わりごろだった。株価の堅調と人々の堅調な暮らしは連動しない。

実際に人々の暮らしにかかわる指標を見ると、

  • 日本の子どもの貧困率は15.7パーセント(2017年のOECD統計)で世界のワースト23位。
  • 日本の教育への公的支出は38か国中37位(OECD調査、2020年)
  • 日本の男女平等指数は世界135か国中121位。120位はアラブ首長国連邦。中国106位。韓国108位。
  • 国境なき記者団の2019年調査によると、日本の報道の自由度は世界72位だった。自由度の上位はノルウェー、フィンランドなどの北欧諸国が占め、アジアでは韓国が42位、台湾が43位である。順位はともかく、深刻なのは日本の自由度のランキングが年を追って落ちていることである。2010年に世界11位だったランキングが、安倍政権の2014年に59位に落ち、2015年には61位。2019年には72位まで落ちた。プレスには民主主義をまもり、政治的腐敗をかぎつける番犬役が期待されるのだが、プレスの牙を抜き「歯なしの番犬」に仕立てようとする動きが背後にある。

安倍政権の7年余りの間、日本人の暮らしの質は劣化し続けた。あらゆることを「問題ない。問題ない」と、理由を説明することなく退けてきた菅氏が率いる自民党政権に、先にあげた日本の長期劣化指標を巻き返す能力があるか。期待できる要素はどこにもない。

(2020.9.17  花崎泰雄)

 

 

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病める宰相

2020-09-09 23:38:00 | 政治

最初は悲劇、二度目は茶番、とマルクスは書いた。

正確に言えば次のようになる――世界史的な大事件や大人物は二度あらわれるとヘーゲルは言ったが、一度目は悲劇として、二度目は茶番として、と書き添えるのをヘーゲルは忘れた。『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』の冒頭にそんなことをマルクスは書いている。

世界史的な事件でも大人物でもないが、日本の“永田町政局史”の中で、マルクスのこの御託宣を演じて見せたのが安倍晋三・日本国首相(2020年9月9日現在)である。

安倍首相は2007年9月12日に一度目の辞意を表明し、首相の座をおりている。政治とカネをめぐる閣僚らの不祥事、年金記録問題が起きて、2007年7月の参院選で自民党が惨敗するなどの逆境に立たされた。

この時の辞任表明にあたって、安倍氏は持病の潰瘍性大腸炎には触れなかった。安倍氏は辞意表明の翌日の9月13日に入院、9月24日に入院先で記者会見を開き、体調の悪化によってこのままでは総理としての責任を全うし続けることはできないと辞任を決断した、と理由を語った。

周恩来氏は1976年に国務院総理(首相)在職のまま死去した。

元フランス大統領のフランソワ・ミッテラン氏は1995年に前立腺がんで死去した。

周恩来氏は毛沢東に対して忠実にふるまい、同時に、中国の将来を睨んで毛沢東路線の行き過ぎの調整にあたった。文化大革命で揺れる中国のかじ取り役をこなした。重篤な病をおして、病院から指示を出していたそうである。壮絶な死であった。

ミッテラン氏が死去したのは退任から8か月後の1996年の事だった。のちに公になったことだが、ミッテラン氏は1981年から1995年の任期の早い時期に前立腺がんを発症し、ひそかに治療を続けながら大統領職を務めていた。2期目の終りごろには大統領の職務遂行が困難な状況だったといわれている。ミッテラン氏が生命を賭して仕事を続けなければならないほどの課題があの頃のフランスにあったのだろうか。あるいは、ミッテラン氏にとっては権力者の座にい続けることが命より大切なことだったのだろうか。

さて、安倍晋三首相だが、彼は2020年8月28日二度目の辞任を表明した。辞任の理由は潰瘍性大腸炎が悪化し、国政に支障が生じるのを避けたい、ということであった。2007年の辞任のさいは、病気であったことは数日間語られぬままだった。2度目の辞任あたっては、検査のために病院へ行く姿をあらかじめメディアに報じさせ、潰瘍性大腸炎再発を辞任の理由の前面に持ち出した。

なぜ、安倍氏は二度目の辞任にあたって潰瘍性大腸炎再発を喧伝したのだろうか。安倍氏は首相の座にとどまることにうんざりし、一方で、無責任な政権投げ出しの批判を避けるために、潰瘍性大腸炎を理由にしたのである。評判最悪だったいわゆるアベノマスクを、安倍首相は執拗なまでに着用し続けた。他の閣僚はアベノマスクとは異なる大判のマスクを使っていた。テレビで見る限り、アベノマスクを使っていたのは首相以外には、少数の熱烈な首相取り巻きだけだった。

ところが、辞任表明の少しまえから、安倍首相はこだわりのアベノマスクの使用をやめた。首相官邸に入る安倍氏がアベノマスクに代えて普通の大型のマスクを使っている姿を、テレビのニュースカメラが映し出すようになった。

今にして思えば、ちょうどあのころアベノツッパリの腰が折れたのだろう。

第2次安倍政権も閣僚や与党議員の不祥事が相次ぎ、さらに加えて、森友問題、加計問題、桜を見る会をめぐる安倍氏自身の疑惑が取りざたされた。安倍氏を擁護しようとする行政官庁の首相に対する忖度ぶりが世間の評判になった。

安倍首相は職を投げ出したくなっていたと想像される。彼は何か志があって国会議員になったわけでも、首相になったわけでなく、家業の議員職を継いだだけの身だった。首相のポストへの執着も義務感も、ミッテラン氏や周恩来氏ほど強烈ではなかった。一度目の苦渋を飲まされた潰瘍性大腸炎が、二度目は政権投げ出しの格好の隠れ蓑になった。

