モリエール(本名:ジャン・バティスト=ポクラン/1622~1673)は、イギリスのシェークスピアと並び称されるフランスの喜劇作家で俳優です。代表作は、「人間嫌い」「守銭奴」「タルチュフ」など。そんな彼の若き日を素材にした作品が「モリエール/恋こそ喜劇」(3月6日公開)だ。でも、この作品は伝記映画でも、歴史劇でもない。旗揚げをした劇団が破産の危機に見舞われていた、モリエール22歳のときの数か月、彼の伝記中、空白期とされている時代を、想像の翼を広げて埋めようとした伝記的フィクションである。
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監督・脚本を手がけたのは、アメリカで映画を学び、本作が演出2作目にあたるローラン・ティラール。借財に追われるモリエールが金持ちの商人の演劇指南役になり、その奥方と恋におち、彼女から劇作の才能を認められる、という物語を創りあげた。いわば、下積み時代から才能開花まで、一青年の苦悩と脱皮の時代をとらえた青春映画でもある。加えて、商人に雇われたモリエールがタルチュフという名の司祭に身をやつすのをはじめ、登場人物にモリエール作品のキャラクターが組み合わせられている点も見どころだ。
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このモリエールを演じるのが、「ルパン」「真夜中のピアニスト」などで強烈な個性を発揮したフランスの俳優ロマン・デュリス。自分の恋を成就させるためにモリエールに演劇指南を請うムッシュ・ジュルダン役に、「恋愛小説ができるまで」などの性格俳優ファブリス・ルキーニ。また、モリエールと恋におちるジュルダン夫人に、イタリア出身で「息子の部屋」「モンテーニュ通りのカフェ」などのラウラ・モランテ。製作当時、50歳を過ぎていた彼女の、ふくよかな容貌と肢体、そこからにじみ出る知性が魅力的だ。
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映画の原題は「モリエール」だが、日本題名につけられた「恋こそ喜劇」そのままに、登場人物の奔放な愛が艶笑譚の形で展開されていくところが、いかにもフランス映画らしい。魅力的な妻をさしおいて、若い侯爵夫人(リュディヴィーヌ・サニエ)に心を奪われ、貴族にあこがれるジュルダン。若いモリエールの才能に心をふるわせるジュルダン夫人。気に染まない相手と結婚させられようとする彼らの娘。そして、虚飾に彩られた華麗な貴族社会。こうしたモリエールの作品に登場するようなキャラクターと素材を織り交ぜて、彼の空白期をドラマとして再現、その素顔に迫る巧みなドラマ作りがユニークです。
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