Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

シラノ・ド・ベルジュラック

2010年12月13日 | 音楽
 新国立劇場が名作路線をいくなかで、東京オペラ・プロデュースは埋もれた作曲家や作品を発掘して存在感を保っている。今回はアルファーノ作曲のオペラ「シラノ・ド・ベルジュラック」。

 アルファーノというと「トゥーランドット」を補筆した人というイメージがある。プッチーニの絶筆となったリューの死の後にあっけらかんとした二重唱を書いた人、というわけだ。だがWikipediaによると、私たちがきいているのはアルファーノが書いた400小節弱のうち、トスカニーニによって100小節以上カットされた版とのこと。そこには楽壇政治的な事情をふくめて、さまざまな背景があったようだ。アルファーノは激怒したらしい。岸純信さんのプログラムノートによれば、「後々まで引き受けたことを悔やみ、心の傷を抱えていた」そうだ。

 「シラノ・ド・ベルジュラック」の音楽は、これとは驚くほどちがう。台本がフランス語のせいもあるが、イタリア・オペラ的ではない、というのが第一印象だ。

 第2幕第2場、窓辺のロクサーヌに、シラノが(クリスチャンに代わって)愛の言葉を語るうちに、自らの真情が迸りでる場面では、「トリスタンとイゾルデ」や「ペレアスとメリザンド」に通じる官能の波が、ひたひたと押し寄せる。
 第3幕、ロクサーヌが戦場に現れ、クリスチャンからの手紙(実はシラノが代筆)への感動を歌い上げる場面では、唯一イタリア・オペラ的なアリアがでてくる。これはクリスチャンの心に生まれる違和感を表現するためだ。
 第4幕冒頭では、オーケストラがフランス印象主義的な音楽を鳴らす。その色彩感は眩いほどだ。

 声楽陣の充実ぶりが際立った。シラノを歌った内山信吾さんとロクサーヌを歌った大隅智佳子さんが、さすがの力量だ。脇を固めた歌手では、シラノの親友ル・ブレを歌った峰茂樹さんがよい味をだしていた。

 指揮は時任康文さん。このオペラを味わうに申し分なかった。オーケストラは東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団。フリーランサー中心かもしれない。文句なし。演出は馬場紀雄さん。第3幕幕切れの戦闘の場面では、まず隊長カルボンが敵の刃に倒れ、シラノがそのかたきを討つ、という具合に細かく演出されていた。

 エドモン・ロスタンの原作はもちろん素晴らしいが、オペラも上出来だ。好きなオペラがまたひとつ増えるとともに、アルファーノという作曲家にも興味が湧いた。
(2010.12.12.新国立劇場中劇場)

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