Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2017年01月21日 | 音楽
 インキネンが日本フィルの首席指揮者に就任して初めての定期。曲目はブルックナーの交響曲第8番。以前に演奏した第7番がとてもよかったので、今回も期待が膨らんだ。

 結論から言うと、第7番よりもさらに先に進んだ演奏だと思った。冒頭、低弦のつぶやきが、遅いテンポで、抑えた音で演奏された。日常的な時間を超えた超越的な時間感覚があった。ブルックナーの本質に触れる感覚だ。

 すぐにトゥッティで第1主題が確保されるが、その音はシャープではあるが、威圧的な感じがしない。続く第2主題、第3主題もしっとりとした内省的な演奏だ。第3主題の後には時間が止まるような静寂の瞬間が訪れた。わたしは茫漠と広がる丘陵にたたずむブルックナーを想像した。

 第2楽章スケルツォでは輝かしい音が交錯した。第1主題が抑えた音で滑り出すので、ゴツゴツした感じにはならず、滑らかな起伏が生まれた。第3楽章は再び遅いテンポで超越的な時間感覚の中で推移した。コーダに向けて音圧が加わり、止めようもない精神の高ぶりが現れた。ブルックナーをふくむドイツ音楽の本質の一つだと思う。

 第4楽章は第3楽章の最後を引き継ぎ、力の漲る音で演奏された。だが、威圧的なところはなく、全体を通じてのコンセプトから外れることはなかった。コーダでは、わたしは‘夜明け’を感じた。最後の音は日の出の輝きのようだった。信仰心のある人なら、神の光を感じるのかもしれない‥。

 全体的にフレッシュな演奏だった。音は柔らかく、ときには羽毛でなでるような感触があった。第1楽章や第3楽章ではとくにそうだった。音には(薄桃色とでも形容したいような)淡い華やぎがあった。それがインキネン/日本フィルの持ち味になる可能性を感じた。もしそうなったら、今までの日本のオーケストラにはない個性だ。

 同時にまた、どっしり構えた演奏でもあった。真正面からこの曲を捉えた演奏。尖った個性を売り物にするのではなく、焦らず、じっくりと曲に向き合った演奏。正攻法の演奏だった。

 インキネン/日本フィルは以前、ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」第1幕の演奏会形式上演で名演を残したことがあるが、あれは奇跡ではなかったと、(正直なところ)そう思った。今回の演奏にはあのときにつながるものがあった。新たな船出を祝いたい。
(2017.1.20.サントリーホール)
コメント (1)
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