Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

角田鋼亮/日本フィル

2021年11月06日 | 音楽
 若手指揮者ながら着々と足場を固めている角田鋼亮(つのだ・こうすけ)の日本フィル定期への初登場。プログラムは後述するようにウィーン・プロだが、たんなる観光用のウィーンではなく、プロイセンとの戦いに敗れ、またナチス・ドイツに併合された負の歴史をもつウィーンだ。小宮正安氏のプログラム・ノーツにより、演奏曲目の時代背景が説かれ、演奏会全体から没落のウィーンの最後の後光が射すようだった。

 1曲目はヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「ウィーンの森の物語」。当時、オーストリアはプロイセンとの戦いに敗れ、人々は意気消沈していた。そのときヨハン・シュトラウスⅡ世は「美しく青きドナウ」など一連のワルツを書き、人々を励ました。そのひとつが「ウィーンの森の物語」だと、小宮正安氏は説く。

 周知のように、この曲には民族楽器のツィターが使われるが、河野直人の弾くツィターの鄙びた音色と、なんともいえない、崩れた、のどかな歌いまわしが、会場をウィーンの世界に変えた。それにくらべると、オーケストラの演奏は生真面目だったが、その対照がかえってツィターを引き立たせたともいえる。

 2曲目はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。ユダヤ系だったコルンゴルトは、ナチス・ドイツがオーストリアを併合すると、アメリカに逃れた。アメリカでは映画音楽で成功したが、その合間に精魂傾けて作曲したのがヴァイオリン協奏曲だ。

 ヴァイオリン独奏は郷古廉(ごうこ・すなお)。かぎりなく甘く美しいこの曲を、甘さ控えめに、むしろストレートに演奏した。アンコールにハイドンの弦楽四重奏曲「皇帝」から第2楽章をクライスラー編曲で弾いた。ウィーン・プロにふさわしい選曲で、なるほどな、と思った。

 3曲目はフランツ・シュミットの交響曲第4番。出産後に急死した娘を追悼する曲といわれるが(そして、それはそうなのだろうが)、1932年から翌33年にかけて作曲されたその時期は、ヒトラーがドイツで政権を取る時期に重なる。ヨーロッパ中が緊張していたが、とりわけオーストリアの緊張は他国の比ではなかったろう。この曲にはその緊張が投影されている。一作曲家をこえた時代相が投影された曲だ。

 演奏はアンサンブルがよく練られ、うねるような表現をもつものだった。オーケストラと指揮者のこの曲にかける思いと準備が伝わった。わたしには端正な造形を聴かせるイメージがあった角田鋼亮の、思いがけない本領にふれる思いがした。トランペット、ホルン、チェロ、イングリッシュホルンなどのソロもよかった。
(2021.11.5.サントリーホール)
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