辞任表明後も9月16日の臨時国会まで、彼は首相の座にとどまる。余裕しゃくしゃく、首相の仕事をこなしている。9日朝刊の「首相動静」をみると、8日は朝10時前に官邸に入り、分刻みのスケジュールで大勢の人と会い、午後6時まで官邸で働いていた。

(2020.9.10 花崎泰雄)

 

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衰弱する世論調査

2020-06-28 20:29:11 | 政治

日本の新聞社が世論調査を始めたのは第2次大戦後のことだ。日本を占領していたGHQの関係者が指導にあたった。

世論調査が軌道に乗ると、選挙人名簿から抽出した対象者を訪問して本人に会ったうえで意見を聞く面接法が定着した。調査員は多くの場合、アルバイトの大学生だった。その大学生を新聞社の記者たちが指揮・監督した。調査を実施する人たちは素人に近かった。そんな調査の態勢が長らく続いた。調査をする人たちの手法は洗練されなかった。

一方で、調査される側の人々を選び出す手順は、統計学的に納得できる方法を各新聞社とも採用した。「層化無作為多段抽出法」――たいていは「二段抽出」だった(詳しくは百科事典などで)。面接調査に選んだ対象者の特性(性別・職業・年齢・居住地域など)が、1億人近い日本の有権者(母集団)の特性と相似形になるように抽出作業を工夫した。

統計学的に洗練された方法で抽出された対象者から、面接の素人であるアルバイト大学生が意見を聴く。こうした新聞社による面接世論調査は1980年代まで続いた。

1990年代に入って、面接調査は費用がかかるうえ、機動性に欠け、加えて面接を嫌がる対象者がふえて回収率も低下してきた。そこで、面接を電話に切り替える動きが始まった。最初は抽出した対象者の住まいの固定電話番号を電話帳で調べて電話をかけた。やがて、コンピューターで番号をランダムに発生させて家庭の用固定電話で調査対象者を選んだ。時代がすすむにつれて、家庭用固定電話では、電話口に出る人が高齢者の場合が多いので、若い世代の意見を聞くために、携帯電話の番号も併用することになった。

調査はそれまでより簡単で安価になり、機動力もました。だが、この過程で、最も重要な調査の全体と調査対象者の相似形が崩れた。

そうした、新聞社の世論調査の変遷の中で、さきごろ産経新聞がミスをした。フジテレビと産経新聞社が行った世論調査で、架空の回答が含まれる不正が見つかったと発表した。発表では、不正は2019年5月から20年5月までの世論調査計14回あった。世論調査を下請けの調査会社に委託し、下請けの調査会社が一部を孫請けの調査会社に回していた。

世論調査の実施を外部の業者に委託する方法を多くの新聞社がいまでは使用しているという。安さと機動性を求めることで、世論調査はその統計学的信頼性を失いつつあったが、フジ・産経グループの不祥事でとどめが刺された。調査対象者の意見が日本全国の有権者の意見を代表するという推論の統計学的根拠が決定的に失われたのである。

こうした世論調査の手法の変化は、新聞社自体が世論調査に関心を失ってきていることの表れであろう。選挙結果の予測なら投票所から出てくる人を選んで、だれに投票したかを聞くことで可能である。出口調査は選挙に限れば、事前の電話による選挙調査より頼りになる。

政治動向調査については、最近、読売新聞が世論調査で首相にふさわしい自民党政治家を聞いたところ①石破茂②小泉進次郎③安倍晋三④河野太郎⑤岸田文雄の順だった。これは一種の人気投票であって、5人の政治家の政治的見識や目指す方向を回答者がそのように判断しているかについては不明である。

(20206.28  花崎泰雄)

 

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続・笑うしかないこの二人

2020-05-27 16:05:08 | 政治

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス封じに、いまでも抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンを飲んでいるのだろうか。新型ウイルス感染症・COVID-19への効果は未確認なうえ、心臓への悪影響など副作用がありうると警告されている薬である。

新型コロナウイルス退治に消毒薬を注射してみるのもいいんじゃないか、と記者団に言って、世界を驚愕させた人物だから、抗マラリア薬などお茶の子さいさいだろう。

かたや日本の安倍晋三首相。インフルエンザ治療薬のアビガンをCOVID-19の治療薬として使えるようにするための認可を5月末までに実現したいとしていた。国会の内外で「アビガン」「アビガン」を繰り返す固執ぶりだったが、厚生労働省の慎重論に阻まれて、5月中の認可をあきらめた、と報道された。

COVID-19による死者はアメリカが世界最多で5月27日現在98,875人。日本は862人で少なく見えるが、欧米中心の比較から離れて虚心坦懐にアジア太平洋地域をながめれば、日本の死者はこの地域で多い方から4番目になる。①中国6,434人②インドネシア1,418人③フィリピン886人④日本862人。ベトナムやカンボジアでは死者ゼロ、ニュージーランド2人、台湾は7人、タイ57人、オーストラリア102人、マレーシア115人、韓国269人。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、台湾の蔡英文総統、韓国のムン・ジュイン大統領は水際立ったCOVID-19対策を評価されて、支持率が上昇した。アーダーン首相の支持率は6割、蔡総統の支持率7割、ムン大統領の支持率7割。

海外メディアが絶妙のエイプリルフールと評したアベノマスクを、緊急事態宣言が終わった今なお全国の世帯に配布の途中(厚労省発表)の安倍首相の支持率は、いろいろあって、2割台に急落した。

(2020.5.27 花崎泰雄)

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笑うしかないこの二人

2020-04-26 01:32:40 | 政治

注射してはいけない、飲んではいけない。医者も公務員もメーカーも、アメリカ中が大騒ぎしている。民主党の大統領選候補予定者であるバイデン氏は「どうか漂白剤を飲まないで下さい」とツイッターに書き込み、ペロシ下院議長は「共和党員の科学拒否の表れ」と批判した。

