Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ル・グラン・マカーブル

2009年02月08日 | 音楽
 東京室内歌劇場がジェルジ・リゲティの現代オペラ「ル・グラン・マカーブル」(大いなる死)を上演した。すでに世界各地で上演を重ねている人気オペラだが、今回が待望の日本初演だ。

 当日のプログラムによれば、指揮者のウリ・セガルはリゲティの「メローディエン」のドイツ初演を指揮したとき、その知遇を得たとのこと。「メローディエン」とは懐かしい曲名だ。1971年に作曲されたこの曲は、まだ大学生だった私のもとへも、FM放送を通して届いてきた。前衛音楽の旗手のひとりと目されていたリゲティが、旋律の要素を復活させたということで話題になった。時代は、前衛音楽の終焉が言われてすでに数年たち、新しい局面に移ろうとしていた。
 「ル・グラン・マカーブル」は「メローディエン」の次の時期の作品で、75年から77年にかけて作曲された。その後、96年に大幅な改訂がおこなわれ、今ではその版による上演が一般的とのこと。今回の上演も改訂版だ。

 このオペラは、一言で言うと、ヨハネの黙示録のパロディだが、今回の演出ではパロディの面白さがあまり感じられなかった。私が最もがっかりしたのは第3場の終わり方。あの場面では曲がりなりにも世界の破局が訪れるはずなのに、登場人物たちはさっさと退場し、場面転換のための音楽になってしまった。
 このオペラには別の側面もあり、オカルト的な世紀末論を揶揄する面(当時世間を騒がせていたノストラダムスの大予言を連想させる天文学者アストラダモルスの登場)と、ファシズム国家を風刺する面(無能な国家元首ゴーゴー侯とゲシュタポを暗示する秘密警察長官ゲポポ)があるが、今回の演出ではともに薄味だった。
 総体的に言うと、明るく、楽しく、毒のない演出で、メッセージ性はなかった。

 歌手では、ソプラノの森川栄子が、ゲポポ役で目の覚めるようなスリリングな歌唱をきかせた。敬意を表して脱帽する。
 死の預言者ネクロツァールは、バリトンの松本進。不気味な存在感があった。
 サンチョパンサを思わせるピートは、テノールの高橋淳。いつもながらの芸達者だ。
 サディズムの嗜好があるメスカリーナ役のメゾ・ソプラノ西川裕子と、ひたすら官能の喜びにひたるアマンダ役のソプラノ津山恵とアマンド役のメゾ・ソプラノ小畑朱実、これらの3人はがんばったが、役柄のハードルは高かった。

 オーケストラは東京室内歌劇場管弦楽団で、おそらく臨時編成だろうが、期待以上のできだった。指揮者のウリ・セガルの力量によるのだろう。とくに打楽器の気迫のこもった演奏には拍手を送る。ベテランの山口恭範さんのリーダーシップか。
(2009.02.07.新国立劇場中劇場)

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