劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

道行旅路の嫁入

2017-01-02 16:09:53 | 歌舞伎
仮名手本忠臣蔵の八段目は、母娘の道行の踊りだ。加古川本蔵の後妻戸無瀬と娘の小浪が京都山科の大星力弥のところまで押しかけて結婚しようという道行。ドラマとして一番重要な九段目の山科閑居の段の前段に当たるものだが、めったに上演されない。それが、国立劇場50周年の仮名手本忠臣蔵の完全上演で、12月に上演された。珍しいので見逃せないと思っていたら、京都の顔見世でもこの演目がかかり、テレビ放映されたので、続けてみることになった。京都の年末恒例の顔見世は毎年南座で公演されていたが、今年は南座が改装中らしく、先斗町の歌舞練場での公演なので、小さな舞台だった。

国立劇場の方は、魁春の戸無瀬に小太郎の小浪。常磐津の伴奏だが、内容的には簡素な構成で、道中で奴や馬子が出てきて絡むのが歌舞伎では一般的だが、文楽と同じに二人だけで踊りきる。文楽通りなのかもしれないが、歌舞伎としては変化が乏しくなった。十一段目では松緑が少しだけ出ているので、奴か何かで出して踊らしたらよいのではないかと思った次第。

顔見世の方は、藤十郎の戸無瀬と鴈治郎の小浪に、新雀右衛門の奴が絡む構成で、五代目雀右衛門の襲名披露口上が劇中に入る。こちらの方が、舞台は狭いが奴が絡むので、変化もあり見ていて面白い。

国立劇場も歌舞練場も、二人の登場は舞台中央に立っているところから始まるのだが、せっかく花道があるのだから、入りと出は花道を使った方が良いのだはなかろうか。1986年に国立劇場の20周年でも仮名手本忠臣蔵の通しがかかったが、その時に当時の歌右衛門と松江(だったと思う)が踊ったときには、花道から出て花道で引っ込んだ記憶がある。ああいう型の方がなんとなく道行らしくて良いのだけど。

忠臣蔵の道行は、最近は、四段目の後にお軽と勘平の道行旅路の花婿を入れて上演することが多くなったので、八段目の上演は少なくなったのかもしれないが、旅路の花婿の道行はたいてい浅葱の幕を切ると二人が舞台中央に立っているという演出だから、その影響を受けたのかなとも思うが、旅路の花婿では伴内が花道から追ってくるので良いが、八段目ではそうした演出はないので、花道から登場してほしかった。