Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

東京都美術館「印象派 モネからアメリカへ」展

2024年02月29日 | 美術
 東京都美術館で開催中の「印象派 モネからアメリカへ」展は、印象派の絵画がヨーロッパ各地、アメリカそして日本にどのように伝わったかを辿る展覧会だ。展示作品のほとんどはアメリカのウスター美術館の所蔵品。ウスターはマサチューセッツ州の(ボストンに次ぐ)第二の都市だ。

 コロー、ピサロ、モネの上質の作品が来ている。それぞれの画家のエッセンスが凝縮されたような作品だ。どれもウスター美術館の所蔵品。本展のHP(↓)に画像が掲載されている。

 だがもっとも感銘を受けたのは、アメリカ印象派の作品だ。初めて名前を知る画家たちの作品が新鮮だ。なかでもメトカーフ(1858‐1925)の「プレリュード」とグリーンウッド(1857‐1927)の「雪どけ」は、本展の白眉だった。「プレリュード」は早春の山野を描く。木々の芽吹きと若草が目にやさしい。鹿が2頭いる(少し離れたところにもう1頭いるようだ)。一方、「雪どけ」はたっぷり積もった雪に明るい陽光が射す。小川の流れが清冽だ。「プレリュード」も「雪どけ」も手つかずの自然を描く。画像が本展のHPに載っていないのが残念だ。

 アメリカ印象派の画家では、ハッサム(1859‐1935)にも注目した。幸い本展のHPに画像が載っている。「コロンバス通り、雨の日」は雨に濡れた道が美しい。その道を走る馬車にピントを合わせる。一方、傘をさして歩く人々や遠景の教会は雨でかすむ。ボストンの雨の一日を永遠に留める作品だ。もう一作、「シルフズ・ロック、アップルドア島」は大海原に突き出た巨岩を描く。実際に見ると(画像で見るよりも)巨岩の量感が圧倒的だ。

 アメリカ印象派から派生したと思われるトーナリズム(Tonalism=色調主義)の作品にも惹かれた。たとえばクレイン(1857‐1937)の「11月の風景」は秋の山野を描く。霞がかかり、しっとりしている。少し寂しい。トライオン(1849‐1925)の「秋の入り日」は、なだらかな丘陵のむこうから弱々しい入り日が射す。どちらの作品も調和のとれた落ち着いた色調だ。

 会場の解説にこうあった。「南北戦争の影響を引きずった国民にとって、トーナリズムの画家が描く、陰影に富んだ情緒深い情景は、困難な近代生活に精神的な安らぎを与えてくれるものでした」と。わたしもトーナリズムの作品に惹かれたが、それは現代生活にも困難が多く、神経が疲れているからかもしれない。あまり幸せなことではないだろう。トーナリズムの作品には「癒し」の効果がある。それはどこか作り物めいたところもあるが、現代生活はそれを求めている。
(2024.2.6.東京都美術館)

(※)本展のHP
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