Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

瀬戸内の旅(2):大久野島

2018年01月09日 | 身辺雑記
 翌日は瀬戸内海の小島、大久野島(おおくのしま)に渡った。周囲4.3kmのこの島は、島全体が国民休暇村になっている。この島で2泊した。予約時には、2泊もして何もすることがないのではないか、と懸念したが、そんなことはなかった。

 この島には推定で700羽のウサギがいる。それらのウサギが、どこを歩いていても、駆け寄ってくる。ウサギの楽園。日本版のピーターラビットの世界。わたしはピーターラビットの生まれ故郷、イギリスの湖水地方に行ったことがあるが、山野を歩いていても、ウサギの姿は見かけなかった。この島は、ピーターラビットの世界が現実化した、世界中でも稀な例かもしれない。

 じつは、行くまでは、少しタカをくくっていた。ウサギといったって、そんなに可愛いか、と。だが、足を一歩踏み入れた途端、その可愛さに参ってしまった。もうメロメロ。60歳代半ばの男が、ウサギに癒された。

 この島には別の側面がある。それは戦争遺跡。わたしは迂闊にも、予約した時点ではそれを知らなかったが、この島では、戦争中に毒ガスが作られていた。島全体が毒ガス工場だった。陸軍の機密事項に属し、島は地図から消された。毒ガスは日中戦争で使われたと推定されている。

 島中に関連施設が存在したが、戦後、国民休暇村として生まれ変わる過程で、それらの多くは撤去された。しかし、まだいくつかは残っている。半ば朽ちかけた施設が点在する。それらは、戦争中にあったことを、今に伝えている。

 この島は光(=ウサギ)と影(=戦争遺跡)との両方を持った島だ。島をめぐる遊歩道を歩くと、ウサギが駆け寄ってきて、心がなごむ。また、一方では、残された毒ガス施設に暗澹とする。だが、同時に、過去にあったことを消さないで、今に伝えようとする意思を感じる。

 わたしが滞在した2日間は、国民休暇村は、家族連れで大賑わいだった。小さな子どもたちは、ウサギに大喜び。また、若いカップルも多かった。若いカップルにも、ウサギは大受けだ。そういうカップルの中には、戦争中にあったことに向き合う人もいる。

 この島を守りたい、と思った。今ある戦争遺跡を、将来にむけて残したい、と。たとえばアウシュヴィッツのように、世界遺産に登録されれば安心だが、その道のりは長くて困難かもしれない。反対する人も多いだろう。では、どうすればよいのか。わたしにできることは何だろう、と。
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