Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ランス美術館展

2017年06月17日 | 美術
 ランスはパリ東駅からTGVで45分ほどの所にある。わたしにとって、この街はジャンヌ・ダルクがシャルル7世を戴冠させるために訪れた街だ。またロッシーニのオペラ「ランスへの旅」の街でもある(もっとも、ロッシーニのそのオペラは、登場人物のだれもがランスに到着しないというシュールな面のあるオペラだが)。

 ランスはまたレオナール・フジタ(藤田嗣治)(1886‐1968)ゆかりの街でもある。フジタは生涯の最後の時期をランスに新設する礼拝堂のために捧げた。フジタは戦後、日本を去って、1955年にフランスに帰化した。そして1959年にランスのノートルダム大聖堂でカトリックの洗礼を受けた。

 パトロンの援助のもと、ランスに礼拝堂を建てることになり、その内部装飾のフレスコ画とステンドグラスに取り組んだ。1965年4月~7月に原寸大の下絵素描(カルトン)を制作し、7月には人物頭部の習作(テンペラおよび油彩)を制作した。翌1966年6月~8月にフレスコ画を描き、10月に礼拝堂「平和の聖母礼拝堂」(フジタ礼拝堂)が完成。その後フジタは体調を崩し、1968年1月に亡くなった。

 現在開催中の「ランス美術館展」は、同地のランス美術館のコレクションを紹介するもの。フランスの地方都市にふさわしく、地味だがしっとりと落ち着いた秀作が多い。それらを見ながら展覧会の後半に至ると、フジタが「平和の聖母礼拝堂」のために制作した下絵素描が何点も並び、まるで大きな渦の中に巻き込まれたような感覚になった。

 すごい迫力がある。よく「デッサンのほうが完成作より面白い」という人がいるが、たしかに一理あると思った。

 たとえばステンドグラスの「聖ベアトリクス」の制作過程を追うことができるのだが、まず1965年4月21日に下絵素描(木炭および擦筆)が制作される。128×67.2㎝という大きなもの。その大胆な筆致に圧倒される。同年11月には彩色した下絵(インク、水彩およびフェルトペン)が制作される。そして完成作のステンドグラスが写真パネルで展示されている。

 もちろん完成作は美しいのだが、下絵素描の迫力はどこかに静かに収まっているのだろう。表面からは窺えない。

 思いがけないことだったが、本展はこのようにレオナール・フジタの人生最後の息吹が感じられる展覧会だった。わたしは大いに驚いた。
(2017.6.15.損保ジャパン日本興亜美術館)

(※)本展のHP

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