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立川談四楼『声に出して笑える日本語』(知恵の森文庫)

2018-10-11 | 書評「た」の国内著者
立川談四楼『声に出して笑える日本語』(知恵の森文庫)

悲惨な事件を伝えた女性キャスターがまとめのコメント。「ご遺族は今、悲しみの<ズンドコ>に沈んでいます......」アナウンサーの致命的な言い間違いから、思わずニヤリの上品な下ネタ、そして愛すべき落語の世界の味わい深いセリフまで。
酒場で飲んでいても昼寝中でも、行き交う言葉に耳を澄ませて集めた「笑える日本語」の数々。
落語家にして作家でもある著者ならではの「耳の付け所」が冴え渡る! 確実に笑えてタメになる傑作エッセイ。(内容紹介)

◎急に朝降る雨は?

本業の落語が上手いか下手かは、本を読むまでは聞いたことがないので知りません。しかし立川談四楼の文章は一級品です。立川談四楼は耳をダンボにして、世の中の言い間違いを拾いまくります。
言葉の専門家であるアナウンサーの言い間違い。師匠である談志のとんでもない思い違い。落語界の師匠たちの楽屋ネタ。女子校生のやりとり。とにかく面白ネタ満載の絶品です。一例を示すとこんな具合です。

 NHK女子アナが、中継中に夕立に見舞われます。以下引用してみます、
――「夕方に降る雨を夕立と言いますよね」/ここでよしゃよかったんだが、このあとのセリフが命取り(生きてます)になった。妙齢のご婦人の口から「では朝降る雨は朝立ちと言うんでしょうか?」というお言葉が発せられたというのだ。(本文P37)

 こんな話が延々とつづきます。一話が3ページほどですので、私はにやけながら1日1話を楽しみました。

立川談四楼は1951年生まれの落語家です。1983年に二つ目に昇進し、談四楼と改名しています。その後1983年に真打ち昇進試験を受けるのですが落っこちてしまいます。これに怒り、師匠の立川談志は日本落語協会と袂(たもと)を分かちます。
立川談四楼の作家デビューは1990年に発表した『シャレのち曇り』(ランダムハウス文庫)です。その後たくさんの著作を上梓しますが、私は『声に出して笑える日本語』(光文社知恵の森文庫)が、最高傑作だと思っています。本書は『もっと声に出して笑える日本語』『もっとハゲしく声に出して笑える日本語』(ともに知恵の森文庫)へと書きつなげられます。

◎伝家の宝刀「のようなもの」

『もっと声に出して笑える日本語』(知恵の森文庫)の巻頭(前口上)に面白い文章があります。

―― 一部では熱く支持されたものの、大して売れなかった単行本『日本語通り』が文庫化され、『声に出して笑える日本語』となった途端、売れ出しました。まるで村上春樹を思わせる売れ行きです(笑)。(本文P3)

『声に出して笑える日本語』は文庫化されたから売れたのではなく、斎藤孝の『声に出して読みたい日本語』にタイトルを似せたのがよかったんですね。こういうおもしろ本は、ハードカバーよりもお気軽な文庫の方が似合います。それも売れた要因のひとつでしょう。

私が最もおかしかったのは、P211の「のようなもの」です。今から40年前に、私は「のようなもの」を連発して難関を切り抜けました。当時の私は外資系製薬会社の購買課長でした。自己申告のたびに、営業への転籍希望を出していました。それがかなえられたのは、33歳のときでした。
製薬会社の営業マン(MR)は入社後半年間の研修が義務づけられています。33歳の私は10歳ほど若い新人に混じって、導入教育を受けました。医学、薬学の基本を徹底的に教え込まれるのです。そして毎朝、知識確認テストが実施されます。

そのときの答案用紙に私は「〇〇のようなもの」と書き続けました。同期の研修課長が笑いながら「△」をつけてくれました。本書を読んで、懐かしい時代のことを思い出しました。では本書の「のようなもの」を引用させていただきます。

――「のようなもの」という言い回しが私は好きだ。これは落語『居酒屋』に出てくる小僧のセリフ「できますものは汁(つゆ)、小柱(はしら)、鱈(たら)、昆布(こぶ)、鮟鱇(あんこう)のようなもの……」からきていて、哀れ小僧は「のようなものって鮟鱇じゃねえのか」と客にツッコまれてしまうのだ。(本文P213)

 本を紹介したのだからと、落語の方もネットで聞いてみました。師匠の談志にはかなわないでしょうが、面白かったです。おあとがよろしいようで。
山本藤光018.09.11

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