デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

コルトレーンのチム・チム・チェリーが聴こえた

2014-05-04 09:21:54 | Weblog
 主演女優賞や作曲賞などアカデミー賞5部門を受賞した1964年のディズニー映画「メリー・ポピンズ」の製作背景を描いた「ウォルト・ディズニーの約束」という映画を観た。本物のウォルトかと思うほどのはまり役だったトム・ハンクスと、エマ・トンプソン演じるイギリスの女性作家トラバースの映画化をめぐる交渉は、それぞれの国を象徴するディテールがちりばめられていて興味深い。

 「メリー・ポピンズ」といえば歌曲賞に輝いた「チム・チム・チェリー」のメロディが頭を過ぎるが、それはジュリー・アンドリュースが歌ったものではなく、コルトレーンのソプラノ・サックスだ。録音は1965年5月で、コルトレーン芸術の頂点ともいえる1964年12月に録音された「至上の愛」の次作になる。さらに翌月の1965年6月には大きく方向を変えた「アセンション」が録音されている。最早従来のファンは理解できない世界に突入するわけだ。「至上の愛」から「アセンション」との間にディズニーの作品を選んだ理由は一体何だったのだろう。

 よく「チム・チム・チェリー」は、愛奏曲である「My favorite Things」 の二番煎じと言われる。ともにミュージカルを代表する美しい曲で、3拍子という共通点、さらにソプラノで演奏したのでそんな印象が強い。「Quartet Plays」を境とし、以降棘の道を行くコルトレーンは、ソプラノに於ける表現の完結として「チム・チム・チェリー」を選んだのではなかろうか。ソプラノ・サックスはテナーと同じ調性のため、持ち替え楽器として使用されるが、コルトレーンは全く違う楽器として扱ったのかもしれない。持ち替えでここまで楽曲を追及した深い表現はできない。

 映画では「メリー・ポピンズ」の全曲を書いたシャーマン兄弟とトラバースのやりとりを面白く描いていた。歌詞をメロディに乗せるため造語を使うと、そんな言葉はイギリスには存在しないと女史はクレームを付ける。単語一つにもクイーンズ・イングリッシュを大事にするお国柄なのだろう。そういえば、コルトレーンのイギリス盤は「My favourite Things」のスペルだった。
コメント (7)
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