ウォール・ストリート・ジャーナル 3月16日(水)10時52分配信
東北関東大震災後、福島原発問題の状況を追ってきたが、日本という国は、これほどの震災に遭っても現状を受け止め、インターネットなどを駆使して情報を共有し助け合い、節電にも最大限協力している立派な国民を有するのに、政府と東京電力の対応は「最悪」といわざるを得ない。
「津波の二次災害や余震は、覚悟の上だが、放射能に汚染されるのは、地震よりも恐ろしい」
ニューヨークから、被災地に救援に向かうボランティアや非営利団体(NPO)関係者からこうした声が聞かれる。こうした声が上がるのは、日本から伝わってくる東電や政府の情報開示、さらに対応が十分ではないと米市民やメディアが感じている背景がある。
福島原発では、1号機の爆発事故に始まり、2号機、3号機で水素爆発、そして4号機で火災と、世界の原発事故史上、類を見ない深刻な事態に陥っている。原発のニュースは、地震発生の直後から、世界中の注目を浴びている。
しかし、菅直人首相を本部長とする政府と東電の「福島原発事故対策統合連絡本部」が設置されたのは、地震発生から5日目の15日。当初も、東京電力から首相官邸へ、福島第一原発の最初の爆発事故の連絡が遅れた。
さらに、政府当局、東電ともに、爆発事故の詳細を明らかにせず、放射性物質の漏出している可能性をなかなか認めたがらなかった。
しかも、原子炉冷却のための海水の使用は米国の関係者を驚かせた。「海水の注入など聞いたこともない、よほどの緊急事態」(米専門家)という反応だ。
この間、米国から救援を計画していたボランティア関係者は、「日本からの情報はあてにならない」として、CNNや英 BBC、そして米海軍の動きを見ながら、準備を進めている。
その関係者にショックを与えたのが、米海軍第7艦隊空母ロナルド・レーガンの動きだ。ロナルド・レーガンは福島原発の沖160キロの海域で活動していた。しかし、仙台市付近で救援活動を実施し、空母に戻ったヘリコプターの乗務員から「低レベル放射性物質」が検出された。このため、第7艦隊は、ロナルド・レーガンを福島原発の風下から移動させた。
現在、住民が避難しているのは1号機から半径20キロ以内の地域だが、空母は160キロ地点にいても、風下から「避難」したという。しかも、ヘリコプター乗務員から低レベルの放射性物質が検出されたということは、大気中に放射性物質が散乱しているという証拠だ。
米原子力規制委員会(NRC)は12日、すでに、原子炉の専門家二人を日本に派遣。また、オバマ大統領は11日の記者会見で、エネルギー長官に福島原発の経過を注意深く見守り、日本当局と連絡を取り合うよう、指示をしたと発表した。
米市民の問題意識はこうだ。
放射性物質の漏洩の可能性があるという時点で、なぜもっと広範囲の地域住民を避難させないのか。放射性物質の漏出の可能性があるということを、ボランティアなどの渡航者になぜ知らせないのか、ということだ。
15日の記者会見で、菅直人首相は「放射性物質の漏出の危険が高まっている」とし、枝野官房長官も「原発敷地内の放射性物質のレベルは、身体に影響のある数値であることは間違いない」と認めた。たが、この発言は、12日にも「警戒情報」として発表されるべきだったのではないか。また、東電からも住民にもっと警鐘を鳴らすべきだったのではないか。
米国では1979年、ペンシルベニア州スリーマイル島の原発事故が起きて以来、原発建設を30年も見合わせている。オバマ政権は、原発がクリーンエネルギーの代表として、建設再開を打ち出していただけに、福島原発の状況にかなりの関心を寄せている。
それだけに、テレビニュースなどに出演する専門家たちは首をひねる。
「地震大国の日本でなぜ、政府や電力会社の危機管理の意識が進んでいないのか」
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津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文芸春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出 版賞審査員特別賞受賞
「津波の二次災害や余震は、覚悟の上だが、放射能に汚染されるのは、地震よりも恐ろしい」
ニューヨークから、被災地に救援に向かうボランティアや非営利団体(NPO)関係者からこうした声が聞かれる。こうした声が上がるのは、日本から伝わってくる東電や政府の情報開示、さらに対応が十分ではないと米市民やメディアが感じている背景がある。
福島原発では、1号機の爆発事故に始まり、2号機、3号機で水素爆発、そして4号機で火災と、世界の原発事故史上、類を見ない深刻な事態に陥っている。原発のニュースは、地震発生の直後から、世界中の注目を浴びている。
しかし、菅直人首相を本部長とする政府と東電の「福島原発事故対策統合連絡本部」が設置されたのは、地震発生から5日目の15日。当初も、東京電力から首相官邸へ、福島第一原発の最初の爆発事故の連絡が遅れた。
さらに、政府当局、東電ともに、爆発事故の詳細を明らかにせず、放射性物質の漏出している可能性をなかなか認めたがらなかった。
しかも、原子炉冷却のための海水の使用は米国の関係者を驚かせた。「海水の注入など聞いたこともない、よほどの緊急事態」(米専門家)という反応だ。
この間、米国から救援を計画していたボランティア関係者は、「日本からの情報はあてにならない」として、CNNや英 BBC、そして米海軍の動きを見ながら、準備を進めている。
その関係者にショックを与えたのが、米海軍第7艦隊空母ロナルド・レーガンの動きだ。ロナルド・レーガンは福島原発の沖160キロの海域で活動していた。しかし、仙台市付近で救援活動を実施し、空母に戻ったヘリコプターの乗務員から「低レベル放射性物質」が検出された。このため、第7艦隊は、ロナルド・レーガンを福島原発の風下から移動させた。
現在、住民が避難しているのは1号機から半径20キロ以内の地域だが、空母は160キロ地点にいても、風下から「避難」したという。しかも、ヘリコプター乗務員から低レベルの放射性物質が検出されたということは、大気中に放射性物質が散乱しているという証拠だ。
米原子力規制委員会(NRC)は12日、すでに、原子炉の専門家二人を日本に派遣。また、オバマ大統領は11日の記者会見で、エネルギー長官に福島原発の経過を注意深く見守り、日本当局と連絡を取り合うよう、指示をしたと発表した。
米市民の問題意識はこうだ。
放射性物質の漏洩の可能性があるという時点で、なぜもっと広範囲の地域住民を避難させないのか。放射性物質の漏出の可能性があるということを、ボランティアなどの渡航者になぜ知らせないのか、ということだ。
15日の記者会見で、菅直人首相は「放射性物質の漏出の危険が高まっている」とし、枝野官房長官も「原発敷地内の放射性物質のレベルは、身体に影響のある数値であることは間違いない」と認めた。たが、この発言は、12日にも「警戒情報」として発表されるべきだったのではないか。また、東電からも住民にもっと警鐘を鳴らすべきだったのではないか。
米国では1979年、ペンシルベニア州スリーマイル島の原発事故が起きて以来、原発建設を30年も見合わせている。オバマ政権は、原発がクリーンエネルギーの代表として、建設再開を打ち出していただけに、福島原発の状況にかなりの関心を寄せている。
それだけに、テレビニュースなどに出演する専門家たちは首をひねる。
「地震大国の日本でなぜ、政府や電力会社の危機管理の意識が進んでいないのか」
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津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文芸春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出 版賞審査員特別賞受賞