【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ももへの手紙」

2012-05-16 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


「となりのトトロ+千と千尋の神隠し」と言いたくなる気持ちもわからないではない。
小学生の少女が妖怪たちと出会って騒動を繰り広げ、ひと回り成長するとくれば、そういう連想をするのも致し方のないところね。
さすがに宮崎駿が撮った映画には見えないけれど、スタジオ・ジブリの新人が撮ったと言われれば、そうかもしれないと思ってしまう。
新人にしては、物語にも描写にも破たんがなくてとてもなめらかな映画だったけどね。
実際の監督は意外なことに、「人狼」の沖浦啓之。
あれはやたらどんよりとした映画だったなあ。
でも、その徹底した暗さが魅力の映画だった。
あんなに暗い映画をつくった監督がこんな学級委員みたいな映画をつくるなんてちょっと信じられない。
ジブリ人気にあやかったか。
そんな下心は見えなかったけどね。偽物感はまったくなかった。
でも、妖怪たちに宮崎駿映画ほどの陰影はなかった。沖浦監督だから、陰影をつけるのはお手の物だと思うんだけど。
自分が納得するまで陰影をつけちゃうと陰惨なほど暗い映画になるのはわかっているから、そっちの方向性は初めから切り捨てたんじゃないの。
おかげで愉快な妖怪たちが出来上がったっていうわけか。
いちばん太った妖怪の声は、西田敏行。相変わらず緩急自在で、声の調子だけで抱腹絶倒してしまう。
この妖怪たちが偶然少女と出会ったっていうんじゃなくて、ある目的を持ってももという名前の少女に近づいたっていうのがミソなんだけど、それってよくできた児童文学とかにありがちな展開ではある。
新鮮さはないかもしれないけど、それだけに安心して観ていられるだけの丁寧さと誠実さはあった。
瀬戸内の風景というのも、さもありなんっていう設定で、背景としてはぴったりなものの去年も実写の「八日目の蟬」の舞台になったばかりだ。
でも、何度出てきても懐かしい風景であるのは事実。
母なる風景ってことか。
父親を亡くして失意のうちに母親と瀬戸内の島に来て不思議な妖怪たちと出会い元気を取り戻していく・・・。ムリのない、いい話じゃない。
「ももへの手紙」なんていうタイトルがついているから、父親からの手紙に何か重大なことでも書かれているのかと思ったら、そうでもなくてちょっと肩食わしを食わされた。
でも手紙に何か重大なことが書かれていたら、父親のキャラクターに矛盾が出て映画全体のバランスが崩れちゃったかもしれない。
いい意味でも悪い意味でも優等生的な映画ではあった。