Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

今年の回顧

2012年12月30日 | 音楽
 今年は吉田秀和さんが亡くなった。先ごろその追悼誌「吉田秀和――音楽を心の友と」が出版された。(↑)

 白石美雪さんによるロングインタビューが収録されている。吉田さんの生い立ちから最近の出来事までを辿る内容だ。なかでも戦時中の話が興味深かった。戦時中は内閣情報局に勤務していた、ということは今までも語られていたが、どういう仕事をしたかは、語られていなかった気がする。内閣情報局というと穏やかではないので、内心気になっていた。

 内閣情報局ではピアノ製造のための鋼鉄や鉄筋、ヴァイオリン製造のための弦の材料などの配給、そして音楽家が招集を免れるための、一人ひとりの理由付けをしていた――とのことだ。またそこに勤務するにいたった経緯も語られた。これらのことが語られてよかった。いわれてみれば、なあんだという感じだ。もしできることなら、国立公文書館かどこかで、当時の吉田さんの書いた文書を読んでみたい気がする。

 吉田さんの遺稿も載っている。しかも写真印刷で。欄外に「吉田用箋」と印刷された200字詰め原稿用紙。そこに青インクで書かれている。パソコンで打った原稿とちがって、ゆったりした時間が流れている。これはわたしの宝物だ。

 さて、今年はジョン・ケージの生誕100年だった。いくつかの演奏会が開かれたが、強烈な印象を受けたのは、アーヴィン・アルディッティのヴァイオリン独奏による「フリーマン・エチュード」全曲演奏会と、宮田まゆみの笙独奏による「One9」の全曲演奏会だ。どちらも、音楽としては、わからなかったが、思想として――あるいは思想の破壊として――、ものすごくインパクトがあった。

 普通の音楽――というのもヘンだが――では新国立劇場のオペラ「沈黙」(松村禎三作曲)が感銘深かった。とりわけ小原啓楼のロドリゴには打ちのめされた。「沈黙」は1993年の初演以来すべてのプロダクションを観ているが、このロドリゴは――わたしにとっては――永遠のロドリゴだと思った。

 音楽以外ではタル・ベーラ監督の映画「ニーチェの馬」に圧倒された。映画芸術の極北――という言葉があるとしたら――その苛酷な地点にたつ映画だ。一生忘れられそうもない。(↓)

http://www.youtube.com/watch?v=tmhKEuxssgw
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