もとはと言えば、皆様ご存じのアメリカはホワイトハウスの主の無知な発言から。ホワイトハウスのブリーフィングで、国土安全保障省の科学担当次官補代理が、ウイルスはアルコールや漂白剤に弱い可能性があると説明したのをうけて、アメリカ大統領であるトランプ氏が、消毒剤を人体に注入すればウイルスをやっつけることができるかもしれない、と発言した。

こ発言に全米、全世界が驚愕した。

翌日の記者会見でトランプ氏は、記者諸君に皮肉を込めて言った冗談であると、記者からの追及をかわそうとした。会見に立ち会っていた新型コロナウイルス感染症のホワイトハウス責任者であるペンス副大統領はすぐさま記者会見を打ち切った。

“You are fake news.” 以来、むしゃくしゃすると記者たちに八つ当たりするのがトランプ氏の流儀。それがトランプ支持層に受ける。トランプ氏も彼の支持層の多くも、デモクラシーとコモン・センスを守る番犬役がジャーナリズムの使命であるとする、一部のアメリカのメディアを嫌っている。インテリのスノバクラシーで、鼻持ちならないとして。

トランプ氏に親い日本の安倍首相も、この間、記者会見で質問に立った新聞記者を揶揄した。朝日新聞の記者が不評のアベノマスクについて質問したところ「御社のネットでも布マスクを3300円で販売しておられた。つまり需要も十分ある中で配布した」と、暗にマスク不足で暴利をむさぼっているかのような発言だった。よく言った。あのお高く気取った朝日新聞に強烈なパンチを送ったと、留飲を下げた人たちもいた。

そのあとメディアが、そのマスクが繊維製品の産地である泉佐野市と商工会議所が企画して、老舗の繊維会社が造った手作りの高性能マスクであると報じた。2枚一組の定価が3300であることも明らかにした。黙っていられなくなった泉佐野市長が首相官邸を訪れる事態に発展した。

首相に代わって応対した首相補佐官に、泉佐野市長がこのマスクを使ってみてくれと2組を渡した。補佐官は代価6600円を泉佐野市長に支払った。首相本人ではないが、補佐官が6600円を支払ったということは、それだけの値打ちがあると首相官邸が認めたということである。

ものにはピンとキリがある。酒もそうだし、マスクもそうだし、政治家もまた。

(2020.4.26  花崎泰雄)

 

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10万円

2020-04-20 23:59:48 | 政治

菅義偉官房長官が4月20日の記者会見で、国民1人当たり10万円の一律給付金について、自身が受け取るかどうかを問われ、「常識的には(申請は)しないと思う」と給付金は受け取らないとの意向を示した。(4月20日付朝日新聞夕刊)

ブッキラボーで芸のない返答だねえ。

――10万円の一律給付金はその趣旨を尊重してありがたくいただく。使い道はあらまし決まっている。その4割は新型コロナ感染症で生活が追い込まれている方々の救援に駆け回っている組織に寄付する。次の4割は危機に瀕している医療体制を支えようと奮闘している支援団体に寄付したい。その半分は日本国内の組織に、残り半分は途上国の組織に。私は政治家の端くれで議員でもあるので、公職選挙法で寄付行為は禁じられている。しかし、それは選挙区内でのことで、選挙区外では許されるようだ。この点は選挙管理委員会で確認を取りたい。最後の2割を使って、市場で肉、魚、野菜、豆腐など買って家族と寄せ鍋でも食べて消費喚起のお手伝いをしようかと思っている。秘書や事務所の職員、それに記者の皆さんもお招きしたいところだが、もっかのところ、家族以外の者との大勢の会食は避けなければならいので……。

この程度のことも言えなかったのかねえ。10万円の給付がなくても生活が維持できる層に対して、その10万円を生活困難者への支援、医療支援、生産者・小売業者支援の消費活性化へ向けようと、支援と連帯を呼び掛ける。それが政治家ってもんだろうに。Cool head, but warm heart――Alfred Marshall.

(2020.4.20  花崎泰雄)

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どすこい、どすこい

2020-03-09 21:54:52 | 政治

3月9日、NKHテレビで国会中継(参議院予算委員会)を見ていたら、この日の質問者のしんがりを務めた共産党の田村智子氏が、これから私はコロナウイルスと桜を見る会の2点について質問をするが、質問の途中でこの中継が切れるので、切れた部分は夜の録画放送で見ていただきたい、と発言した。田村議員の質問は午後4時半を回ったあたりで始まり、午後5時には予定通り中継が打ち切られた。

NHKの国会中継ではいつものことである。

野党と政府の言論バトルである国会中継が午後5時で打ち切られ、短いニュースの時間をはさんで放送されたのは観衆のいない大阪府立体育会館からの肉弾相打つ大相撲春場所中継だった。人の気配がないがらんとした会場では土俵にあがる力士も力が入らないだろう。

こんなことになったのも、安倍首相のイベント自粛・学校休校の「お願い」が出たためだ。そのお願いの根拠は疫学専門家のお勧めというよりは、安倍氏とその周辺の政局易学専門家の判断だと、いくつかの新聞が報じている。

青森・岩手・山形・富山・福井・島根・鳥取・香川・香川・徳島・長崎・佐賀・鹿児島では感染者の報告がゼロである(3月9日、厚生労働省)。

森友・加計・桜を見る会とその前夜祭・黒川検事長定年延長と、一連の疑わしいふるまいで剣が峰に立たされた安倍政権へのカンフル剤として、イベント自粛・学校休校の事実上の号令を演出したのだろう。

