Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

こんにゃく座のオペラ「変身」

2009年09月11日 | 音楽
 カフカの小説「変身」を劇団黒テントの山元清多(やまもときよかず)さんが台本化して、林光(はやしひかる)さんが作曲したオペラ「変身」。1996年に初演され、昨日、再演の初日を開けた。東京での公演は13日まで。その後、15日に水戸芸術館で上演してから、ルーマニア(ブカレスト)、ハンガリー(ブダペスト)、オーストリア(ウィーン)、チェコ(プラハ)への旅に出るという。

 オペラがはじまると、舞台はプラハの居酒屋。カフカとおぼしき男が、新作をもって入ってくる。集まった人々が男をかこむ。男が朗読をはじめると、人々は笑う。そのうち男は「変身」の主人公グレゴール・ザムザと重なってくる。
 ストーリーはかなり忠実にカフカの原作をなぞっている。虫になったグレゴールは、もちろん人間の姿のままだが、舞台を這い回る動作や、人々のワヤワヤした手の動きで、だんだん虫らしくみえてくる。

 オペラは2幕に分れていて、第1幕は8曲、第2幕は9曲で構成されている。第1曲シャンソン、第2曲ブルース、第3曲フモレスケという具合に特徴的な音楽がつづく。楽器編成はピアノ、ヴァイオリン、クラリネット、ファゴットが各1人。基調としてはピアノが主導し、ときどきヴァイオリン独奏や、クラリネットとファゴットの2重奏がフィーチャーされる。

 林光さんの文章(プログラム誌)によれば、その音楽にはモーツァルトやラヴェルの引用、バルトークの模倣などが組み込まれているそうだが、私はあまりはっきりとは認識できなかった。むしろ、なんとなくどこかできいたことがありそうな、安心してきける音楽で、乾いた感性を感じた。それ故に第5曲ロマンスの叙情性が胸に迫った。

 グレゴールがひっそりと死に、父と母と妹が(晴れやかな気分で)郊外にピクニックに出かける場面まできて、これでオペラが終わりかなと思ったら、衝撃的なエピローグがあって、私は震えた。それを書いてもよいのだが、これからはじめてみる人のために、控えておく。ともかく、そのエピローグは、多様な読み方ができるカフカの原作にたいして、山元清多さんと林光さんが、自分たちはこう読むということを、(オペラの途中でも言及されていたが)最後に明示した瞬間だった。

 私はこんにゃく座のオペラをみるのは、これがはじめてだが、日本語がほぼ完璧にききとれることが驚異だった。しかも、日本語を西洋音楽のメロディーにのせたときの気恥ずかしさを、まるで感じないですむ。歌手の演技もきびきびしていて自然だ。日本の一角でこういうオペラが作られていたことを知らずにいた自分の怠惰を思い知った。
(2009.09.10.俳優座)
コメント (2)
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