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324:心臓移植

2018-12-13 | 小説「町おこしの賦」
324:心臓移植
――『町おこしの賦』第10部:生涯学習の町

 新年を迎えた。瀬口恭二は、成人式の会場であいさつに立った。会場には、振り袖姿の長女明里もいた。会場には着飾った若者たちが、百人ほどが参加している。
「みなさん、成人おめでとうございます。二十歳を境に成人として認知されるのですから、この日から新たな人生のはじまりということになります。
 では、何が変わるのでしょうか。みなさんに、社会的な責任が付加されたのです。社会的な責任とは、社会に対してなにがしかの、もちろん自分でできる範囲内で構わないのですが、貢献をしなければならないということです。
 私は社会的な貢献という話を、高校時代の部活顧問から聞かされました。具体例が見えなかったので、質問しました。返ってきた答えは、与えられた場をしっかりとまっとうすること。学生なら勉強。働いているのなら仕事というのが、与えられた場のことです。
 そしてそれ以外の場、社会全体のことですが、については、常に何かお手伝いができることがないかを、模索する心構えが必要になります。
標茶町には、四月に生涯学習センターがオープンします。みなさんには式典の前にご覧いただきました。ここは町民の学びの場であり、知の発信の場でもあります。みなさんのご両親には、ここでパソコンや囲碁を学んでいただきます。そしてみなさんには、ぜひここで知を発信する立場になって、いただきたいと思います。
みなさんの若きパワーに、大いなる期待を抱いています。みなさんの力が、生涯学習の町標茶で結実することを願ってやみません。本日は誠に、おめでとうございます」
 
 成人式が終わって、瀬口明里は仲間たちとおあしすで、二次会をしていた。
「生涯学習センターは、充実した施設で驚いた。あそこでは、小学生からお年寄りまでが学ぶことができる」
「夜間大学まで誘致したんだから、本気度がわかるよな。うちのおやじは願書を出した」
「夏休み限定なら、おれもパソコンくらい教えられる」
 男性陣のやり取りを聞いていて、明里はいった。
「私はね、あのセンターは標茶の心臓になると思った。あそこから全町民に向けて、知という血液を送るのよ」
「これまで、『おあしす』が心臓部だと思っていたけど、明里のお父さんは心臓移植をしたんだ」
「最近の役場のサービスを見ていると、あそここそ心臓部だと思う。とにかく幅広い年齢への、目配りがすごい」
「私もそう思うわ。標茶には知恵がある」

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