この日本国首相とその周辺はとっさのヒラメキで物事を決めてしまう癖がある。黒川検事長の定年延長も関連する法令や過去の国会審議の検討を抜きにして「ためらうことなく」決断したフシがある。そのせいで、3月6日の参院予算員会では黒川氏定年延長の法的根拠・手続きの正当性を追求されて、森まさこ法相は個別の案件についてはコメントを避けると36回も(朝日新聞)繰り返さざるを得なかった。桜を見る会も桜を見る会前夜祭の問題でも安倍首相本人が、反証を示さないで逃げ回った。

NHKが3月9日に伝えた世論調査では、安倍内閣の支持率は43パーセント、不支持率が41パーセント。統計の有意差を考えると、支持と不支持が40パーセント台前半で拮抗したと考えるのが妥当だろう。支持不支持がどっこいどっこいの、その調査で、内閣を支持する理由を聞くとトップが「ほかの内閣よりよさそうだから」、不支持の理由のトップは「首相の人柄が信用できない」だった。

   (2020.3.9 花崎泰雄)

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疑惑の連鎖

2020-02-27 23:59:13 | 政治

医師が患者を診断してコロナウイルスの検査が必要であると判断したのだが、保健所から検査を断られたというケースが報道されている。国会の審議でも問題になった。

中国以外では日本・韓国・イタリアでコロナウイルスが拡散している。日本で学校の閉鎖やラグビー、サッカー、大規模な催しの中止などに躍起になっているさなか、気になる日韓比較をメディアが報じている。

韓国は3万人近い人のPCR検査を済ませたが、日本ではまだ2千人に届かないという。日本の医療体制の緊急対応能力の低さに唖然とする。

一方で、PCR検査で陽性と判断できても治療法が確立されておらず、対症療法しかないのだから、PCR検査に大きな意味があるわけではない。よく手を洗い、人ごみをさけ、熱が出たらしばらくの間は自宅で安静にして様子をみるしかない、という意見も流れてくる。

日本政府が25日に発表した新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の骨子は、国民に対して生活指導はするが、政府がいつまでに①PCR検査を韓国並みの能力に引き上げるのか②簡易検査キット開発発のメド③特効薬開発の時期④重症者用のベッド増床の目標など、政府のやるべきことについては、具体的な説明を避けている。

日本政府はコロナウイルス陽性者の数を巣やしたくないのであろう。オリンピック開催に影響が出るのを避けようとしている。政府は1日のPCR検査能力は3600人であるとしているが、実際に検査したのは1日900人に過ぎない。やればできるはずの検査態勢の強化に取り組んでいないのは、陽性者の数を増やしたくないからだ――と海外のメディアに書きたてられている。

たとえば、2月26日付の韓国『東亜日報』――。

「日本政府が新型コロナウイルス感染症の診断検査を制限的に実施し、感染者数が実際より大幅に縮小されているという指摘が出ている。医師であり医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは25日、東亜日報の電話取材に対して、『日本は大病院だけが重症患者に対する新型コロナの検査を行っている』とし、『医療保険で診療を受けることができる病院全てが検査を実施しなければならない』と強調した。また、『日本政府が開催を控えた東京五輪を意識して、日本国内で感染は蔓延していないと主張している』と指摘した」

いくら安倍政権だとはいえ、そこまではやるまい、と思うのだが、2013年9月、安倍首相にはオリンピック招致にあたって、フクシマは「アンダーコントロール」とブエノスアイレスで演説した過去がある。まだタンクからもれた汚染水が地下水にまじって海に流れている時期だった。

オリンピック開催のために二度目の「アンダーコントロール」のメッセージをなんとしても世界に伝えた気分なのだろうと、森友・加計・桜・検事長問題で増幅している安倍首相の人柄への疑いの目が、政権のコロナウイルス対策に対しても向けられている。

(2020.2.27 花崎泰雄)

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某大学法学部卒業試験問題

2020-02-24 00:51:43 | 政治

<報道にもとづく背景>

日本国政府は2020年1月31日の閣議で、黒川・東京高検検事長の定年延長を決定した。検察庁法には定年延長の規定がないので、国家公務員法の規定を適用した。ながらく政府は検察官には国家公務員法に基づく定年延長は適用しないと解釈してきた。2月12日の衆院予算員会で人事院は「現在も同じ解釈を引き継いでいる」と述べた。翌13日になると安倍首相が、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると、今般解釈することとした、と衆院本会議で解釈の変更を明言した。すると人事院は2月19日の予算委員会で、「現在」という言葉の使い方が不正確だったとして、2月12日の答弁を撤回した。野党は政府の恣意的な解釈次第で、制度の運用が変わるのは問題だと、激しく追及している。

<関係する条文>

  1. [検察庁法第22条] 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
  2. [国家公務員法第81条の3] 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

<問題>

  1. 国家公務員法と検察庁法の関係は、前者は対象範囲が広い一般法、後者は対象範囲の狭い特別法にあたる。特別法である検察庁が退職年齢のみを定め勤務延長について言及していないのは、勤務延長を認めていないからであると解することが妥当であるという見解と、検察庁法は退職年齢に言及したのみであり、勤務延長については国家公務員法が適用される、という二つの意見について、特別法と一般法の優先という考え方を念頭に、どちらの考え方が妥当か、論じなさい。
  2. 検事長は任命権者が内閣であることから、黒川検事長の定年延長については閣議で決定した。安倍首相は国家公務員法の規定が適用されると解釈変更したと明らかにしたが、その解釈変更のプロセスについてはまだ完全に明らかになっていない。人事院や法務省のレベルでの解釈変更で十分なのか、閣議決定が必要な人事案件なので解釈変更も閣議決定が必要なのか、国家公務員法あるいは検察庁法の該当条文の変更が必要であるのか、論じなさい。

