デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

脚韻を踏んだ All of You

2014-05-11 08:51:31 | Weblog
 ♪ I Iove the looks of you, The lure of you, The sweet of you, The pure of you…君の表情、魅力、愛らしさ、純粋さが好きだ、という歌詞は「All of You」のコーラスだ。タイトルの「you」にちなんで脚韻を踏んでいる。わかりやすい歌詞の典型的なラヴソングだが、意外にも詞を書いたのはコール・ポーターで、皮肉屋として知られるポーターには珍しく素直でストレートな歌詞だ。

 作曲したのは勿論ポーターで、一度聴いたら忘れないほど印象的なメロディを持っている。歌詞は続く...The eyes, the arms, the mouth of you…目も腕も口も好きだ。と、ここまでは恋人を褒める常套句としても次の詞はユニークだ。The east, west, north and the south of you…東西南北から見た君が好きだ。どこから見ても文句の付けようのない恋人ということか。情熱的というより、少しクールな目で女性を見ていたポーターらしさのある歌詞だ。シンガーなら一度は歌う曲で、ヴァージョンは数知れずだが、ポイントはこの何度も出てくる「you」にあるだろう。

 アニー・ロスはこの曲がお気に入りのようで、58年録音の「Sings A Song With Mulligan」でも取り上げていたが、63年の「Sings a Handful of Songs」は、ヴァースから丁寧に歌っている。ランバート、ヘンドリックス&ロスを脱退した直後、生まれ故郷のイギリスで録音したものだ。プロデュースは映画007シリーズで有名なジョン・バリーで、英国紳士らしくきっちりとスマートにまとめている。オーケストラをバックにしたロスは気持ちよさそうに歌っていて、肝心の部分も「You」、「yOu」、「yoU」と微妙に変化を付けるあたりはさすがだ。

 ポーターは同性愛者だったが、パリで知り合った離婚歴のあるリンダ・トーマスと結婚している。今は同性婚も認められている国もあるが、当時はタブーとされていたそのことをリンダに嫌われる覚悟で告白したら素直に受けとめたという。ポーターが曲だけでなく、愛の詞を書いたのは良き理解者であるリンダに捧げたものかもしれない。
コメント (10)
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