Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サロメ

2016年03月10日 | 音楽
 世評高い「イェヌーファ」は、わたしには疑問と不安があるので(ベルリン・ドイツ・オペラの引っ越し公演のようなものをやることにどんな意味があるのかという疑問と、自主制作の体力が弱っている証拠ではないかという不安なのだが)、今度の「サロメ」で溜飲を下げる想いがした。

 サロメ役のカミッラ・ニールント、ヘロデ役のクリスティアン・フランツ、ヨハナーン役のグリア・グリムスレイの3人の歌手が強力だ。パワフルで、かつ重量級。この3人が集まればワーグナーの大抵のオペラはやれるだろうと思った。

 カミッラ・ニールントとクリスティアン・フランツはお馴染みだが、グリア・グリムスレイは初めてだった。古井戸から出てくるヨハナーンの第一声、新国立劇場の大空間に轟きわたるその声に息をのんだ。強靭な声とかなんとか、そんな月並みな表現を超えた声。端的にいって、ものが違うと思った。しかもシャープな歌唱だ。

 急遽ピンチヒッターに立ったヘロディアス役のハンナ・シュヴァルツ(「イェヌーファ」のブリヤ家の女主人役とこのヘロディアス役を連日交互に歌っている)、ナラボート役の望月哲也、小姓役の加納悦子の3人を加えた声楽陣が、密度の濃い歌唱を繰り広げた。

 指揮のダン・エッティンガーも濃厚な演奏を展開した。オーケストラ(東京交響楽団)をよく鳴らし、かつ締まりに欠けることもなかった。部分的に大きくテンポを落とす傾向も、今回はなかった。

 アウグスト・エファーディングのこの演出は、わたしは2度目だが、忘れていたことがあった。幕切れ近く、ヨハナーンの首を持って陶酔したように歌い続けるサロメから遠く離れた所で、小姓が膝を抱えてしゃがみこみ、放心したように虚空を見つめている。やがてヘロデが「あの女(サロメ)を殺せ!」と命じる。2人の兵士がサロメの両脇を押さえる。そのとき小姓が背後に回り、サロメの背中を刺した。自殺したナラボートに同性愛的な感情を抱いていた小姓は、サロメに復讐したのだ。

 このプロダクションは、プログラムには「2000年4月11日新国立劇場プレミエ」と書いてあるが、ちょっとひっかかるものがある。エファーディングはその1年前の1999年1月26日に亡くなっているからだ。演出プランが残っていたのだろうか。それとも(大道具、小道具、衣装はバイエルン州立歌劇場の製作なので)実質的にはレンタルに近いのだろうか。
(2016.3.9.新国立劇場)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする