『クローディアの秘密』 ~家出のすすめ

2007-02-11 23:57:00 | 書物の海


 

 今春、ベン・スティラー主演の『ナイト・ミュージアム』という映画が公開されます。アメリカ自然史博物館で夜警の仕事に就いた男が、夜の博物館の「とんでもない秘密」を目の当たりにするという内容なんだけど、その秘密というのが・・・
 博物館内に展示されている恐竜の骨格標本や、生き物の剥製、エジプトのミイラなどが、誰もいなくなった夜、「おもちゃのマーチ」みたく、勝手に動き回っているのではないかと、想像したことはありませんか? C G を駆使して全て見せてしまっている点が、このファンタジー映画をつまらなくしているのだけど(製作サイドはそれが「売り」だと考えているようですが)、ここでトシ子が言いたいのは「彼らが動き出すこと」ではなくて、「自分が夜の博物館内を我が物顔で歩き回る」ことの楽しさについてです。

 少年時代に体験したかったこと・・・
 一つは前に書きましたが、目の前の鉄塔国分寺線をたどって1号鉄塔をこの目で見ることでした。小説&映画化された『鉄塔武蔵野線』では、スタート地点が81号鉄塔だったこともあって、川あり森あり畑ありゴルフ場ありの変化に富んだルートを野宿しながらたどっていく大冒険になりましたが、私の場合は出発点が23号鉄塔で、武蔵野線より追いかけ易かったから、子供の足でも日帰り楽勝だったと思いますが、それでも子供のときに思いついて実行していれば、ちょっとした冒険譚になったことでしょう。
 そしてもう一つが、上野の 「国立科学博物館」 に泊まることでした。夜の学校は一人では絶対に泊まることなんかできない怖ろしい場所でしたが、夜の博物館は恐怖の対象が具体的かつ目に見えるものなので、(一人では無理かもしれないけれど)とても魅力的なアイデアに思えました。でも、実際に行動しようとは考えたことはありません。あきざくらさんが教えてくれた『クローディアの秘密』を読むまでは。

 小学校時代、学校の図書室は私のものでした。ゴビ砂漠の恐竜発掘、シュリーマンのトロイア遺跡発掘、カーター&カーナーボン卿の王家の谷発掘&ツタンカーメンの呪い、みんな図書室が教えてくれました。
(ついでに、シャーロック・ホームズや江戸川乱歩のジュブナイルを全巻読破したり、第二次世界大戦ものを読んで、戦争の悲惨を知りながら軍艦や戦闘機や戦車を好きになったり)
 このとき、『クローディアの秘密』を手にとっていたら・・・一泊ぐらいなら可能かもしれないと、本気で国立科学博物館に泊まることを考え始めたかもしれません。そして早速、思いつきました。この本を読んで、週末は子供に戻ろうかと。

 むかし式の家出なんか、あたしにはぜったいできっこないわ、とクローディアは思っていました。かっとなったあまりに、リュック一つしょってとびだすことです。クローディアは不愉快なことがすきではありません。遠足さえも、虫がいっぱいいたり、カップケーキのお砂糖が太陽でとけたりして、だらしない、不便な感じです。そこでクローディアは、あたしの家出は、ただあるところから逃げ出すのではなく、あるところへ逃げこむのにするわ、と決めました。どこか大きな場所、気もちのよい場所、屋内、その上できれば美しい場所。クローディアがニューヨーク市のメトロポリタン美術館に決めたのは、こういうわけでした。
 クローディアは、とても注意ぶかく計画しました。おこづかいを貯め、仲間をえらびました。クローディアは、三人の弟のうち、下から二番目のジェイミーをえらびました。ジェイミーは口がかたいと信用できるし、時にはけっこうわらわせてくれます。その上お金持ちでした。同じくらいの年ごろの男の子とちがって、ジェイミーは野球カードの蒐集さえはじめていません。もらったおこづかいは、ほとんどそのまま貯めていました。

 こうして彼女は見事に家出に成功しますが、不愉快なことが好きでないという、たった一つの欠点を家出中も遺憾なく発揮して(もっとも、不愉快なことがあまりに起こるので家出を決意したのですが)、歩くのは嫌だとか、おいしい食事がしたいとか言い出すのですが、そのたびに現実的で利発な弟が財布とにらめっこして諌めるあたりがとても楽しく、荒唐無稽にみえるメトロポリタン美術館での二人の暮らしぶりも、誰にも見つからないように細心の注意を払い、より快適に暮らすための創意工夫を重ねていくなど極めてリアルで、臨場感に胸を躍らせながら読み進んでいきました。自分も二人と一緒に美術館に泊まっているんだと想像すると、さらに楽しくなりました。

