ものへ行く人にやらんとて人の乞ふに、おくれる
あつらへて わするなとおもふ こころあれば わがみをわくる かたみなりけり
あつらへて 忘るなと思ふ 心あれば わが身をわくる かたみなりけり
旅立って行く人へのはなむけをと人に乞われて、詠んで贈った歌
私のことを忘れないでほしいと願う心を込めてあつらえた籠なので、これは私の身を分けた形なのですよ。
「あつらふ」は「あつらえる」に加えて「頼む」意があり、この歌ではその両義を掛けています。第五句「かたみ」は「形見」と、籠を意味する「筐(かたみ)」の掛詞。二重の意味を持たせた語を複数用いて、深い含意の歌になっていますが、その分、現代人には難解でもありますね。
この歌は、新千載和歌集(巻第七「離別」 第741番)に入集しており、そちらでは第三句が「こころこそ」とされています。