      ◇

<余談>このところつれづれなるままに、衆議院サイトの国会審議中継をみている。これがめっぽう面白い。野党議員が声を荒げて激怒して見せたり、妙に冷静な声で答弁する側を油断させようとしたり、答弁する側は意味不明の弁舌を繰り返したり、議事録に残る国会での答弁なので嘘は言っていないと言わんばかりの答えをしたり、閣僚によっては事務方の書いた答弁書を棒読みして、質問者の野党議員に「よく読めました」と褒められたり……。「森友」「加計」「桜」「検事長」と、大量の嘘を重ねてきた安倍政権――という感触は多くの人が抱いているのだが、国政調査権を持つ野党にしても、政府と与党と官僚の壁に阻まれ、その嘘を白日の下にさらすことができないでいる。見ている側にも切歯扼腕の方が多いことだろう。かつて発展途上国の政治過程を研究課題にしてきた私にとっては、今の日本の政治過程が、過去フィールドワークで足しげく訪れたどこかの国と似ていて、郷愁のような既視感がある。

 (2020.2.24  花崎泰雄)

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おもしろうてやがて悲しき……

2020-02-04 01:09:23 | 政治

桜を見る会の安倍晋三後援会の案内文について、首相は「幅広く募っているという認識でございまして、募集しているという認識ではなかった」と国会答弁をした。この答弁は「頭は痛いが頭痛ではないと言っているに同じ」と野党議員に揶揄され、予算委員会の笑いをさそった。この手の珍妙な言い回しは、それまで憲法に抵触するとしてきた集団的自衛権を外部環境の変化に合わせて、憲法上問題ない集団的自衛権もある、とした論法以来おなじみの修辞法である。

ひきつづき「桜を見る会」とその「前夜蔡」である安倍晋三後援会の夕食会をめぐる国会問答は、下手な漫才よりよほど面白い笑いを提供し続けている。野党の質問者が「つっこみ」で日本国首相が「ぼけ」の役割を分担して、国会中継の視聴者を笑わせてくれる。

2月3日もついNHKの国会中継を見てしまった。衆院野党会派の辻元清美氏がこの日のトリをつとめ、えいえいやっと切り込んでいく。

辻元氏は2013年からニューオータニや全日空ホテルで催されてきた「前夜祭」は、会費五千円、参加者各自がホテルと契約し、ホテルが参加者それぞれに領収書をわたす「安倍方式」でやったのか、と質問した。

安倍首相は、いずれの年の夕食会もホテル側との合意のもと、一人五千円という価格設定だった。会場入り口の受付で安倍事務所の職員が会費を収集し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受け付け終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡す、という形で参加者からホテル側への支払いがなされた。領収書にホテルの担当者が金額などを手書きし、宛名は空欄だったと説明した。

すると辻元氏が、「安倍方式」でやれば政治資金収支報告書に不記載でも違法ではないということを、日本中の自治体議員や国会議員に対して太鼓判を押してほしい、といなおってみせた。

すると首相が安倍晋三後援会としての収入支出は一切ないから、収支報告書への記載は必要ない、と答弁。同じ形式であれば問題ないと考えている、とも答えた。高市早苗総務相が政治団体の収入・支出でない場合は記載の義務はないと念を押した。首相も総務省も衆院予算委員会の場で「安倍方式」にあっけらかんと太鼓判を押すわけにもいかないが、この答弁で認印ぐらいは押した感じである。

首相が地元でやる新春の会では後援会が会費をとり、収支報告書に載せていると弁明すると、すぐさま辻元氏に、じゃあ、なぜなぜ「前夜祭」にかぎって参加者が直接ホテルへ支払ったのか、とつめよられた。

これに対して首相は、後援会の人たちが集まり、食堂なりレストランで割り勘で会費を払った場合は収支報告書には載せない、と「前夜祭」を割り勘の催しであるかの如く説明した。そこで辻元氏が、ホテルの会場を借り切った八百人の会合で、そんな話、聞いたことはない、とあきれてみせる。さらに、辻元氏が、前夜祭の参加者が安倍さんのおかげで、高級ホテルで五千円で飲食できたとなれば買収。ホテルがだいぶディスカウントしてくれたとなったら、寄付を受けているのではないか、という疑いを持たれる。収支報告書を訂正し、追加記載することを求めた。

首相の事務所が「前夜」に参加した人からホテル発行の領収書を集めて開示すれば、疑惑を払拭する一助になるだろう、と辻元氏がつめよると、首相は、領収書は間違いなくニューオータニ側が出しており、違法性はない。あえて後援者から集める必要はないと考えている、と日本国首相の国会答弁が信用できないのかといった態度である。

一般会計総額が過去最大の102兆6580億円に達した2020年度予算案を論じる国会の議論としては金額的にはちまちまとした事柄に見えるのか、桜より予算本体の議論をという声もあるのだが、予算を編成した政権の体質批判を抜きにして、カネの使い道だけを議論するのもむなしい。だって、森友、加計、桜を見る会……仏の顔も三度とやら……。

くわえて、安倍政権は2月7日で定年退官する予定だった東京高検検事長の黒川弘務氏について、半年後の8月7日まで勤務を延長させることを閣議決定している。

報道によると、検察庁法では検事総長の定年は65歳、その他の検察官は63歳と定めている。しかし、国家公務員法では、職務の特殊性や特別の事情から、退職により公務に支障がある場合、1年未満なら引き続き勤務させることができると定めているので、この規定を適用して、東京高検検事長の勤務を延長することにしたと政府は説明している。

検察庁法の定めを国家公務員法の定めでオーバールールしたのだが、野党は黒川氏を次の検事総長に据えるための工作だとして、国会の内外で批判を始めている。野党党首は安倍政権の意に沿い、法務行政を牛耳ってきたと言われていると発言、週刊誌などは安倍政権の番犬を温存したのではないかと伝えている。何のため。黒川氏の定年延長が決まったのは1月31日。定年退官予定日の1週間前だった。その時、政権が心配していた事件はIR汚職事件である。

(2020.2.3)

