Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パーヴォ・ヤルヴィ/N響

2018年05月14日 | 音楽
 パーヴォ・ヤルヴィが指揮するN響A定期は、プログラム前半がベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はクリスティアン・テツラフ。テツラフは1993年以来、何度かN響と共演しているそうだが、わたしは初めてだろう。リサイタルも聴いたことがないので、テツラフ初体験のはず。

 1966年ハンブルク生まれだから、今年52歳の働き盛り。初めて目にするその風貌は、髭をたくわえ、長髪を後ろで束ねた、精悍なもの。芸術家風というか、ジャズミュージシャン風というか、バイク野郎風というか。もっとも、その風貌に、わたしは驚いたが、多くのファンはお馴染みなのだろう。

 演奏も一風変わっていた。囁くようなソットヴォーチェに傾きがち。多用されるその小声で聴衆の注意を惹きつけていく。そして要所々々で強く踏み込む。細部に創意工夫を凝らし、まるでテツラフ自身が遊んでいるよう。テクニックは抜群。そのテクニックで自在な演奏を展開する。

 崇高なベートーヴェンとか、ドラマティックなベートーヴェンとか、そういったものとは一味違う、肩の力を抜いた、音楽に遊ぶベートーヴェンといったらよいか。だが、誤解されるといけないのだが、ヒッピー風というわけではなく、目を見張るほど高度なプロフェッショナルの仕事だ。

 パーヴォ指揮N響の演奏も、これ以上は望めないくらい引き締まった音と、粒立ったリズムとで、テツラフの演奏と完全にシンクロする。それは冒頭のティパニの同音反復のリズムの明快さ、その音楽的な推進力からすでに感じられた。

 アンコールがあった。バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番からアンダンテ。低音部の一定不変の歩み、そのリズムの明瞭さ、そこから生まれる(思いがけない)ユーモアが、テツラフの音楽性の一端を語っていた。

 プログラム後半はシベリウスの交響詩「4つの伝説」。オーケストラの鳴り方が、前半のベートーヴェンとはまったく異なり、豊麗そのもの。弦の編成が12型から16型に変わったが、それ以上に本質的な変化があった。その音でシベリウスの世界を掘り下げていく。とくに1曲目の「レンミンケイネンと乙女たち」は聴きごたえがあった。

 パーヴォは6月9日、10日、11日に指揮する予定のドレスデン・シュターツカペレの定期演奏会でも「4つの伝説」をメインに据えている(他にペルトとヴァインベルクの作品)。
(2018.5.13.NHKホール)

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