Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

山田和樹/読響

2019年01月19日 | 音楽
 山田和樹らしい濃いプログラム。1曲目は諸井三郎の「交響的断章」。諸井が小林秀雄や河上徹太郎、中原中也らと「スルヤ」をやっていた頃の作品だ。スルヤ!懐かしい。中原中也の愛読者だったわたしは、その名をよく知っている。諸井はその頃中也の「朝の歌」に作曲したはずだ。どんな曲だろうと思いながら、(数えてみると)40年以上たってしまった。

 「交響的断章」はロマン派風の曲。演奏時間は約14分。明らかに習作だが、ともかく東大の文学部に通いながら、独学で作曲を学んだ諸井の、当時の面影がしのばれる。諸井はその後、ベルリン高等音楽院で学び、本格的なシンフォニストになった。わたしたちはその姿に、サントリーホール・サマーフェスティヴァル2017で演奏された交響曲第3番で触れた。

 2曲目は藤倉大のピアノ協奏曲第3番「インパルス」。ピアノ独奏は小菅優。単一楽章で演奏時間約24分の大作だ。ピアノはほとんど出ずっぱり。繊細な音をインパルス(信号)のように発し続ける。オーケストラはそのインパルスに反応して、インパルスを返す。そのやりとりが乱れずに(ある意味で電子的に)続く。

 インパルスが途切れたり、高揚したりすることもあるが(言い換えれば、山もあり谷もあるのだが)、全体を聴き終えたときの印象は、一つのアイディアで押し切った曲、というものだった。

 わたしは、曲の感銘よりも、小菅優の優秀さに対する感銘の方が大きかった。小菅優を聴くのはこれが初めてではないが、その優秀さにあらためて驚いた。人間の生理を超えたような音の連なりを、これだけ長時間弾き続けることは、わたしの想像を超えていた。

 アンコールに藤倉大のピアノ小品「ウェイヴス」が弾かれた。これは楽しかった。

 3曲目はワーグナーの「パルジファル」の第1幕への前奏曲。山田和樹のワーグナーを聴くのは初めてではないだろうか。ゆったりと、かつ楽々と呼吸するような、そして大きな弧線を描くような演奏だ。なるほど、これが山田和樹のワーグナーか、と。この調子で「パルジファル」全曲をやったらどんな演奏になるんだろう‥。

 4曲目はスクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」。わたしには、実演もCDも含めて、間違いなくこの曲の一番わかりやすい演奏だった。大きな道も細い枝道もすべてを辿りながら、道に迷うことなく、常に生き生きと道を歩むような演奏だった。
(2019.1.18.サントリーホール)

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