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ダーティー・ディール

2019-10-12 19:23:50 | 政治

米国の大統領が「ディール、ディール」と叫ぶのは彼の名前が「トランプ」だからだ、と冗談を言う人がいる。

それはくだらない冗談であって、トランプ氏は大統領再選を目指して躍起になっているだけである。念頭には、ただただ、彼の支持基盤のご機嫌を取ることしかない。自由主義世界—-古びた呼称になってしまった――のリーダーとしての責任感などこれっぽっちもない。

そもそも第2次大戦後の米国の安全保障政策の歴史に関して、からっきし無知なように見える。沖縄の米軍基地は第一義的に日本ではなくて、米国を守るための最前線基地である。中国の西太平洋進出ににらみをきかすだけでなく、東アジア一般や、遠くは南アジアや中東地域において米国の安全保障にとって有利な環境を持続させる役割を果たしている。

朝鮮戦争で日本は米軍の重要な補給基地になった。ベトナム戦争では嘉手納を飛び立ったB52がベトナム爆撃に向かった。横須賀を主要な海外基地にしている米第7艦隊は西大西洋からインド洋にかけての広い地域を守備範囲にしている。

トランプ氏は6月の大阪サミットのおり、記者会見で日米安保は不公平だと言った。日米安保の破棄を考えているのかと問われて、「破棄は考えていない」と断言した。日米安保を持ち出したのは、日米貿易交渉で日本に譲歩を迫るためのブラフである。ただし、トランプ氏は過去に日米安保の破棄を示唆するような非公式発言もあり、日米安保は米国の金の無題使いであり、なんだったら破棄してもいい、と米大統領が考えているとのうわさは周辺諸国にさまざまな思惑を生じさせている。

1950年1月、当時のアチソン米国務長官がスターリンのソ連と毛沢東の中国に対抗する防衛線(のちにアチソン・ラインと呼ばれるようになった)のアイディアをプレスに発表した。日本や沖縄はアチソン・ラインの内側に入っていたが、朝鮮半島はラインの外だった。これを知った金日成が韓国に攻め込むのは今だと、スターリンと毛沢東を説き伏せ、朝鮮戦争を始めたという説がある。

ついこの間、トランプ大統領がシリア北部のクルド人地域から米兵をひきあげると表明するや否や、間髪を入れずトルコ軍か越境進撃してクルド人武装組織を攻撃した。

ツイッターで人気をあおりたがるような政治家の頭の中に、歴史の教訓といったようなものはない。日米安保は不公平だ、日本の自動車には通商拡大法232条を適用して追加関税をかけていもいい、といった類の発言は、日本に対して農産物の輸入拡大を迫り、アメリカの農業関係者の間のトランプ人気をあおるためのものだった。

日米貿易交渉で、日本は米国が求める農産物の輸入拡大に譲歩し、トランプ大統領は「70億ドル相当の農産物輸出市場の拡大。大勝利だ」と語った。日本側はTPPの枠組み以上の譲歩はしていない、と言っている。

トランプ大統領が離脱を決めたTPPでは、米国は日本から輸入する自動車にかけられている関税を25年かけてゼロにすることになっていた。日本側が農産物の関税水準をTPP並みに引き下げた見返りに、米国の日本車輸入の関税も25年後にゼロにするという見返りがあってしかるべきだが、その求めは米国によって拒絶された。

米国が日本に与えたものは、当面は通商拡大法232条による追加関税をしないという口約束だけである。米国に対して追従笑い外交を採用している安倍首相は、232条適用除外の口約束を持って、ウィン・ウィンの外交成果であると自賛している。

 

10月11日の衆院予算員会で、国民民主党の後藤祐一議員が、  茂木外相に対して、自動車の関税撤廃に関してはさらなる外交交渉による関税撤廃と言っているが、協定の付属文書を読むかぎり、完全撤廃に関しては今後の交渉次第という意味ではないかと質した。

日米貿易協定の付属文書には次のような英文がある。

Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiation with respect to the elimination of customs duties.

Be subject to という言い回しは、The treaty is subject to ratification. (条約は批准を必要とする) のように条件を設定する働きがあり、普通に了解すれば、自動車関税撤廃に関しては交渉が必要である、と理解するのが妥当であろう。

茂木外相は、regarding でなく、with respect to が用いられた点に留意してほしい、と答弁した。あたかも、with respect to にはregarding 以上の含みがあるかのような弁明だが、どんな違いがあるのかについては、明らかにしなかった。

ウェブスターの辞書を引くと、with respect toは with reference to と同意で、ことさらな違いはない。ニュアンスの違いは個体差によるところが多いので、日本の外相と相手国のカウンターパートではニュアンスが異なるだろう。

一般論でいうと、辞書の用例にある With respect to your proposal, we are sorry to say that we cannot agree to it. の、その respect である。

要するに茂木氏の英語語法論は、自動車関税に関しては、TPP相当の完全削減への道筋の言質を米国からとれなかったことへの弁解にすぎない。

(2019.10.12 花崎泰雄)

 

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48位と67位

2019-10-06 00:03:57 | 政治

10月2日の『ニューヨーク・タイムズ』がトランプ米大統領の記者会見の模様を伝えた。ホワイトハウスでのニーニスト・フィンランド大統領との共同記者会見でのことだ。

「私に言っているのか」とトランプ大統領。民主党が下院で大統領弾劾のための調査をスタートさせたウクライナ疑惑に関連して質問したロイター通信のメイソン記者に対して言った。フィンランド大統領に対して質問しないのは失礼ではないか、という意味である。

メイソン記者がそれに対して、大統領、私の質問にお答えください、と言った。

トランプ氏はそこでキレてしまい、例によってフェイク・ニュースだの、なんだのかんだのとののしった。ついでに記者団にむかって次のような罵倒の言葉を浴びせた。この部分はぜひとも、原文で味わっていただきたい。

 “It’s a whole hoax, and you know who’s playing into the hoax? People like you and the fake news media that we have in this country — and, I say in many cases, the corrupt media, because you’re corrupt. Much of the media in this country is not just fake, it’s corrupt.”

