Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

杉山洋一/N響「MUSIC TOMORROW 2021」

2021年06月23日 | 音楽
 N響の毎年恒例の「MUSIC TOMORROW」は、昨年はコロナ禍のため中止になったが、今年は昨年のプログラムを一部変更して開催された。「MUSIC TOMORROW」の主な目的は、毎年選考される「尾高賞」の受賞作品の演奏にあるが、今回演奏されたのは2020年の受賞作品。本来は今年1月に2021年の選考会が開催されるはずだったが、昨年来のコロナ禍にかんがみ、開催は見送られた。

 1曲目は西村朗(1953‐)の「華開世界」(かかいせかい)(2020)。N響の委嘱作品で世界初演だ。5人の打楽器(主にヴィブラフォーン、テューブラーベル、グロッケンシュピールなどの金属打楽器)とチェレスタ、ピアノ、ハープが「ガムラン」のような音響を織りなす中で、オーケストラが生き物のように流動する。アジア的という言葉が思い浮かぶ。むせかえるような芳香。極彩色の音色。すさまじいテンションの高さ。N響の演奏の密度の濃さに圧倒される。指揮は杉山洋一。

 弦楽器が頻繁に分割される。何本もの線がたゆたうように浮動する。それはこの作曲家に特有の「ヘテロフォニー」を思い出させた。ヘテロフォニーとは「多くの線が一束になって少しずつ滲みながら前進を続ける、雅楽などにもみられる民俗音楽的な音の様式」(沼野雄司氏の「一元的な多元性 作曲家・西村朗の世界」より~新国立劇場の「紫苑物語」のプログラム所収)だが、西村朗はそれを1980~90年代に完成させた後、今は使わなくなったのではなかろうか。会場に沼野雄司氏の姿を見かけたので、ご教示いただければ幸いだ。

 2曲目は間宮芳生(1929‐)のピアノ協奏曲第2番(1970)。力作であることはまちがいないが、あえていえば、西村作品とは時代の差を感じた。けっして貶める意味ではなく、むしろポジティブな意味でいいたいのだが、「昭和」の時代を感じた。昭和の時代に熟成され、自らの力で生まれ出た作品と感じた。

 ピアノ独奏は吉川隆弘。大型のピアニストだ。ピアノをパワフルに鳴らす。その一方で繊細さも持ち合わせている。プロフィールによると、主にイタリアで活動している人のようだ。

 3曲目は細川俊夫(1955‐)のオーケストラのための「渦」(2019)。2020年の尾高賞受賞作品だ。オーケストラは、舞台左右に2群のオーケストラ(弦楽器と打楽器)が配置され、中央には木管楽器と金管楽器が配置される。さらに2組のバンダが客席に配置される(今回は2階レフト席と3階ライト席)。それらのバンダが舞台の音を増幅する。西村朗の「華開世界」がアジア的なら、こちらは北国の暗い海を彷彿とさせる。わたしは2019年11月に杉山洋一指揮都響による初演を聴いたが、今回のほうが見通しよく演奏されたように感じる。
(2021.6.22.東京オペラシティ)

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