デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジス・イズ・ホンダ

2006-01-15 10:47:25 | Weblog
 平岡正明さんの77年の著書「戦後日本ジャズ史」の一節に、『彼は口数のすくない男だ。口数はすくないが、登場した瞬間から、ピアノに向って、自分はなぜジャズをやるのかをいつも問いつづけてきたようにきこえる。それが彼のジャズの志の高さであり、一貫して変わることがない。』と書かれている。

 クラシックを捨ててジャズの道に進んだ人は多い。一度ジャズの麻薬的魅力を知ってしまうと、より黒人のブルース感覚に近づこうとする。彼も若い頃、より黒っぽい音を探していた。ライブ後の打ち上げで彼が、「昔、俺の感覚は黒人にかなり近いと思っていた。けれど俺どうしようもなく日本人だしさ。黒人になろうなんてのはとっくに卒業したね。」と優しく笑っていたのは97年の夏だった。

 13日に友人からのメールで、彼、本田竹広さんの死を知った。本田さんの演奏を最後に聴いたのは、01年のトリオ。この時は体調も良く、回復に向かっていただけに残念だ。97年には当地でスリー・デイズ・ソロ・ライブを開いた。透析を続けながらのライブで、三日に渡って病を撥ね付ける熱い音に酔った日を思い出す。新宿ピットインで何度も演奏したであろう「ボヘミア・アフター・ダーク」を、小生のリクエストに応えてくれた。黒人ではなく日本人の、そして本田さん自身の自信溢れるフレーズに唸った。

 零れ落ちそうになる涙を堪えて、黒人になろうというのを卒業する前の「ジス・イズ・ホンダ」に静かに針を下ろしてみよう。クラシックを捨てた彼の、より黒っぽいフレーズが、あの優しい笑顔と共に甦ってくる・・・合掌
コメント (5)
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