 クローディアが家出をしたのは、「秘密を胸にもって帰る」ためでした。私だったら、誰にも気づかれずに美術館で暮らしたこと自体が大きな「秘密」になるのですが(だから、一晩だけでも泊まりたい)、「それ」だけでは満足できないクローディア(と多くの少女)のために、作者は、ミケランジェロ作と噂される「天使の像」にまつわる「素敵」な「秘密」を用意してくれました。私は、この物語を教えてくれた〈あきざくら〉さんに、また感謝です。期待どおりの週末になりました。

 家出といえば、小学校時代に夢中になって読んだ『ぼくがぼくであること』(著者=山中恒)という小説があります。主人公の少年は、クローディアと違っていきあたりばったりの、それも「家出もできないくせに」と言われて、彼女に言わせれば「かっとなったあまりに、リュック一つしょってとびだす」最低の家出を(しかも何も持たずに・・・)してしまうのですが、家でも学校でも叱られてばかりいた少年が、ひと夏を他人の家で過ごすことで変わっていく物語に(そして淡い恋心に)大いに共感しました。『クローディアの秘密』を読み終わった後、『ぼくがぼくであること』を本棚から取り出し(当時の単行本でなく文庫本だけど)、久し振りに読ませてもらいました。そのことも含めて、改めてお礼を言わせてくださいな。
 ちょうど今、12日の午前2時を3分ほど過ぎたところ、記事もそろそろ終わりです。三連休の最後の晩は、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』でも読みながら、もう少し起きていようかな?

 昨日のお土産ですが、『油そば』は過去最高の出来! お店で食べているのとほぼ同じ味に作れました。「サトーのメンチカツ」はトースターで軽く焼き直しましたが、一度冷めても同じようにおいしかった~。そして「三陽食品のあんみつ」は、寒天がしゃきっと歯ごたえがあって、非常に気に入りました。また買ってこよう~と。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おどろきももの木さんしょの・・ (あきざくら)
2007-02-12 12:36:34
何気なく薦めた本を早速読まれたトシさんにも驚きましたが、なんとその後の山中恒「ぼくが・・」とランサム「ツバメ号ー」のタイトル見て二度三度びっくり!

私の大好きな本ばかりです。

しかも、私の子どもの頃は(田舎でしたし)あまりお目にかかれず、大人になってから読んでこころに残った本なのです。

クローディアではカニグズバーグという作家に惚れて次々に読みましたけれど、息子の中学校教科書(国語)にも何かとりあげられていました。

ランサムの本は知る人ぞ知る名作、取り付かれた者にはたまりませんよね!

返信する
たまげた、こまげた、ひよりげた? (Toshi)
2007-02-12 17:08:37
今、帰宅したところです。『善き人のためのソナタ』を観て来ました。『クローディアの秘密』、今日も電車の中で、くすくす笑いながら読んでました。
(二度目はよく噛みながら読むんです)

「おどろき、もものき、さんしょの木!」、海の恐怖〈アマゾン号〉のナンシイ船長の口ぐせですね~

あきざくらさんも「ランサム」お読みになっていたとは・・・全12冊の物語を何度読み返したことでしょう! 『ツバメ号とアマゾン号』『ツバメの谷』は基本中の基本だけど、本線から外れた『オオバンクラブの無法者』とか、ドロシィとディックの姉弟が出てくる物語が結構好きなんです。この姉弟、クローディアとジェイミーの関係(お互いに相手のないものを申し分なく補いあっているという点で)にちょっと似てますね。

そして、山中恒でしょ、「おったまげ」ました~
『ぼくがぼくであること』は、ランサムと前後して4~5年生のときに読んだと思うのですが、児童文学を書いていたおばさんが(例の「めだか文庫」にも参画)山中恒さんの家に連れて行ってくれたんですよ~
(作家の家に遊びに行ったのは、後にも先にもこれが最初で最後!)
単行本にサインしてもらい、宝物のように大事にしてました。大学時代、がらにもなく家庭教師のバイトをしたことがあるのですが、教えていた子が「夏休みの宿題の読書感想文用に何を書いたらわからない」と言うので、『ぼくがぼくであること』を貸してあげたら、それっきりになってしまいました・・・

すっかり大人になった彼と、たまに会うことがあるのですが、「あの本、返してくれないかなあ?」と言いだせないまま今日まで・・・
返信する
ランサム (マーマレード)
2007-02-14 12:50:00
ランサムで検索しました。が
ナツカシイ、クローディア!!
バイオリンケースを買った事があります。
返信する
こんばんは~ (Toshi)
2007-02-15 01:05:46
マーマレードさん、こんばんは。はじめまして。
ランサムで検索してくれたということは・・・
また一人、ランサム・ファンに会えて嬉しいです。

そしてクローディア!
私のギターケースだと洋服一週間分くらい入りそう!
バイオリンケースも買ってしまおうかしら?
(弾けないけどバイオリンも・・・)
返信する

コメントを投稿