Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

松平頼暁「The Provocators~挑発者たち」

2018年12月22日 | 音楽
 松平頼暁(1931‐)がオペラを書いた。そのこと自体はすでに公表されていたが、そのオペラを上演しようとする人々がいて、本来は室内オーケストラのオペラだが、まずピアノ・リダクション版(小内將人作成)で上演された。題名は「The Provocators~挑発者たち」。台本は作曲者自身が英語で書いた。

 ストーリーは――ある架空の軍事独裁国での話。抵抗運動を続けるグループ(男1人と女2人)が隠れ住むアジトに、抵抗運動に加わるために男が1人現れる。徹底した監視体制のもと、性さえ厳しく管理される社会だが、新参者の男と女たちは欲情に溺れる。秘密警察官が時々訪れて賄賂を要求する。抵抗運動を続けるグループは、じつは国が軍備や警察力を増強するための口実に利用されていた。

 と、そう書くと、いかにもシリアスな話に見えるが、実際はそうでもない。シリアスな含意があるのかもしれないが、それを打ち消すようなコミカルな展開になっている。

 演奏時間は約1時間。その中で3曲のアリアがある。それらのアリアが中心になったオペラ。まずアリアが書かれ、次にそれを組み込んだオペラが構想された。それら3曲のアリアがおもしろい。ソプラノのためのアリアが1曲、アルトが1曲、バリトンが1曲。とくにバリトンのアリアがおもしろい。不思議な音楽だ。

 そのバリトンのアリアでは、ピアノは4拍子で書かれているが、「歌のパートはすべて4泊5連です。しかも1フレーズは5連符6つ分なので、ピアノとのリズムの関係は極限まで複雑になります。」(バリトン・パートを歌った松平敬のFacebookより)。その不思議な感覚は、体感しないとわからないかもしれない。

 オペラは「1980~2008年に作曲されているが、大部分の曲の作曲年代は2008年の2~8月である。」(プログラムに掲載された松平頼暁の「解説」より)。だとすると、ピアノ独奏曲「24のエッセーズ」(2000~2009年)と同時期だ。わたしは「24のエッセーズ」の透明感と硬質なリリシズムに惹かれているのだが、それと同じ要素がオペラにもあったのか。

 演奏は、ソプラノ太田真紀、アルト薬師寺典子、テノール琉子健太郎、バリトン松平敬、バス米谷毅彦、ピアノ藤田朗子、指揮杉山洋一で献身的な演奏だった。

 2020年には本来の室内オーケストラ版の上演を目指しているとのこと。
(2018.12.21.イタリア文化会館)
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