【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ル・アーヴルの靴みがき」

2012-05-20 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


アキ・カウリスマキ節、健在。
サイレント映画より少ないんじゃないか、と思えるほど最小限に刈り込んだセリフ。
サイレント映画は、セリフが少ない分、動きとか人の表情でカバーしているけど、アキ・カウリスマキ映画は、動きや表情さえ最小限に抑えている。
ほとんど突っ立っているだけの印象。
でも、そのほとんど無表情の表情が味わい深くてねえ。
美男美女は、いっさい出てこない。
人生の皺が刻まれた貧相な、でも心にしみる顔の役者ばっかり。
それが、映画になんともいえない豊饒さを与えているんだからおもしろい。
ハマったら抜けだせないような魅力がある。
でも、今回は亡命する少年を権力から守る話。いつも社会の片隅のみみっちい話を繰り広げてきたアキ・カウリスマキにしては派手な展開だ。
派手って言ったって、主役は港町ル・アーヴルの年老いた靴みがき。アフリカから来た少年がロンドンに逃げるのをちょっと手助けしたっていうだけのことだから、シンプルでつつましやかな話には変わりない。
いやいや、アキ・カウリスマキにしてみれば十分壮大な話だ。町中の追跡劇のシーンがあるなんて、これまでの彼の映画では考えられない。
私たちが観ていない映画にはあるかもしれないわよ。私たちは彼の初期の映画は観ていないんだから。
痛いところをつくなあ。俺たちが見始めたのは「マッチ工場の少女」あたりからだからな。
まあ、私たちが観てきた映画の中ではいちばん派手かもしれない。
とはいっても、通常の映画に比べればいたって地味であることに変わりがない。
そこに今回は温かみが加わってきた。
“究極の地味”が持ち味だったのに、なにやら色気が出てきた。
いつもぶっきら棒なのに、いつもよりちょっと華やかというか、体温の高いところが出てきたのかしら。
それを進化とみるか、手垢にまみれる予兆とみるか。目が離せないな。