Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フランクフルト:魅せられた旅人

2012年02月12日 | 音楽
 ドレスデンから帰国の途についた。いつもはSバーンで空港に向かうのだが、この日は運休だったので(工事のためか)、バスを使った。ホテルを出たのは朝6時。まだ真っ暗だった。中央駅の近くのバス停から乗車。バスだとあちこち裏通りを回るので、今まで知らなかった街の裏側を見ることができた。街路灯がまばらで、殺風景だった。まだ東ドイツのころの面影をとどめているようだった。中央駅の駅前はショッピングセンターができたりして、すっかりきれいになったが、裏側はまだのようだ。

 フランクフルトでの乗り継ぎ時間を利用して、演奏会に行った。

 演奏会はゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場の公演。曲目はシチェドリンのコンサート会場用オペラ「魅せられた旅人」だ。これは2002年にマゼール指揮ニューヨーク・フィルによって初演された作品だ。

 これが実に面白かった。全2幕休憩なしに演奏されたが、正味2時間ほどの演奏時間のあいだ、飽きることがなかった。音楽が雄弁だったからだ。たとえていうなら、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」に声楽(本作では歌手3人と合唱)が付いたような音楽だ。ただ「シェエラザード」とはちがって、ロシア正教の聖歌や鐘の音によって生まれる宗教性が、深く混沌としたロシアの精神風土を感じさせた。

 演奏もすばらしかった。むしろ、凄かった。大地を揺るがすような地響きから一本の張りつめた糸のような最弱音まで、ものすごい振幅だった。3人の歌手もすっかり役柄を手中に収め、これ以上はないくらいの歌唱だった。バスはセルゲイ・アレクサーシキン(この人は声の調子が今一つだった)、メゾソプラノはクリスティーナ・カプスティンスカヤ(女優顔負けの美貌の歌手だ)、テノールはアンドレイ・ポポフ。

 この日はドイツ初演だった。演奏終了後、ゲルギエフや歌手たちに促されて、シチェドリンが舞台に上がった。今年80歳になるが、いたって元気だ。聴衆はスタンディングオベーションで迎えた。

 コンサート会場用オペラというジャンルは、シチェドリンの創意によるのかどうか、よく知らないが、今のようなオペラの時代にあっては有望なジャンルだ。外見的には演奏会形式のオペラ上演と変わらないが、舞台を想定していない分、音楽だけで充足している。

 本作の原作はニコライ・レスコフ(ショスタコーヴィチの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の原作者)の小説だ。岩波文庫に入っているので、事前に読んでいった。これもものすごく面白かった。
(2012.2.5.アルテ・オーパー)
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