ニーニスト・フィンランド大統領がこのやりとりを、相撲でいえば「砂かぶり」の席で目撃していた。報道の自由の先進国の政治家であるニーニスト氏は、報道の自由の面では中進国の米国の大統領と記者団のやり取りを直接見分して何を思っただろうか。

『国境なき記者団』の2018年の報道の自由度調査では、フィンランドは自由度世界第2位。トランプ大統領の米国は48位である。

翌日(3日)の日本の『朝日新聞』が、かんぽ生命保険の不正販売報道の件で、鈴木康雄・日本郵政副社長が国会で野党によるヒアリングに応じた後、院内で記者団の取材に対して次のように言った、と伝えた。

「(NHK)のクロ現(クローズアップ現代)は続編に向け情報提供を募る動画を昨年7月にネット投稿したが、郵政側の抗議後に削除。続編はかんぽ生命の不正販売の問題が広がった後の今年7月まで放送されなかった。鈴木氏はNHK側から『取材を受けてくれれば動画を消す』と言われたと説明。記者団に対し、『まるで暴力団と一緒。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならやめたるわ。俺の言うことを聞けって。バカじゃねぇの』と述べた。NHKへの抗議について、長門正貢・日本郵政社長は『深く反省している』と話しているが、鈴木氏はこの日、『いろんな考え方がある』と述べるにとどめた」

開会した臨時国会の論戦のテーマは「芸術祭への補助金、NHKかんぽ報道、関電の金品受領」と野党側が意気込んでいる割には、安倍政権下での報道の自由についての危機感がジャーナリズムの側に足りない。

国境なき記者団の調査では、日本の報道自由度は米国をも下回り世界で67位。日本は2010年には11位だったが、安倍政権下で順位が急降下した。

 (2019.10.5 花崎泰雄)

 

 

 

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気合の入れ方

2019-09-28 19:09:18 | 政治

国連の気候セッションで16歳の少女が語気鋭く演説した。

"You have stolen my dreams and my childhood with your empty words. And yet I'm one of the lucky ones. People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing. We are in the beginning of a mass extinction, and all you can talk about is money and fairy tales of eternal economic growth. How dare you!

また、こうも言った。

"For more than 30 years, the science has been crystal clear. How dare you continue to look away and come here saying that you're doing enough, when the politics and solutions needed are still nowhere in sight."

"You say you hear us and that you understand the urgency. But no matter how sad and angry I am, I do not want to believe that. Because if you really understood the situation and still kept on failing to act, then you would be evil. And that I refuse to believe."

少女は “I do not want to believe that.”と言った。演説内容の深刻さ、場所柄をわきまえて、”I don’t wanna believe that.”とは言わなかった。Basicな言葉の強さが心を打つ。

この国連セッションに参加のためニューヨーク市に来ていた某国の環境大臣は、記者会見に英語で臨み、次のように語ったとロイター通信が伝えた。

“In politics there are so many issues, sometimes boring. On tackling such a big-scale issue like climate change, it’s got to be fun, it’s got to be cool. It’s got to be sexy too.”

環境大臣が使った have got toという用法は、gottaほどくだけすぎではないが、それでも、mustとはニュアンス上の違いがある。

BBCに聞いてみよう。

Must, have to and have got to are all used to express obligation or the need to do something.

They can be used interchangeably in the present tense, except that must suggests that it is the speaker who has decided that something is necessary, whereas have to and have got to suggest that somebody else has imposed the decision.

Have got to is characteristic of very informal speech. Have to sounds slightly more formal.

Compare the following:

•I must clean the house before mum gets back. I want her to find it all neat and tidy.

•Sorry, I can't come out now. I've got to tidy up my room before I'm allowed out.

•He has to attend the clinic every two weeks. He's really quite seriously ill.

•You must come and visit us again soon. It's ages since we saw you.

   ( http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/youmeus/learnit/learnitv127.shtml

BBCの語法ご意見番に従えば、環境相は自らの意思を、折り目正しく、はっきり表明させるためmustを使うべきであった。以上、環境大臣のための英文法でした。

Fun, cool, sexy の用語法の妥当性については、某国の野党が国会で追及するとしているので、そちらにゆだねよう。

 

(2019.9.28 花崎泰雄)

 

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島田・丁髷の勧め

2019-09-17 21:58:49 | 政治

最近の朝日新聞にこんな記事が載っていた。

「朝日新聞社の全国世論調査(9月14、15日実施)で、安倍晋三首相の次の自民党総裁にふさわしいと思う人を聞くと、小泉進次郎氏が22%と最多で、石破茂氏の18%が続いた。河野太郎氏と菅義偉氏が共に8%、岸田文雄氏は6%だった」

同じころ毎日新聞に載った記事。

 「森喜朗元首相は11日、小泉進次郎氏が環境相として初入閣した今回の内閣改造について『とりもとったり、受けも受けたりだ。安倍晋三首相は深い。なかなか円熟してきた』と東京都内で記者団に述べた。小泉氏への期待を問われると『未知数だが、成功してもらわないと困る』と語った。(共同)」

戦後の日本の歴史を振り返ると、自民党がほぼ政権を独占してきた。日本では変化を極度に嫌う文化が優勢だから、今後も自民党の政権掌握が続く可能性が高い。つまりは、ポスト安倍の首相候補として小泉進次郎氏が有力になったということである――一新聞の世論調査ではあるが。

