Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヤノフスキ/N響

2022年05月16日 | 音楽
 ヤノフスキ指揮N響の池袋Aプロ。1曲目はシューマンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はアリョーナ・バーエワAlena Baeva。バーエワは2019年2月にパーヴォ・ヤルヴィの指揮でリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン協奏曲をN響と共演した。目も覚めるような演奏だった。今回は地味なシューマンの協奏曲だ。どんな演奏を聴かせるか、注目した。

 全3楽章からなるこの曲の、とくに第1楽章では、シュトラウスのときの記憶を裏付けるような、気迫にとんだ激しい演奏を聴かせた。バーエワが稀に見る才能の持ち主であることはまちがいない。だが、バーエワの才能をもってしても、この楽章の(ときに現れる)音楽が薄くなる部分は隠しようがない。第2楽章の「天使の主題」は、ピアノ独奏曲で聴く場合はよいが、協奏曲の一楽章になると、提示後の展開に物足りなさを感じる。第3楽章はシューマンの本気度が聴こえない。どうしても心身の衰えを感じてしまう。

 バーエワのアンコールは文句なしに楽しめた。パツェヴィチの「ポーランド奇想曲」だ。わたしはだれの何という曲か知らないで聴いたが、出だしの東欧風のメロディーでは、ヴァイオリンがよく鳴ることに驚嘆し、その後の動的な部分では、バーエワの圧倒的な技巧に目をみはった。

 プロフィールによると、バーエワは中央アジアの小国・キルギスの生まれだ。5歳で隣国のカザフスタンに移り、10歳で(ヴァイオリンを学ぶために)モスクワに移った。そのような出自のためか、ウクライナ情勢は他人事ではなく、胸に黄色と青色の小さなリボンをつけて演奏した(N響のツイッター上の写真で確認できる)。

 2曲目はシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」。チェロとコントラバスがうねり、決然としたリズムで前進する、気宇壮大な演奏だ。その演奏を受け止めるためには、こちらも胆力を総動員しなければならない。今どきのやわな演奏とは一線を画す。サヴァリッシュとかホルスト・シュタインとかに連なる巨匠の演奏だ。

 この曲はシューベルトがザルツカンマーグート方面へ大旅行をしたさいの幸福な思い出を刻印した曲だ。上機嫌なシューベルトは鼻歌でベートーヴェンの「歓喜の歌」を歌う(第4楽章で)。この曲がもしシューマンによって発見されなかったら、どうなっていただろう。前半に(衰弱がうかがえる)シューマンを聴いたせいか、そんな感傷にひたった。

 個別の奏者では、オーボエ首席奏者の吉村さんが見事だった。完璧に吹ききったと思う。4月にB→Cコンサートを聴いたばかりなので、応援したい気持ちもあった。
(2022.5.15.東京芸術劇場)

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