Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

MUSIC TOMORROW 2010

2010年06月23日 | 音楽
 N響のMUSIC TOMORROW 2010。今年の尾高賞は該当作品なしだったので、プログラムは過去の受賞作品をまじえて組まれた。
(1)山根明季子:水玉コレクションNo.06(2010)
(2)藤家溪子:ギター協奏曲第2番「恋すてふ」(1999)
(3)アウリス・サリネン:室内楽第8番「木々はみな緑」(2009)
(4)マルク=アンドレ・ダルバヴィ:眼差しの根源(2007)
 指揮はパスカル・ロフェ、(2)のギター独奏は山下和仁、(3)にはチェロ独奏が入ってピーター・ウィスペルウェイ。

 山根さんの曲は、ガラスが砕けるような刺激的な音響ではじまり、以下、頻出する無音の間をはさみながら、2台のグロッケンシュピールが短い音型を繰り返す。そこにオーケストラがさまざまな楽器の組み合わせで絡んでいき、刻々と音色を変化させる。
 山根さんご自身の書いたプログラム・ノートに「空間インスタレーション」という言葉があった。美術用語のこの言葉を使って自己の創作方法を説明する若手作曲家を、以前にも見かけた記憶がある。今の一つの流行なのだろうか。

 藤家さんの曲は2000年の尾高賞受賞作品。私もその曲名は知っていたが、きくのは初めて。百人一首に入っている和歌(「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか」)の一節が副題になっているので、日本的な美意識の曲かと思っていたが、実際には西洋近代音楽の明るい響きをもつ曲だった。
 藤家さんのプログラム・ノートを読んで、あっ、そうかと思った。この和歌は貴人の淡い恋心を詠んだものだが、作者の壬生忠見は「実は身分の低い、貧しい生活を強いられる男」で、この和歌は「虚構」であり、その真実らしさは「芸術家のユーモア、揶揄であり、アイロニーなのである」とのこと。一筋縄ではいかない曲なのだ。

 サリネンは1935年生まれのフィンランドの作曲家。藤家さんのような屈折した面のない骨太な作品だ。編成は独奏チェロと弦楽合奏(4-4-3-2-1の編成)。曲名どおりの小さな編成だが、雄大な自然描写と厳しい精神世界を内包した曲だ。ウィスペルウェイの独奏も音楽に没入していて息を呑むほどだった。

 ダルバヴィは1961年生まれのフランスの作曲家。トリスタン・ミュライユを師とするスペクトル楽派の一人だ。フル編成のオーケストラが鮮やかな色彩を展開する曲。曲名はメシアンの「幼子イエスにそそぐ20のまなざし」に由来し、その和音を引用しているとのこと。私はメシアンの和音まで感じ取ることはできなかったが、クリアーな音響には圧倒された。パスカル・ロフェ指揮のN響の演奏も見事だった。
(2010.6.22.東京オペラシティコンサートホール)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カルメン | トップ | フランス音楽の彩と翳Vol.17 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事