 「おもてなし」タレントの妊娠を機に、彼女の夫になると首相官邸でアナウンスしたことが進次郎人気の急上昇につながり、ついでに官邸を結婚発表記者会場に提供した安倍政権の浮揚にも効果があった。昔も国会議員同士が恋愛して、妊娠という「厳粛な事実」を理由に結婚した例がある。一方は既婚者で子どもがいた。園田天光光・直の両氏である。当時は大きな話題、あるいはスキャンダルになったが、だからといって、天光光氏あるいは直氏を首相にという声は上がらなかった。

 トランプ氏のワシントン、ジョンソン氏のロンドンと時をおなじくして、安倍氏の東京も政治的バーレスク劇場になったということであろう。

 小泉進次郎氏は環境相になったのだが、環境相になるにふさわしいどのような見識を持っているのかという点について、森氏は歯牙にもかけなったし、新聞は伝えようとしないし、有権者は知ろうともしない。永田町の政治家も、政治ニュースを報道する記者たちも、省庁の長のポジションにつく人の能力や見識ではなく、長の椅子をめぐる政府機構内の権力の座の争奪戦にもっぱら関心を寄せている。

徳川時代の日本は徳川家を頂点にした諸大名の集合体で、諸大名はそれぞれの支配地で家産制国家の体制を敷いていた。大名の支配地・藩は将軍から与えられた所有物で、それを守るのが大名を取り巻く家産官僚だった。諸大名は将軍家の家産官僚で、それぞれの藩の藩士は大名の家産官僚だった。自民党総裁は日本国首相になり、総裁に従う議員が各省庁の役職者に就任して家産官僚に似たようなものなり、それぞれの議員の選挙区では、地方議員や地元有力者が議員を支えている。自民党議員とその中核になっている世襲政治家グループ、政府官僚が自民党ファミリーを形成している。そのファミリーの維持が政権の第1の目標である。政権の維持によって彼らは日本を所有できる。人民よりも中国共産党を守ることを優先させているお隣の国と、どこか似ている。

第2次大戦後、占領軍が新しい憲法を作り、デモクラシーという考え方を紹介してくれたのだが、どうやらこの国人たちは外来思想とは肌が合わないらしい。家父長制家族国家の政治が好みのようである。「ニッポン株式会社」という集団主義的な言葉を流行させた時代があった。その集団主義に加えて、いまでは上意下達・命令と服従の風潮が著しくなり、「ニッポン前垂れ商店」の時代が始まっている。

 そうだねえ――かつてロンドンやキャンベラ、返還前の香港などでは、裁判官、検事、弁護士が鬘を着用していた。それが職業上のしきたりだった。日本の国会でも議員に島田や丁髷の鬘の着用を義務づけることを勧める。自分たちのやっていることの時代錯誤性を、時々は議事堂内のトイレの鏡をのぞいて自覚するよすがとして。

 (2019.9.17 花崎泰雄)

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さあ、参院選だ

2019-07-04 00:13:15 | 政治

参議院議員選挙は7月4日公示され21日投票日を迎える。

大阪で開催されたG20の議長として、安倍・日本首相は「外交のアベ」のかっこいいところを有権者にみせて、選挙の票を集めようとした。だが、話題は板門店でのトランプ・金会談にかっさらわれてしまった。そのうえ、徴用工問題についての韓国の態度に怒って、半導体材料の対韓輸出に規制をかけた。韓国に対する強腰を示して、反韓層からの支持を固めようとするつもりなのだろうか。トランプ流の「ディール」を真似ているのだろうか。貧すれば鈍する。落ち目の国の政権与党にはその程度の知恵しか残っていないのだろうか。

日本の勢いは長期低落傾向を示している。GDP成長率はG20の中で上から17番目。下から3番目(EUを除く参加国は19ヵ国)。日本より下位の国は南アフリカとアルゼンチンである(2018年、IMF統計)。

日本の1人当たりGDPは2018年には世界第27位。その前の2010年には18位、2000年には2位、1990年には9位だった。いま日本の雇用労働者の37パーセントが非正規雇用である。ありていに言えば、低賃金労働者である。ルンペンプロレタリアートの予備軍である。女性の雇用労働者の場合、その55パーセントが非正規雇用労働者である。

女性がこのように踏みつけにされるのは、ひとつには国会に女性の議員が少ないからである。日本の衆議院の場合、女性の議員は10パーセントほど。2018年の列国議会同盟のデータでは、193か国中、第165位である。G20のメンバーの中では、当然、最下位である。G20のメンバーだが選挙による国会がないサウジアラビアには、国会にあたる諮問評議会がある。議員は国王が任命する。150人中、2割が女性である。

日本は結婚によって女性に改姓を強いる世界では数少ない国である(唯一の国との説もある)。国連から「女性差別である」と是正勧告を受けている。自由民主党の多くの議員は「別姓にすると家族の絆が崩壊する」などと言って、選択的別姓制度に反対している。

結婚して大多数の女性が男性の姓に改姓する。その夫婦が育てた娘は、たいていの場合、やがて結婚して夫の姓を名乗る。したがって父母兄弟と、結婚した娘は別姓になる。父母と姓が異なる娘であっても娘であることに変わりなく、祖父母と姓の異なる孫であっても、孫はみな可愛い。したがって姓と家族の絆は関連が薄い。

私が知っているオーストラリの大学教授は、最初の結婚では相手の男性の姓を名乗った。その後、離婚、やがて別の男性と結婚したが、その時は改姓せず、別れた前夫の姓を使って夫婦別姓で通した。理由は簡単だ。前の夫の姓を名乗っていた比較的若い時に重要な学術論文や本を多数書いていたからである。名前を変えることで、キャリアとの関連が希薄になるの嫌ったのである。

転石苔むさず――どうやら日本人は変わることを嫌悪して、苔むす国を愛でているように見える。その不都合さに我慢強く耐えながら。

 (2019.7.3 花崎泰雄)

 

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