Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ハンス・ツェンダー

2012年10月25日 | 音楽
 読響は今シーズン、創立50周年を迎えた。その記念にドイツの作曲家・指揮者のハンス・ツェンダー(1936~)に新作を委嘱し、10月27日の定期で初演される。昨日はそれに先だってツェンダーの講演会が催された。主催は日本アルバン・ベルク協会他。

 タイトルは「現代音楽と歴史――ハンス・ツェンダー、ポストモダンの音楽を語る」。長木誠司さんが聞き手になって、ツェンダーの話を引き出すかたちで進められた。

 ツェンダーには「無字の経」、「風輪の経」など日本と結び付いた曲がいくつかある。今度の曲は「般若心經」。まさにあの「般若心經」をテクストに用いたそうだ。その点についてはこう語っていた。

 「般若心經はもう何十年も知っています。3種類のドイツ語訳を持っています。自分にとって重要なテクストなので、曲を付けようと思いました。日本的な雰囲気を作ろうと思ったわけではありません。このテクストを自分のものにしようと思ったのです。」

 以前、「無字の経」について、ユン・イサンから「君はまさかこれが日本的な音楽だとは思っていないだろうね」といわれたそうだ。そしてこう語っていた。「もちろん思っていません。ヨーロッパ人の主観で日本のテクストに対峙したのです。日本という別の文化に発生した巨大なテクスト、それにたいして自分がどう反応するか、です。」

 「モダン(例えばシェーンベルク)は音楽を進歩と考えていました。それが壊れてからの音楽(=ポストモダン)は複数の文化があると考えます。ちがう文化にたいして反応しなければいけません。もはや発展はどこに行くかわかりません」と語っていた。

 ただしこうも語っていた。「現代において心配なのは歴史がなくなることです。シュトックハウゼン、ノーノ、ブーレーズを否定するのではなく、大事にしなければ――。」

 ツェンダーは指揮者としても高名だ。現代音楽だけではなく、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンなども振っている。それについてはこう語っていた。「演奏家はインタープリター(解釈者)といわれますが、作曲家もインタープリターなのです。過去の遺産をどう受け取るかです。」

 予定の2時間があっという間に過ぎた。長木誠司さんはツェンダーがオーケストラ用に編曲したシューマンの「幻想曲」のCD(これは名盤だ!)を用意していたが、時間が足りなかった。
(2012.10.24.東京大学駒場キャンパス18号館)

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