後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔655〕『猫を棄てる』(村上春樹)、『アジア・太平洋戦争』(吉田裕)…久しぶりのブックオフでの買い物でした。

2024年01月31日 | 図書案内

 2020年からのコロナ禍の影響で、市民集会や美術館巡りで都心に出ることがめっきり減少しました。かつてなら、そのついでに池袋の書店を数軒あさってくるのですが、それも叶いませんでした。
 それに反比例して増えたのが近隣のブックオフ巡りでした。近場のブックオフをリサーチして、バイクや車で足を伸ばすのです。しかしめぼしい書籍は年々減少している印象があります。漫画コーナーやCD,BVDや様々なグッズが売り場面積を占領して、本が肩身を狭くしているのです。しかも学術的な本が少なく、本を購入することが稀になってきています。数回に1回ぐらいの購入でしょうか。

 昨日とあるブックオフに足を運んで、久しぶりに2冊の本を買いました。いずれも安価であれば購入したいと思ってきた本でした。『猫を棄てる』(村上春樹、文藝春秋社)、『アジア・太平洋戦争』(吉田裕、岩波新書)です。

   

 早速手に取ったのが『猫を棄てる』でした。村上作品についてはテレビで映画「ノルウェーの森」を観たぐらいで、特にお気に入りという訳ではありません。しかしこの『猫を棄てる』はなんだか気になる本でした。おそらく初めて父親を通して戦争を語っているという評判だったからです。まさにコロナ禍に突入した2020年4月に刊行された本です。比較的新しい本なのでブックオフでもけして安くはありませんでした。ところが昨日は実に安価の値がついて陳列されていました。
 カードで買うにはあまりに安いので、もう1冊「道連れ」にする本を探しました。それが『アジア・太平洋戦争』(吉田裕)です。吉田さんは名著とも言える『日本軍兵士』(中公新書)を書いた方です。『アジア・太平洋戦争』も読みたかった本でした。

 『猫を棄てる』は新書版サイズで100頁ほどのさっと読める本でした。ノーベル賞候補に何度も挙がるほどの作家だけあり、平易な文章で読みやすく、ぐいぐい引き込まれる文章構成にはうならざるを得ませんでした。
 親近感を持ったのは、村上さんが私と同じ1949年(昭和24年)生まれで、父親が1917年(大正6年)生まれだということでした。私の父親は1916年(大正5年)生まれでこちらも似たような境遇でした。
 さすがに一流の作家だと思わせられたのは、父親について丁寧に調べ上げて、想像力を駆使しながら説得ある文章を書いていることです。私は自分の父親について書こうと思ったことがあるのですが、これだけの内容と厚みのある文章は当然のことながら書きようもありません。
 
 父親の戦争責任についてのくだりがこの本の白眉だと思いながら読んだのですが、ネタバレになるのでここでは書きません。手にとって読まれることをお勧めします。
 題名の『猫を棄てる』に関して猫の実話が2つ、最初と最後に書かれています。父親となぜか母猫を棄てに行くという話と猫が高い木に登ったきり降りてこなかったという話です。

 文中に吉田裕さんの『日本軍兵士』の一節が引用されています。『猫を棄てる』と『アジア・太平洋戦争』を同時に購入したこと、妙な因縁を感じた1日でした。

 最後に1つ。『猫を棄てる』を読み終えて、かつて読んだ『生きて帰ってきた男・ある日本兵の戦争と戦後』(小熊英二、岩波新書、2015年)のことを思い出しました。社会学者が自分の父親の人生をかなり客観的に描き尽くした秀作でしたが、両者を対比してみるのもおもしろいかも知れません。

「とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の日本の生活面様がよみがえる。戦争とは、平和とは、高度成長とは、いったい何だったのか。戦争体験は人々をどのように変えたのか。著者が自らの父・謙二(一九二五-)の人生を通して、「生きられた二〇世紀の歴史」を描き出す。」(『生きて帰ってきた男・ある日本兵の戦争と戦後』岩波書店のサイトより)
 

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