デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

月光のいたずら

2017-05-21 10:00:34 | Weblog
 月食の晩に男女7人が集まり、テーブルを囲む。アメリカ映画ならオーシャンズよろしく金庫室の図面を広げてカジノ強盗の計画が練られるシーンだ。イギリス映画ならアガサ・クリスティが原作でなくても殺人事件が起きる。フランス映画なら女を巡って口論になり、主人公が「勝手にしやがれ」と捨て台詞を吐いて出ていく。ドイツ映画なら場所は地下で、反ナチ運動の集会になるだろう。

 さて、イタリア映画「おとなの事情」はというと幼馴染みがパートナーを連れてホームパーティーに集まる。月食を眺めながら楽しい食事会になるはずが、スマートフォンに掛かってくる電話やメールをみんなの前で披露するという所謂、信頼度確認ゲームが提案されたものだから美味しい料理も喉を通らなくなる。夫婦の間や友人に隠し事がなければ何の問題もないが、それぞれに秘密を抱えているものだから自分のスマホが鳴ると動揺を隠せない。ネタバレになるのでこれ以上書けないが、月食による月影の変化が心模様を映しているようでなかなかに面白い。

 月が映るたび、♪Ooh, ooh, ooh と頭に流れたのは「What A Little Moonlight Can Do」だ。アメリカ映画なら決定的名唱のビリー・ホリデイ、イギリス映画なら紳士のトニー・ベネット、フランス映画なら艶っぽい八代亜紀、ドイツ映画ならカチッとしたカーメン・マクレイ、そしてイタリア映画なら陽気なナンシー・ウィルソンとなる。月明かりの魔力で恋に落ちる女心をアップテンポで歌うナンシーのバックは5月の男ビリー・メイだ。2ビートから4ビート、ラストコーラスでテンポを半分に落としているのでメリハリがあるし、アンサンブルとの掛け合いが素晴らしい。ビッグバンドがよく似合うナンシーである。

 誰にでもパートナーや友人に言えない秘密はあるものだ。色恋でなくても日曜日に家族との約束をほったらかし、仕事だと言って早朝からゴルフに出かけたり、高価なオリジナル盤を予約したりと隠しておきたいことがある。そんな時に限って雨が降りそうだから止めようよ、という電話が入ったり、ブルーノートの63rdが入荷しました、5万円です、というメールが着信する。スマホが鳴るのは月光のいたずらかも知れない。
コメント (6)
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