わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

宇宙人が難民に!? リアルSF「第9地区」

2010-04-05 18:26:45 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img256 都市の上空に浮かぶ巨大な宇宙船、その下の隔離地区には「人類、立入禁止」という標識が…。こんなポスターやチラシで話題を呼んでいるのが、アメリカのSF映画「第9地区」(4月10日公開)です。南アフリカ共和国の都市ヨハネスブルグ上空に、正体不明の宇宙船が出現。乗組員であるエイリアンが難民として降り立ったことから、人類との共同生活が始まる。それから28年後、増え続ける犯罪に、市民とエイリアンとの争いが絶えず、共同居住区“第9地区”はスラム化する。やがて超国家機関MNUが、エイリアンを強制収容所に移住させる計画を立て、ヴィカスという男に任務を託す。だが、彼が立ち退きの通達をして回る間に奇妙な事件に遭遇、それが想像を絶する戦いに発展する…という物語だ。
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 この作品のプロデューサーは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでヒットメーカーとなったピーター・ジャクソン。監督・脚本(共同)を手がけたのは、南アフリカ出身の新鋭ニール・ブロムカンプ。有名スターは出演しておらず、監督は無名、製作費は3,000万ドル、加えて従来のハリウッド映画とは異なるリアルSF。ということで絞り出された案が、上述のイメージ広告だったという。その結果、マイナー映画がアメリカで大ヒットを記録。アカデミー賞では、作品・脚色・編集・視覚効果の4部門にノミネートされた。なんといっても、膨大な数のエイリアンが地球で難民として隔離されるという発想がユニーク。更に、ドキュメンタリーかニュース・フィルムを思わせる映像が臨場感を生んでいる。
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 このドラマは、1990年代前半まで南アフリカで行われていた人種隔離政策(アパルトヘイト)を思わせます。言葉が通じず、野蛮で不潔な膨大な数のエイリアン。彼らは下級市民としてさげすまれ、甲殻類に似た外見から“エビ”という蔑称で呼ばれる。だが製作陣は、直接アパルトヘイトを意識したつもりはなく、国際的な広がりを持つテーマだという。またブロムカンプ監督は、SF映画の往年の名作と、ヨハネスブルグで過ごした子供時代からインスピレーションを得たとか。いずれにしても、手持ちカメラによる生々しいドラマ部分に、ドキュメンタリー映像や本物のニュース映像がミックスされ、現実とフィクションの垣根を取り除いたような、実況中継を思わせる展開に、思わず、のけぞってしまいます。

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ハナニラの群生


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