Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

旅日記2:エツィオ

2013年11月28日 | 音楽
 ハンブルクからフランクフルトに移動した。着いたその日はモーツァルトの「魔笛」を観た。絵本のように美しく、穏やかで、上品な舞台。その上品さとは対照的に終演後の子どもたちの反応は熱狂的だった。その熱狂ぶりが羨ましかった。

 翌日はグルックの「エツィオEzio」を観た。改革オペラに取り組む前の作品なので、ダカーポ・アリアをレチタティーヴォ・セッコでつなぐバロック・オペラ形式だ。CDが出ているので予習して出かけた。今の耳で聴くと、改革オペラの前とはいえ、ヘンデルのオペラが面白いように、これも面白かった。

 だが、この上演の面白さはCDどころではなかった。面白いというレベルを超えて、刺激的だった。音楽面でも演出面でも、洗練の極み。あえていうなら、年に1度出会えるかどうかの公演だった。

 ローマの将軍エツィオを歌ったのはソーニャ・プリナSonia Prina。じつはCD もこの歌手だったが、生で聴くと、その迫力は見違えるようだった。パワーといい、感情表現といい、すごい歌手だ。幾分硬直したキャラクターを表現して十分説得力があった。

 ローマ皇帝バレンティニアーノはマックス・エマニュエル・チェンチッチMax Emanuel Cencici。この歌手もすばらしかった。今の世の中すぐれたカウンターテナーが多いが、この人もその一人だ。一癖あるこのキャラクターを見事に表現していた。

 エツィオの恋人フルヴィアを歌ったのはPaula Murrihy。ドラマの展開上もっとも重要といえるこの役を――細身の容姿とも相俟って――シャープに歌い、かつ演じて、これまた説得力があった。

 でも、なんといっても、もっとも感心したのはヴァンサン・ブッサールVincent Boussardの演出だ。幕開き早々、フン族のアッティラとの戦いに勝利したエツィオと、それを迎えるバレンティニアーノとのあいだに吹く隙間風が、さり気なく、かつ的確に表現されているので、これは並みの演出ではないと思った。その後も一貫して登場人物間の葛藤が表現され、しかもその表現がピタッと決まっていた。たとえていうなら、湖面に薄氷が張るように静かな緊張が広がった。

 舞台美術も洗練の極みだった。装置は巨大な2枚のパネルだけ。そのパネルに各登場人物の影が映り、またヴィデオが投影された。それらが完璧に計算されている。もう見事というほかない。

 最後には意外な展開が用意されていた。とても洒落ている。

 指揮はChristian Curnyn、演奏は当劇場のオーケストラ。ピリオド奏法がすっかり板についていた。
(2013.11.23~24.フランクフルト歌劇場)

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