おなじ人のむまのはなむけ、太政大臣の白河殿にてさせたまふに、土器とりて
ひともみな とほみちゆけと くさまくら このたびばかり をしきたびなし
人もみな 遠道行けと 草枕 このたびばかり 惜しき旅なし
同じ人の旅立ちのはなむけの宴が、太政大臣の白河の別荘で催された際に、土器を手にとって詠んだ歌
他の人も遠くへ旅立つことはあるけれども、あなたさまの今回の旅立ちほど、名残りおしいものはありません。
「太政大臣(おほきおとど)」は藤原忠平(ふじわら の ただひら)のこと。「白河殿」は京都の白河の地にあった藤原良房(ふじわら の よしふさ)の別荘で、忠平が譲り受けたのでしょう。694 の詞書にも出てきていました。
第四句「たび」は「度」と「旅」の両義で、「草枕」は「旅」の方の枕詞ですね。第五句を「をしきたびかな」としている写本もあるようです。