山本藤光の文庫で読む500+α

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法月綸太郎『キングを探せ』(講談社文庫)

2018-03-03 | 書評「の」の国内著者
法月綸太郎『キングを探せ』(講談社文庫)

奇妙なニックネームで呼び合う4人の男たち。なんの縁もなかった彼らの共通項は<殺意>。どうしても殺したい相手がいる、それだけで結託した彼らは、交換殺人を目論む。誰が誰のターゲットを殺すのか。それを決めるのはたった4枚のカード。粛々と進められる計画に、法月警視と綸太郎のコンビが挑む。(「BOOK」データベースより)

◎新本格ミステリの時代

法月綸太郎『キングを探せ』を、講談社ノベルズで読んでいます。文庫化されるまで、書評を書くのを控えてきました。やっと講談社文庫になりました。満を持して感動をお伝えしたいと思います。

法月綸太郎は1964年生まれで、京大推理小説研究会の出身です。法月綸太郎は綾辻行人、我孫子武丸、有栖川有栖などと並び、新本格ミステリー界を牽引しています。ミステリー界は、今や新たなうねりのなかにあります。

1970年代の横溝正史ブームからはじまり、雑誌「幻影城」出身の若手が台頭してきます。泡坂妻夫(1933-2009年、推薦作『亜愛一郎の狼狽』創元推理文庫)、連城三紀彦(1948-2013年、推薦作『戻り川心中』講談社文庫)、竹本健治などが頭角を現しはじめます。

ところが本格ミステリーはあまり売れず、泡坂は人情物や時代物、連城は恋愛物などを書かざるを得なくなります。そして1980年代になって、島田荘司(1948年生まれ)が『占星術殺人事件』(講談社文庫、「山本藤光の文庫で読む500+α」推薦作)を引っ提げて登場します。

島田荘司は、新本格ミステリーの祖と呼ばれ、若手の発掘にも熱心でした。綾辻行人(1960年生まれ)や歌野晶午(1961年生まれ。推薦作『葉桜の季節に君を想うということ』文春文庫)などは島田の世話でデビューしています。法月綸太郎のデビュー作『密閉教室』(講談社文庫)も江戸川乱歩賞を逃していますが、島田荘司の推薦によるものです。

◎法月親子の活躍

法月綸太郎が著作のなかで、作家・法月綸太郎と父の法月警視を初めて登場させてのは、2作目『雪密室』(講談社文庫)からです。作家・法月綸太郎と法月警視は、『キングを探せ』(講談社文庫)にも登場します。私は本書を、本格ミステリ大賞受賞作『生首に聞いてみろ』(角川文庫)よりも高く評価しています。

『キングを探せ』は、4重交換殺人事件をテーマにした作品です。2重交換までなら単純な構図ですが、4重交換となると相当複雑になります。殺したい相手を抱えた4人の男(カネゴン、夢の島、りさぴょん、イクル君)が、今夜かぎりという前提でカラオケボックスで密会します。4重交換殺人事件の幕開けとしては、なんとも弱弱しいニックネームの勢ぞろいです。

4人はカードを引いて、殺人のターゲットと順番を決めます。ターゲットのカードは、AQJKの4枚。それぞれがターゲットとなる人を意味しています。本書の構成もこのカードの順番で、4部に分けられています。伏せられたカードは、見知らぬターゲットの象徴でもあります。

順番1を引いた夢の島は、ターゲットAを殺害しなければなりません。殺人の依頼主はイクル君で、ターゲットは彼の叔父・安斉(カードA)です。安斉は富豪ですが疑り深く、。イクル君は殺してやりたいと思っていました。当然殺人が成就したら、捜査の手はイクル君におよびます。殺人予定日には、確固たるアリバイを作っておかなければなりません。

こうして4重交換殺人事件が起こります。ネタバレになりますので、ストーリーは追いかけません。どうアリバイ工作をするのか、特徴を聞いただけのターゲットにどう近づき、どんな手段で殺害するのか。捜査の手がどうおよび、法月親子はいかなる推理をするのか。

私はこの複雑なストーリーに、酔いしれました。横溝正史、泡坂妻夫、連城三紀彦、島田荘司、そして法月綸太郎、綾辻行人、歌野晶午らの流れは顕在だと実感しました。

できれば上記の流れで、それぞれの作家の代表作を読んでいただきたいと思います。ちなみに私が「山本藤光の文庫で読む500+α」にリストアップしている新本格ミステリー作家は次のとおりです。☆印の作家の作品は、すでに書評を発信済みです。

綾辻行人 、折原一 、☆歌野晶午 、☆法月綸太郎、有栖川有栖 、☆北村薫 、太田忠司 、加納朋子、近藤史恵 、貫井徳郎、愛川晶、西澤保彦 、森博嗣 、☆蘇部健一、殊能将之 、

この中の何人を取り上げられるか。何しろミステリー以外のジャンルも含めて、日本現代文学125作品を選ばなければなりませんので。この中の誰かを選ぶと、誰かが落ちてしまいます。日本現代文学は特例で150+αとすべきかもしれません。楽しい悩みです。
(山本藤光:2015.09.20初稿、2018.03.03改稿)


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