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池田清彦『やぶにらみ科学論』(ちくま新書)

2018-02-10 | 書評「い」の国内著者
池田清彦『やぶにらみ科学論』(ちくま新書)

クローン人間作ってなぜ悪い?地球温暖化なんてホントにあるのか?科学とオカルトって、どう違う?…オソロシイ勢いで進歩し専門化してゆく科学に、多くの人びとはついてゆけない。そのくせ、いかがわしい科学(まがい)は無根拠に信じてしまう。かように厄介な科学的現実から虚飾を剥ぎ取り、本質を見極めるにはどうしたらいいのか。そこで、生物学の風雲児(?)池田センセが最新の科学トピックに縦横に斬り込み、徹頭徹尾「論理」で腑分けする。(「BOOK」データベースより)

◎皮肉のつぶて

 池田清彦『やぶにらみ科学論』(ちくま新書)の大半は、雑誌「ちくま」に連載されていました。私が生物や科学のジャンルに手を出すことは、めったにありません。ところが本書には、連載の第1回目から圧倒され続けました。
 わかりやすいうえに、辛口の提言に味があったのです。私は本書を、何人もの友人に勧めています。みんな面白かったといってくれました。たまには、違うジャンルの本を読んでみてほしいと思います。養老さんの『バカの壁』が売れたのですから、本書はもっと売れてもいいはずです。
 
――世間の正義という風圧とおせっかいという名の暴力のために、言いたい事も言えずにウジウジしている人もいるのではないかと思案する。本書がそういう人に少しでも勇気を与えることができれば、私はうれしい。反対に、何であれ私が嫌いなのは、錦の御旗を立てている原理主義者たちであるから、そういう人が本書を読んで、頭に来れば、私はもっとうれしい。(「あとがき」より)

 何とも皮肉をきかせた「あとがき」だと思います。本書は全体が、こうした皮肉のつぶてに満ちています。体操競技のフィニッシュのように、「きめ」の言葉が決まっています。
 ときどき、相容れない主張にも出くわします。そんなときは、笑い飛ばせばよいわけです。科学を身近にさせてくれた著者に拍手。
 
◎15年を経た今

アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領が。地球温暖化抑止策にそっぽを向きました。喫煙をめぐる包囲網が、北朝鮮への制裁のように厳しさを増しています。
そんなときふと懐かしくなって、池田清彦『やぶにらみ科学論』(ちくま新書)の再読を敢行しました。写真で見る池田清彦は、どれも破顔しています。しかし文章は辛辣なものです。結構、論的も多いようです。

池田清彦は1947年生まれの、構造主義科学論の提唱者です。再読してみて、前回読み流していた部分を15年を経たいまと照らし合わせてみました。池田清彦の15年前の主張と、現在の論調を重ねてみます。

・地球温暖化は大騒ぎするほどのものではない→アメリカを除く多くの国はまっとうな理論として対策に動いています。

・タバコの害よりも車の害の方が問題→小谷野敦も『禁煙ファッシズムと断固戦う』(ベスト新書)でがんばっていますが、旗色は悪いようです。

・外来種の侵入ぐらい別に問題じゃない→この意見を支持する論調は生まれていません。

・定期検診は体に悪い→癌検診は必要ですが、定期検診不要論は少しずつ広がっています。

 どうやら池田清彦の説は、いまだに少数派のようです。ただし、こうした見識から、問題の本質を捉える必要があります。一人ぐらいこんな科学者がいたほうが、ステレオタイプの世論に、小さな風穴をあけてくれるのかもしれません。

 本書は優れているのは化学論文ではなく、独善的なエッセイだからです。池田清彦の切り口は。科学的に論証されていない地球温暖化などに、ハテナマークを点灯させている専門家からは、拍手喝采のようです。 
(山本藤光2003.12.23初稿、2018.02.10改稿)

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