Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サロメ

2011年10月13日 | 音楽
 新国立劇場の「サロメ」。同劇場での初演は2000年(これは既存のプロダクションのレンタルだろうか。オリジナルだとしたら、当プロダクションの演出家エファーディングが亡くなる時期だ。)。今回は4回目の上演になる。わたしは今回が初めて。

 歌手は、そこそこ、といったところ。サロメのエリカ・ズンネガルトは、視覚的には同役にふさわしい。15~16歳という設定には苦しいにしても若そうに見える。声質は細くて軽い。サロメのパートは跳躍が多く、リズムが尖っているので、それにふさわしいともいえる。残念なのは、ドラマの進行にともなう変貌が(本作では唯一変貌するキャラクターだ。)、十分に感じられなかったことだ。

 ヘロデのスコット・マックアリスターは、あまり焦燥感やギラギラした欲望が表に出ない常識人のようなヘロデだった。当初予定されていたクリスティアン・フランツだったら、もう少しちがっただろう。

 ヘロディアスのハンナ・シュヴァルツは安心して聴けた。もっとも、聡明そうな、理性を失わないヘロディアスは珍しかった。ヨハナーンのジョン・ヴェーグナーは、前回の「カルメン」のエスカミーリョよりは適役だったが、ときどき不安定になった。

 こういう人たちよりも、5人のユダヤ人の大野光彦、羽山晃生、加茂下稔、高橋淳、大澤建のアンサンブルのほうが頼もしかった。こういうベテランたちが安定して脇を固める劇場になったことは嬉しいことだ。

 指揮は代演のラルフ・ヴァイケルト。前半ではオーケストラが咆哮するときにガサガサしたが、後半とくにサロメの長大なモノローグでは、起伏の豊かな、ねっとりした流れが出ていた。

 演出は前述のアウグスト・エファーディング。現代の演出家にくらべると何世代か前の演出家だが、この人の演出は、作品をそのままの姿で提示し、かつ必要なことはすべて盛り込まれているという性質のものだ。本作でも、とくにどこかに力点を置くのではなく、全体像をバランスよく再現していた。美術・衣装はヨルク・ツィンマーマン。ヘロデの宮殿に見立てた巨大なテントが設営され、その内部の淫靡な日常に想像を誘うものだった。

 全体としては典型的なレパートリー公演だった。これは指揮者の力量とは別次元の話だが、当初予定どおり芸術監督自らが振っていれば、またちがうミッションに支えられた公演になったかもしれない。
(2011.10.12.新国立劇場)

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