Enoの音楽日記

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「樹をめぐる物語」展

2016年06月05日 | 美術
 「樹をめぐる物語」展は、損保ジャパン日本興和美術館の展覧会らしく穏やかな風景画で構成されている。コローやモネのようなビッグ・ネームもあるが、名前を知らない画家の絵も多い。でも、どの絵も親しみやすい。

 ‘樹’をキーワードにして、フランスのバルビゾン派から印象派、新印象派、ナビ派、さらにはフォーヴィスムまでを辿っている。どの絵にも樹が描かれている。面白いもので、こういう展覧会だと、絵を見るときに、自然に樹に目が行く。

 目的意識のはっきりした絵も多い。荒野に直立する一本の樹とか、威厳を感じさせる古木とか‥。また、画面を引き締める役割を、樹が担っている絵も多い。森の中の風景を描いた絵の、中央にある高木とか‥。あるいはデフォルメ(ないしは図案化)の素材として樹を使っている絵もある。曲がりくねった樹をさらに画家が変形している(と思われる)絵とか‥。

 ‘樹’は意外に面白いテーマだと思った。一見平凡そうだが、じつは奥深い。今後、風景画を見るときは、樹に着目して見ることも一方法だと思った。風景画は分かりやすいので、何気なく見て、それで終わってしまうことも多いが、樹は絵の中にもう一歩踏み込むための手がかりになりそうだ。

 個々の画家では、ロベール・アントワーヌ・パンション(1886‐1943)という画家が、わたしにとっては発見だった。なによりも色がきれい。色に一種の強さがある。フォーヴィスムに近い画家かもしれない。でも、ヴラマンクのような野性的な色遣いではなく、もっと上品だ。

 パンションの絵は3点来ている。みんな気に入った。本展のホームページに画像が載っている「ブランヴィル=クルヴォンの谷」は、実物を見るともっと明るい。カンディンスキーの、抽象画に入る前の、色が踊っているような風景画に似ている。

 あとの2点は、雪が降った翌朝の道を描いた「道、雪の効果」と、小川のほとりの道を描いた「曳船道」。前者はピンク色に染まった朝の雪道が美しく、また後者は道端の木立の濃い緑が美しい。

 本展は、虚心に絵を見て、気に入ったら画家の名前を見る、という見方が相応しいと思う。そうやって見ていると、気に入った絵がいくつもあった。一つだけ例を挙げると、フレデリック・コルデ(1854‐1911)という画家の「柴の束」が、美しい紅葉の山里を描いた繊細な絵だった。
(2016.6.3.損保ジャパン日本興和美術館)

本展のHP

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